好きです、クランフェル様
不定期で気まぐれな更新になります。
長い目で見守っていただければ幸いです。
エイレアとして生を受けて、初めて彼のお方を見たときに『ああ、この方のお傍に居たい』と思ったのは私が10になったとき。
人間とは違う長い耳をした彼のお方に、私は真っ先に思いを告げた。
『好きになってしまいました!!』
子供の一目惚れほど不確かなものは無い。次の日には別の誰かに同じように告白するような年頃だった私に、彼のお方は目線を合わせて困った顔をした。
『すまないが、君の思いは受け取れない。』
断りの言葉にでさえ、私は胸が高鳴った。
急に思いを告げて、素気なくあしらわれることもその時は考えていたのに、彼のお方は目線を合わせて真剣に返してくれたのだ。
一目惚れが、運命の出会いに変わった瞬間だった。
「だからもう、私には貴方しかいないんです。クランフェル様!」
「何の話だ。」
「私の恋のお相手が貴方ですって話です。」
ガラス瓶を左右に振りながら、中に入っている薬液の結果を上に記している男性はクランフェル・ケイリシア。
人とは違う長い耳、後ろで一つに結ばれた金の髪とガラス瓶を見つめる緑の瞳は“エルフ”という種族の特徴である。
「好きですクランフェル様、ずっと前から。」
「本当に、ずっと前からそればっかりだなエイレア嬢は。」
初めの様な真剣な返事はもう無いほど、私は目の前のクランフェル様に思いを告げ続けた。
会うたびに募っていく想いを留めることなくぶつけ続け、必死に勉強して彼が教授を努めている魔法学校の魔法薬学を専攻した。
貴族が通うものとされる魔法学校。そこに平民の私が行くには貴族の誰よりも成績優秀で、良いところのお金持ちに後見についてもらうしかなかったから、知り合いだった男爵家の3男を脅…説得して、ご当主様に後見を頼んだ。
そして無事入学を果たした16歳、今の自分の行動力を褒めたい。
「本当に入学してくるとは。」
「クランフェル様が仰ったんですよ?『私の研究室に来れば、もっと教えてやれるのに』って。」
思いを告げ続けられたのは、クランフェル様が私の家の近くにお屋敷を構えておられたから。
クランフェル様は何時も近くの図書館で本を読んでおられて、幸い私の住んでいる街の図書館は平民にも閲覧を許されていたから、クランフェル様を見つけるために通った。
見つければ挨拶し、たまに思いを告げる私の選んでいた本が薬学に関してだったことで、クランフェル様は『興味があるのか』とお声がけくださったのが12の時。
「平民の私に薬学の道を説いてくださったからこそ、今の私がいるんです。」
「バカを言うな。魔法薬学は薬学に魔法学を合わせて初めて完成する全く別物の分野だ。片方を極めても魔法薬学を使いこなせはしない。そして魔法学は適性と努力の道だと言っただろう。」
「見出してくださったのも、クランフェル様でしたよ。」
図書館で様々なことを教えてくださったクランフェル様が、私に『お前、魔法が使えたのか。』と急に仰ったのが13の時。
その頃には告白した回数も100をとうに超えていて、クランフェル様も会えば思いを告げる様な私に呆れ始めた頃だ。
魔力の適性のある者は貴族ならば詳しく調べて得意な方向を伸ばし、平民ならば生活に便利な魔法を少し学ぶ。私も小さな頃から生活に便利な魔法を覚えつつ、薬学をクランフェル様に教わっていたのだけれどクランフェル様はその時初めて私が使った風の魔法に驚いておられた。
平民で魔力を持つ者は少なく、子供が使いこなせる事は滅多にないらしい。私は才能がある、とクランフェル様はその時に『私の研究室に来れば、もっと教えてやれるのに。』と仰ってくださったのだ。
「認められることがどれだけ人に影響を及ぼすか、おわかりですか?お陰でますます好きになりました。」
「そうか。遊んでいるのならエイレア嬢、そこの薬草を魔力で成分抽出してくれ。」
遊びじゃないのに、と言い募ろうとしたけれどクランフェル様が指し示す方向には青々と茂る薬草が。
魔力で成分抽出をするということは魔力に反応する成分だけを薬草から取り出す、もしくは薬草に留めて魔法薬に使うのだ。
「アクラットですか。」
「ああ。『魔力酔いの目薬』に使う。」
魔力酔いとは外部から受けた魔力の性質が個人と合わずに体内で残留してしまうことで起こる症状で、軽くて胸焼けに近く、酷い人は目眩や吐き気を起こすらしい。
治癒魔法や精神干渉の魔法など、自身の魔力とは違う魔力を受けた場合にこれらの症状が発生する。
目の前にあるアクラットは目薬に主要な材料で、今回は魔力酔いの患者に使用できるように魔力をこの薬草から一つ残らず取り出す作業だ。
「煮沸もしておきます。コルレは要りますか?」
パッと薬草から魔力を抜いて鍋に入れていき、クランフェル様に他の材料の準備の如何を問う。すると素敵な流し目でこちらを見てくださったクランフェル様は鍋に入っているアクラットと私を交互に見て一つ息を吐いた。
「ああ、頼む。…普段からこの手際と判断力であればスキップでの卒業も容易なのだがな。」
「嫌だなクランフェル様ったら。そんなことしたらクランフェル様と一緒に居られないじゃないですか。」
貴方様に会うためにこの学校へ入学したのに、すぐお別れなんて嫌です。首を横に振って笑うと、先程より大きなため息が返ってきた。
自分の努力が報われたと思う以上に、自分が器用であることは知っている。他者よりも覚えが良く、他者よりも多角的な気づきが多く、他者よりも柔軟な私はクランフェル様曰く『逸材』と呼べると。
自身を極めることはクランフェル様と並び立つ上で大切なことだと言えるので努力を怠ることは無いけれど、それを周囲に見せるかどうかはまた別だ。
クランフェル様の言うとおり、真面目に自身の力を人前で十割出せば私はすぐに卒業資格を得て、平民では考えられないような就職先で裕福な生活も送れるだろう。
けれど、きっとその生活をクランフェル様が見ていてくれることは無い。
「好きです、クランフェル様。」
私は貴方の傍に居たいんです。
その気持ちを込めて、私は今日も思いを告げた。




