盤上遊戯 2
「次に会ったのはクランフェル様が王宮に招致された日です。」
クランフェル様は王族の方からも信頼の厚い立派なお方。時折王宮へ招かれては相談に乗り、王族の力になられている。
そんなクランフェル様がいなければ、この研究室も開いていないので私は帰ろうとしたところにレアルガード様は現れた。
元宰相であるレアルガード様は身分も高く、ホイホイと私のような学生、ましてや平民の前に現れてはいけないのではと思ったけれど、『前に約束しただろう?』と御本人から言われてしまえば、私に断る術はない。
盤上遊戯はその時に教わった。
『エイレア嬢は筋がいいな。』
『ありがとうございます。あ、チェックです。』
『ん!?…んんんんぬぬぬ…』
勝負を重ねる度に楽しくなって、夕食までご一緒した私をレアルガード様の護衛の方は珍獣を見るような目で見てきたけれど、夕食がとても美味しくて気にならなかった。
『また会おう』と言い残したレアルガード様と次に会ったのはつい最近だ。
「この具現魔法を教えてくださったのは、先日の公開魔法試験の時です。」
「い、5日前…」
全生徒が合同で行われるこの試験は実技の授業の免除に大きく関わるので、私も頑張った。
研究室は長の許可があれば、免除されて空いた時間を研究室で過ごすことができる。私は試験の前日クランフェル様に『勝つので来ていいですか!?』と詰め寄って、許可をもぎ取ったのだ。
「入学試験は主席、魔法試験は多くの上級生を差し置いて3番、授業免除は実技全般で…エイレア嬢、本当に何でスキップしないんだ?」
「何度も言ってますけど、クランフェル様が居られるからです。クランフェル様を好きで、お傍に居たいから研究室に少しでも居たいんです!」
私の言葉に『まただ…』というお顔を見せたクランフェル様は「まあ良い。それでレアルガードは?」と何時もどおりに私の言葉を流される。
「試験の来賓として来ておられて、上位者に個人的にお言葉をくださるということで。」
主席、次席の先輩方は『何でそんなに平然としていられるんだ!?』と震える体を必死に擦って私に疑問をぶつけておられたけど、『2回ほど会っているので』なんて言えず、笑うしかなかった。貴族の方でも緊張ってあるんだなあと学んだ瞬間でした。
順番に一人ずつ個室に入って、出てくる先輩方は尊敬する偉人を前に興奮した様子で帰っていき、私の番になって個室に入ったら『まず自己紹介だ!!』といきなりレアルガード様の怒声が。
『出来ることを述べろ!!』何の面接だと思ったけれど、そう言えば会ってすぐにクランフェル様のお話に変わったから、私のことは何も話していなかったなと思い立った。
『魔法学校一年、魔法薬学専攻、クランフェル研究室所属のエイレア・カルティーです。』
『魔法薬学専攻であの攻撃魔法の威力はおかしい!!すぐに魔法戦闘専攻に移せ!!』
『才能が潰れる!』とか『こんな原石が何で隠れていた!!』とか言われたけれど、クランフェル様に会うために魔法薬学を専攻したのに移ってしまっては意味がないと断固拒否。
「専攻を変えるか否かを賭けた勝負をするために、レアルガード様がこの魔法をお使いになって。」
「学生との勝負のために具現魔法なんて貴重なものを使ったのかアイツは…」
「元気ですよね。ハンデに好きな駒を2つ抜いてくださったので私でも勝てました。」
僧侶と騎士を抜いてもらって、勝負は無事勝利。盤上遊戯をしている内に頭が冷えたのか、終わった時にはこの具現魔法を教えてくださった。
『極めれば己の身一つで戦場へ飛び込めるぞ』と物騒なことを言われたけれど、極めるつもりなんて無いので笑って躱しておいた。
「頑張りましたよ。私はクランフェル様のお傍を離れるわけにはいかないので。」
「そうか。」
素っ気なく返され、クランフェル様は自身の駒をコン、移動させたのだけれど、私はその駒の動きに目を見開く。
「クランフェル様…今、動揺してくださいました?」
「何を言っているんだ。」
呆れたその顔に本心を見ることは出来ない。
けれど私はクランフェル様が少しでも動揺したのではと勝手に喜びながら、クランフェル様が守護する王の前に女王を置いた。
「チェック、です。」
私の言葉にクランフェル様は飲もうとされていた手を止めて盤上を凝視する。女王を取れば塔が狙う布陣を敷けた私はクランフェル様に勝てた喜びでいっぱいだ。
「勝ちですよね!?」
「…休憩は終わりだな。」
「あ!クランフェル様!!私の勝ちですよ!!」
「さあ次は鎮静剤でも作るか。」
誤魔化そうとするクランフェル様の往生際の悪さに、見えたクランフェル様の悔しそうな横顔に、目の前にいる方が200歳も離れているなんて忘れてしまいそう。
「クランフェル様…かわいい!」
「は!?」
どんな貴方も、好きです。