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盤上遊戯

3日連続で投稿します。

お楽しみいただければ嬉しいです。



エルフは長寿と聞いたけれど、人間と比較すると十倍ほど長いらしい。それに比例して老いも遅く、人間が一生を終えるくらいならばエルフの皆様は全く変わらぬ容姿でお過ごしになるのだとか。






「クランフェル様、つかぬ事をお伺いしますが今お何歳ですか?」


「216だ。それよりユランテムの魔力抽出。」





人間で換算すると21か22くらいと想像し、あらやだ5つしか変わらない。


貴族が政略結婚で30近い年の差で添い遂げるのと、年齢詐欺な旦那様の変わらぬ美貌を眺めて老いるのと、どちらが良いだろう。考えながらユランテムという白い拳大の実に魔力を込めて毒素を抜く。ついでに次に使用するであろう魔石にも魔力を注いでおいた。





「クランフェル様、5歳差って平民では一番丁度いい年の差って言われているんですよ?」


「私とエイレア嬢のことを言っているなら、200歳の差は絶望的だな。魔石は砕いてくれ。」





私のアピールもクランフェル様には通じることなく躱されるので、遣る瀬無さを思わず魔石にぶつけてしまう。


ゴリゴリと砕くどころか粉になっていく魔石に魔力を少し足せば、淡く光る粉の完成。





「コラ、勝手に魔力を増やすな。」


「この魔石、不純物が多かったので。」





不純物が多い魔石は固形の時に上手く魔力が入らない。決まった量の魔力が必要な場合は砕く最中に魔力を追加で込める必要があり、今回は粉にしてから込めてみた。


魔石に込めた魔力の量は光の強さで推測でき、今の光り方ならクランフェル様が作っておられる魔法薬には丁度いいだろう。その証拠に「なにも粉にしなくても…」とブツブツ言ってはおられるが、魔石を躊躇なくご自身が調合されているガラス瓶の中にユランテムの実と共に入れている。





「私は200歳差でも気にしません。クランフェル様お若いですもん。」


「そうか。先日レアルガードと盤上遊戯(チェス)に興じた時にアイツ、『この老害が!!』と俺に言ってきたぞ。あ、これ混ぜてくれ。」





レアルガードとはこの国の元宰相様。確かお歳は90をとうに過ぎていたはずなのに、クランフェル様に向かって『老害』とは、完全に自分に返ってくる暴言じゃないですか。




全ての材料を調合し終えた瓶を手渡されたので、薄く赤い半透明の中身を混ぜる。




とろみのある液体は徐々に半透明から向こう側が見える程に透明度が増し、更に混ぜれば薬匙に纏わりつくほど粘りが出る。




そして更に混ぜれば薬匙が動かせなくなるほど硬度が出るので、小刻みに動かして薬匙だけを瓶から取り出す。





「何故レアルガード様はそんな暴言を?」


「ただの勝てない負け惜しみだ。よし、良い赤みだな。エイレア嬢、助かった。」





私から瓶を受け取ったクランフェル様は、研究室で作った魔法薬が所狭しと並んだ棚に瓶を置きに行く。


その後ろ姿を見ながら、私は研究室に置いてある紙を手に取った。魔力の込められたインクとペンで紙に線を引いて8×8、64のマスを描く。その裏に規則的な文字と図形で事象を起こせるよう陣も描くことを忘れない。


それから二人分の飲み物を用意。





「クランフェル様、休憩に致しましょう!」


「ああ。何だそれは?」





私の声に頷いたクランフェル様は自席に座られたので、私は紙と飲み物をクランフェル様の机に置いてその辺にある椅子を持ってくる。不思議そうなクランフェル様の前で紙に魔力を通した。


描いた線は淡く光り、裏に描いた陣が表に薄く浮かび上がる。


光が収まる頃にはクランフェル様が見慣れているであろう盤上遊戯(チェス)の32駒が紙の上に現れていた。





「具現魔法…」


「はい、出来てよかったです。前に教えてもらったんですけど、初めて使いました!」





やりましょう、という意味を込めて兵隊(ポーン)を動かすと、未だに驚いておられるクランフェル様が軽く駒に触れ、具現していることを確認してから1手を打たれた。





「私では相手にならないかもしれませんが。」


「休憩には丁度いいだろう。」





交互に打っていきながら、クランフェル様が「魔力の減りは?」「体調の変化は?」と聞いてくださるので、全く問題ない事を伝えた。


物質を具現させる魔法はかなりの高難度を誇り、扱える者は魔法学校の生徒でも少ないと言われた。何故それを私が使えるのか、何時使えるようになったのか、クランフェル様は駒を移動させながら私に興味津々。


それが嬉しくて、頬が緩む。





「使えるのはこの陣の魔法だけですよ。他は何も教わらなかったし、調べなかったので。」


「誰に教わったんだ?…チェック。」




コン、とクランフェル様が騎士(ナイト)を私の王様キングが取れる位置に置く。私はそれを女王(クイーン)で防いだ。






盤上遊戯(チェス)も具現魔法もレアルガード様です。」





コロン、とクランフェル様の手から動かそうとしたのであろう僧侶(ビショップ)が落ちた。顔をあげると目を見開いて驚くクランフェル様の素敵なお顔。





「クランフェル様にレアルガード様ったら一度も勝てないんですね。まあ、あの方に私はまだ苦戦しますけど。」





クランフェル様が落とした駒を手に戻すと、ハッとしたクランフェル様は一手を打つ。その合間に「何時だ?」と聞かれたので「入学式の日に初めてご挨拶しました」と答えた。


魔法学校から出ようとしたら、待ち伏せていたらしいレアルガード様に『クランフェルを知っているか?』と声をかけられた。礼儀も何も知らない私の挨拶を気にすることもなく『そんなのは要らない。それで、知っているのか?』と問われたのだ。





『はい。お慕いしております!』


『慕っ…あのエルフにか!?』


『勿論です。』





それからどれだけクランフェル様が好きかを訴えた私にレアルガード様は最後に『面白いなエイレアとやら。今度は私の好きなことを聞いてくれ』と仰った。


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