第5話
かつて、胸躍る冒険に憧れた。
あるいは、今なお焦がれ続ける、すべての冒険者たちへ。
一日の中で、身体を使う時間が多ければ多いほど、頭を働かせる時間が長ければ長いほど、時間はあっという間に進んでいくもので。
俺がこの世界に、サウラ・カザディルに、碧いとまり木亭に世話になり始めて、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
今の俺の一日の始まりは、太陽が登り始めるよりも前だ。
角灯の灯りを頼りに階下に下り、まずは竈に火を入れる。火打ち石で火を起こすのだって、もう慣れたものだ。それから食堂の準備。
この頃になると、アイラさんが起きてきて、食事の準備を始める。俺は野菜を切ったり芋を剥いたりしてその手伝い。
夜明けと共に客が起きてきたら、給仕係に転向だ。今までは客が自分で受け取りに行っていたようだが、今は俺が運んでいる。空いた食器があればその回収も。
手が空いてる間は食器洗い。これも、今までは溜まったものをまとめて洗っていたようだが、こまめに片したほうが手間が少ない。
そうしていると、リーリアが起き出してくる。着替えて食事を済ませると、さっそく俺に言葉を教授してくれる。そろそろ目につく範囲では知らない名詞も減ってきて、最近はその場にはいない動物や植物の名前が主流になっている。ただ、どうやらそれは、ティオの受け売りらしい。リーリアがティオに懐いているらしいのは、俺も見たことがあった。
昼の客まで捌いたら、俺は裏庭に出て薪割りを、あるいは必要がある日には、リーリアに店番を任せ、アイラさんと買い出しに行く。もし部屋を出た客がいれば、部屋のセッティングも入ってくるが、これはまだ経験していない。この事情は後程。
陽が落ちる前に忘れてはならないのが、水汲みだ。木のバケツを担いで、夜と翌日に使う分の水を、えっちらおっちら井戸まで汲みに行く。薪割りも大概だと思っていたが、これがこの宿の仕事で、一番の重労働かもしれない。
そうして夜にはまた給仕だが、まあこの時間の慌ただしいこと。朝昼に比べ物にならないほど客が訪れ、そしてみんな酒を飲むのだ。食堂というよりも、夜は酒場と言ったほうが適切だろう。ちなみにここで酒として求められるのは、エールだ。ワインはどうやら、水代わりに飲むものらしい。
ある程度客たちの相手をしたら、俺は一旦部屋に戻る。食堂の片付けまで休憩するか、あるいはティオのいる日には、西方語の勉強だ。
学生時代、結局英語もろくに習得できなかった人間も、必要に迫られれば、日常に支障が出ない程度には会話できるようになるもので。やはり、ネイティブの環境に身を置くのは大事なのだな、と納得した。
ティオとのやり取りも、だいぶそつなくこなせるようになったのではなかろうか。
「リックは覚えが早いですね」
と、ティオは言っていたが、教え方がいいに決まっている。
そうして、客がめいめい引き上げる頃になったら、食堂の片付けだ。食器を洗い、椅子を上げ、モップで床を磨く。アイラさんはその間に帳簿をつけ、リーリアはもう寝ている。
最後に火の元を確認して、一日の終わりだ。
ちなみに、引き上げる部屋は、最初に泊まった客室ではなく、屋根裏に一室をもらっている。元々物置になっていたようで、雑然と荷物が積まれていたのだが、ベッドもひとつ置かれており、埃を払えば立派すぎるほどの寝室になった。さらには着替えまでもらっている。果たしてどれだけ働けば、この恩を返せるだろうか。
さておき、こんな毎日だ、そりゃあ時間の経過も早くなろうというもの。自分の時間、何て言えるのは、ティオがいない日の夜か、寝る前くらい。趣味に耽る時間なんてあるはずもないし、そもそも今耽られる趣味自体がない。
それでも、俺は今のこの生活を、楽しんでいる。
なぜなら、いくぶん西方語を話せるようになってきた結果、碧いとまり木亭が、自分が働いているのが、どういう宿なのかが判ったからだ。
すなわち、冒険者の店である。
冒険者。この職業に、果たしてどんなイメージを持っているだろうか。
ギルドに所属して、不思議なシステムで能力を査定されたり、クエストをこなして報酬を貰ったり、ダンジョンに潜ってランク付けされたりする、公的な職業だろうか?
だいたい半分正解、というところだ。冒険者は、主に腕っぷしを求められる依頼をこなし、報酬を貰う。あるいは遺跡の探索もするかもしれない。護衛や、人探しを請け負うこともあるとか。だが、それだけである。
残念ながらこの世界に、ギルドや冒険者ランクのような、便利なシステムは存在しなかった。魔力を測ったりもしない。この世界での冒険者というのは、早い話が、個人単位で営業している傭兵のことである。
後に聞いた話になるが、この世界ではいくらか昔、大きな戦争があったそうだ。それも、人間とそれ以外の間での。
その戦争が終結したあと、しかし各地には様々な危険や謎が残された。野盗や、俺が遭遇したような魔物。あるいは、人里離れた僻地に眠る、古代の遺物、果ては迷宮。
そこで、終戦で大口の仕事をなくした傭兵が、小口の依頼や、発掘で食いつなごうとしだしたのが、冒険者の始まりだという。
それだけ聞くと、荒くれ家業のようだが、そして半分くらいはその通りなのだが、そこで偉業を成し遂げるものが現れ、やや風向きが変わる。古代遺跡での財宝発見や、ドラゴン討伐(そう、ドラゴンである!)の報せは、現代の英雄譚として瞬く間に世界に広がった。
以来、食い詰め傭兵ではない名前を得て、腕に自信のある若者や、まだ見ぬ何かに、あるいは伝説的な活躍に憧れるものたちが志す道となったのが、冒険者というわけである。もっとも、名乗れば冒険者、というような扱いであるが。
彼らが台頭し始めると、その仲介役となるものが現れる。それが街の酒場だった。人や噂の集まる酒場は、冒険者が依頼主を、依頼主が冒険者を探すのに、うってつけの場所だったというわけだ。そこで酒場は、依頼人から仲介料を貰い、冒険者を紹介する、あるいは依頼文を店内に貼り出すようにした。そうして出来上がったのが、冒険者の店と呼ばれる、宿や酒場である。
碧いとまり木亭も、そのひとつであった。
正直に言うと、碧いとまり木亭は、決して繁盛している店ではなかった。
高名な冒険者が利用しているわけでもなく、依頼主も時おり来るか来ないか。ほとんどは夕食時に来る顔見知りで成り立っているようなもの。
宿泊客も、この街で活動するために、長期滞在してる一名だけ、というような状況なのだ。
それでも、以前よりも客は増えたんだと、アイラさんはそう笑っていた。ティオが来てから、そして俺が来てからもいくらか。俺が来てから、というのはお世辞として受け取っておいたが。
しかし、そうなると余計に、俺のような居候を一人抱えるのは、酷なのではないだろうか。それを言っても、きっとアイラさんは笑って首を振るだけだろうが。なにかもっと、大きく恩を返せればいいんだけども。
閑話休題。
それにしても、冒険者か。
浪漫のある響きだ。
勇者や騎士なんてのもいいが、ファンタジーの花形職といえば、やはり冒険者だろう。その日の糧を求めて、腕前や仲間を頼りに、危険な魔物や迷宮に挑んでいく。男の子が惹かれる要素が勢揃いだ。
それに憧れる心は、やはり俺にだってある。じゃなきゃ、剣と魔法のTRPGや、MMOにあんなに没頭しないし、そんな世界観の小説だって書いたりしてみない。二次創作ばっかりだったけども。
とはいえそこはそれ、妄想と現実の区別、だ。剣と魔法の世界が現実になっても、英雄的活躍は妄想のままだ。こちらに来てからの肉体労働で、多少体力はついたかもしれないが、戦う術はやっぱり持っていない。
だいたい、剣や鎧だって、ただで手に入るわけでもなしに、どうやって戦いに赴けよう? こちらの言葉だってまだ完璧ではないのに、魔法なんてもっての他だ。
やっぱり、俺はこのまま、冒険者の店のお手伝いでいるのが、分相応というものだろう。冒険譚は、ティオにでも聞かせて貰うとしよう。
そう、もう今さら改めて言うまでもないかもしれないが、ティオの職業は、他ならぬ冒険者だったのだ。碧いとまり木亭唯一の宿泊客でもある。
ちょくちょく宿を離れているのは、日銭稼ぎに、というよりも本業に勤しんでいるためだったというわけだ。
これまでは専ら、家庭教師と生徒としてばかり話していたが、もうそろそろティオ自身の話も聞いてみたい。
それに、今はまだ基盤を築くので精一杯だが、遅かれ早かれ元の世界に戻る方法を探さなくてはならない。夢のような世界だが、ここは俺の世界じゃない。親や友人を捨てて、この世界に骨を埋めるつもりはないのだ。
あるいは、それを冒険者に依頼するとすれば、やっぱりティオがいいな、とそう思っている。
いずれにせよ、そのティオ自身、いままさに仕事に出掛けてしまっている最中なので、戻ってきてからの話になるが。
帰る方法、か。
「帰れるのかな、俺……」
星が出始めた空を見上げながら、ぼやいた。
「どこにだ」
じゃぼん、と音がして、隣に入り込んでくる大柄な人影。
うお、びっくりした。
見ればそこには、鍛え上げられた筋肉の塊。赤褐色の表皮に覆われた力の象徴。視線を上げれば、金の瞳が横目に俺に向けられている。頭には折れた一対の角。
ダスカート。フェルメルと同じく、この世界の人間の一種族だ。
同時に俺は、俺に並んで腰を下ろした大柄な男自身にも、見覚えがあった。
「リオン、よくない、驚く」
「すまん」
リオンは、碧いとまり木亭を利用している、数少ない冒険者の一人だ。宿泊はしていないが、時おり顔を出しては依頼がないか確認に来て、食事をとっていく。
最初こそ、その厳つい外観に近づき難い客だったのだが、何度か関わるうちに、見目に反して物静かな、理性的な人間だとわかった。なにより、俺がこちらの言葉に達者でないと気づき、ゆっくり話してくれる、そういう気遣いをしてくれる相手だと知ってからは、こちらでできたはじめての男の知り合いと言えるようになった。
「リオンも湯浴み、来たのか」
「ああ」
ちなみに、俺たちがどこにいるのかと言えば、なんと公衆浴場である。
というのも、このサウラ・カザディルは、街の背後にある山に巨大な坑道を持つ、鉱山の街であった。そこで働く鉱夫たちの汗と疲れを流す場として、公衆浴場が設けられていた。
ローマ建築風の、円柱の並ぶ建物の中に入ると、そこには壁に囲まれた巨大な浴室がある。天井はないので、半分露天だ。地面を掘り下げた浴槽の、階段状の縁に腰掛けて、身体を暖めていたわけだ。
これは、日本人にはありがたかった。有料なので毎日とはいかないが、アイラさんとリーリアと交代で、三日に一度程度の割合で利用している。
「それでえっと、なんだったか」
「どこに帰れるのか、だ」
「ああ」
さて、どう答えたものか。
「宿に。ここ、気持ちいい、出られるかな」
なんとなく、俺は返答を誤魔化した。別段隠しておきたかった、という訳ではない。ただ、拙い言葉で上手く伝えられる自信がなかった。それに結局、まだ誰にも話していないのだ。俺がどこから来たのか。
「……そうか」
リオンはそれ以上なにも聞かなかった。誤魔化したことを気付かれている気もしたが、触れないでくれるなら、それはそれでありがたい。
「のぼせないうちに、上がることだ」
「そうする。リオンは?」
「俺も行く」
今来たところかと思ったのだが、どうやら俺に気付いて移動してきただけらしい。
「今日は、店、来るのか?」
「ああ」
とのことで、俺たちは浴場を出て、二人でとまり木亭へと向かった。
◆
とまり木亭に到着すると、思いの外穏やかな夕食の時間が流れていた。
今夜の客は二組ばかり、騒がしい人もいないようだ。
「あ、おかえりリック!」
「あら、おかえりなさい。それにリオンさんも、いらっしゃいませ」
いつもの通り、カウンターではアイラさんとリーリアが迎えてくれる。この二人と挨拶を交わすのも、もうすっかり日常の風景になった。
「ただいま戻りました」
俺はカウンターへ、リオンはどうするのかと思えば、そのまま掲示板の方へ向かっていった。なにか新しい依頼を探すのだろう。
「アイラさん、手伝うこと、ありますか?」
カウンター越しに声をかけると、何やら塩漬け肉を切っていたアイラさんは、首を横に振って微笑んだ。いくら客が少なくても、全く仕事がないわけではないはずなのだが。
「今日は、大丈夫ですよ。それに、予約がありますから」
はて。予約とはなんのことだろうか。
「リック、こっちよ!」
戸惑っていると、リーリアに手を引かれ、ボックス席へ連れていかれた。席には先客が一人。その小柄な影は。
「あ、ティオ! 戻ってたのか!」
「ただいまリック。それに、おかえりなさい」
ティオは、もう五日ばかり、受けた仕事にとりかかるために、とまり木亭を空けていたのだ。いつ戻るとも聞いていなかったので、そろそろ心配になり始める頃だった。
おかえりとただいまを返しながら、ティオの向かいの席に座る。その隣に当然のようにリーリアも座った。
「長く帰らなかったじゃないか、今回は」
「どこに行ってたの!?」
リーリアが、興味津々でテーブルに身を乗り出す。その姿に笑いながら、ティオは何やら荷物の中をまさぐった。
「もう、ちゃんと話しますよ。でも、その前にお土産があるんです」
ティオがテーブルの上に取り出したのは、一本のボトルであった。深緑をしたガラス瓶で、コルクで栓がされている。中には、暗い色の液体が入っているのが見えた。
これは、もしかして。
「ワインか?」
「はい、でもいつも飲んでるのとは違う、高級品ですよ。報酬と別にもらったんです」
あらかじめ用意しておいたのが、ティオはテーブルにグラスを二つ置きながら答える。栓を抜いてボトルを傾けると、空気の入る気持ちのいい音を立てながら、深く暗い朱色の液体がグラスに注がれた。確かに、普段飲まれている、色と味のついた水、といった風情のワインとは、物が違う。
それを見て、俺は不覚にも心踊らせてしまった。なにせこちらに来てから、のんびり酒を飲み交わす時間なんてあったものではなかった。
「けど、いいのか? 一緒に飲んでも」
「一緒に飲もうと思って、貰ってきたんですから」
少し頬を膨らませながらそんな風に言われたら、無下にもできない。なにより俺自身、もうすっかり心惹かれている。
「ねえ、わたしには?」
「リーリアにももちろんありますよ」
「やった!」
リーリアに差し出されたのは、干し葡萄を使った焼き菓子だった。そっちはそっちで美味しそうなのだが、欲張るのはよろしくない。いまは素直にワインを楽しむとしよう。
それぞれにグラスを手に取る。ティオがそれを掲げた。
「碧いとまり木亭に」
「だな、とまり木亭に」
グラスに口をつけ、一口。
「あ、美味い」
「はい、これはいいですね」
正直に言えば、味にはさほど期待していなかった。如何せん、科学的な発展など微塵もしていないこの世界だ。いかな高級ワインと言っても、現代日本の基準とは比べるべくもないのではと。
だが、口に含んだワインは、思いの外酸味が少なく、口当たりは優しい。やや味わいにクセがあるが、それが葡萄の芳醇な薫りと相まって、喉の奥まで楽しませてくれる。
「これ、これだけで飲むのは、もったいないな」
「もちろん、抜かりはありません」
「はい、お持ちしましたよ、ティオさん」
見計らったようなタイミングでアイラさんがやってきて、テーブルに木皿をひとつ置いた。そこに盛られているのは、ついさっきアイラさんが刻んでいた、塩漬け肉だ。なんて準備のよさだ。
「なんか、すみません」
「いえいえ、楽しんでくださいね」
お言葉に甘えるとして、塩気の強い肉を一口、たっぷり咀嚼して飲み込んでから、ワインを一口。
マリアージュってのはこういうことだな。
「んー! おいしい!」
隣でリーリアが感嘆の声を上げるのを、二人で笑いながら、ティオとワインを味わっていく。
穏やかな時間だ。これなら、異世界生活も悪くはないと思ってしまいそうだ。
けれど、酔いが回る前に聞くことは聞いておこう。
「それで、今回の仕事、なんだったんだ?」
「あ、そうよティオ! 早くおしえて!」
「もう、二人とも仕方ないですね」
二人でせっつくと、ティオは苦笑を浮かべ、せっかちな子供に言い聞かせるように話してくれた。
「今回は、冒険者というよりも、精霊術士の仕事って感じでした」
ワインを一口。
「シャルマンって村の農家からの依頼で、村で育ててる葡萄の木に、突然林檎の実がなってたっていうんです」
「なんだそりゃ!」
「すごい! そんなことあるの?」
なんというか、おかしなことが起きてるのは確かなのだが、事件の内容がどこか童話的で、俺は無性に可笑しくなってしまった。もちろん、村の人からしたら大問題なのはわかっているのだが。
「行ってみたら、一面に葡萄畑が広がる、綺麗な村でした。天気もよかったし、景色は言うことなし。ですけど、その葡萄の中に混じって、本当にいくつか林檎がぶら下がってるんです」
「なんだか、子供のいたずらみたいだな」
「はい、そう思いました。同時に、それでだいたい検討はつきましたね」
「そうなのか?」
「ええ、案の定、それはスプライトの仕業でした」
スプライトは、いわゆる妖精だ。この世界では、精霊の力が強い場所に現れるという。というよりも、強い力を得た精霊が、妖精になるようなのだ。それが人里だったりすると、今回のようないたずらをしていくのだとか。
「そこで私は、精霊の力を借りてスプライトを捕まえて、遠くに逃がしてきたってわけです」
精霊は物理的な身体を持たないが、妖精にはある。そこで、ティオは精霊と契約し、葡萄の木で檻を作った。中に吊るした葡萄につられ、それと気付かずに飛び込んできたスプライトを、まんまと閉じ込めたのだという。
ティオは、魔法使いの中でも、精霊との契約によって力を行使する、精霊術を使う。この世界の始まりにあって生み出された、あらゆる自然現象を司る存在である精霊の力を使う精霊術士たちは、こうした自然界に近しい部分で起きる異変には、めっぽう強い。
もちろん、精霊術も万能ではない。例えば、その場にいない精霊とは、当然契約することができない。火のないところに火の精霊はいないし、光の差さないところに光の精霊はいないのだ。
ともあれ、今回はまさに、ティオにおあつらえむきの事件だったわけである。
「ティオ、すごい! かっこいい!」
リーリアも大興奮だ。
「そんなに大したことじゃありませんよ」
「困ってた村の人、助けてきたんじゃないか。かっこいいよ」
「そう、ですか?」
むず痒そうにワインを飲むティオは、手放しに誉められ、すっかり照れている。色白の肌に朱が入って、改めてティオが美少女だということを突きつけられるようだ。
「他にも話、聞かせてくれよ」
「私のですか?」
「そう、いままでの冒険のこととかさ」
俺は、ついさっき浴場で考えていたことを切り出した。ティオのことを、もっと知りたい。
「わたしも聞きたい!」
リーリアも味方につけて、これはもうひと押しかと思ったのだが。
「待ってください、私ばっかり話すのはずるいですよ」
ティオは、思いがけず切り返してきた。
「もうそろそろいいですよね? リック、あなたの話を聞かせてください。リックは、いったいどこから来たんですか?」