e02-01『税関で止められても変にあたふたしてはいけない』
丘の上からさらに20分程歩いただろうか。
街が近づくにつれ人もどんどん増えてくる。
手続き待ちの列なのか、車道では荷馬車(馬じゃないけど)が列をついてちょっとした渋滞になっている。
徒歩で街に入る分には特に検問などは無いようだが、衛兵と思われる兵士達が行き交う人々にずっと目を光らせている。
悪い事は何もしてないけれど、お巡りさんに睨まれるとやっぱり何か緊張する……。
(異世界転移がバレたりしないよな!? さっきの野盗の撃退、過剰防衛じゃないよな? 死んではないみたいだったし……)
そんな事を考えていると……
「おい! そこのあんた!」
衛兵から急に声をかけられ飛びあがりそうになる!
恐る恐る振り返ると……声を掛けられたのは俺じゃなくてローガンだった。
「……ん? あぁ、俺か?」
特にテンパる様子もなく落ち着いて答えるローガン。
すまんおっさん……あんたの尊い犠牲を無駄にはしない。
そう思いジリジリとローガンから距離を置く。
シロエも同じ気持ちなのか、フードを深々と被り顔を隠しているようだ。
「あぁ。すまないが帽子を取って見せてくれるか?」
「ん? あぁいいぜ」
帽子を取る。
「……黒瞳に黒髪」
「……何か問題でも?」
「……いや、問題ない! ただかなり珍しいからな。時間を取らせて悪かった! よい旅を、”変革をもたらす者"よ!」
そういってにこやかに答える兵士。
ローガンは、帽子を被り直しながらヒラヒラと手を振る。
「おい、お前ら。俺の事見捨てようとしただろ」
少し距離を取っていた俺たちの所まで追いつきローガンが詰め寄る。
「ん、んな事はないぞ」
ワザとらしく目を逸らしてみせる。
「ったく、酷ぇ奴だ」
そう言って笑うローガン。
シロエは……かなり緊張したのか、まだ少し表情が強張っている。
……あれ、そういえば黒い瞳に黒髪なら俺もそうなのに何でローガンだけ捕まったんだ?
まぁ……日頃の行いが醸し出す雰囲気か……。
街の入り口を抜けると――そこは大きな広場になっていた。
沢山の荷台が、それらをを引く様々な動物達と共に停められている。
その傍らでは、荷主と思わしき人々が書類の確認をしたり、荷下ろしの指示をしたりと忙しそうだ。
よく見慣れた、所謂普通の"人間"と呼ばれる人達の他にも、獣人、リザードマン、ドワーフ、それに耳の尖ったエルフなど、それこそゲームの中でしか見たことのない様々な種族の商人達。
談笑する者、難しい顔で交渉する人、中には怒号をぶつけ合う者、それぞれに商談を行なっており、広場は活気に満ち溢れている。
商人だけではない。
鎧に身を包んだ一行が何小隊か、あちこちの荷台に立ち寄ってはその荷主と話たり、荷物の中を確認したりしている。
物騒な気配こそ無いものの、これだけの人と物が行き交う場所ならば不審物、不審者が入り込まないように監視する必要があるんだろう。
若しくは、物資に関税でも掛けてるんだろうか……?
どちらにせよ、この大きな街を取り仕切れる規模の政治的な団体や警察機構のような物が存在する事が見て取れる。
「噂には聞いてたけど……凄い活気!!」
シロエが少し気圧された感じで、目の前に広がる光景を眺める。
「あー!! いいね港街!! 何か、旅してる~! って感じになるもんな!」
そう言ってはしゃぐローガン。
「……それじゃぁ、私はここで」
そう言って軽くお辞儀をするシロエ。
――!?
しまった、ヒロイン(仮)が逃げる!
ここでシロエに居なくなられると、俺はこのおっさんと2人で港町をデートするはめになる!!
それだけは何としても回避しなければ――!!
そう思いシロエに声を掛けようとしたのとほぼ同時。先にローガンが呼び止めた。
「嬢ちゃん! すまないが、1個頼まれてくれないか!? 実はちょっと野暮用があってな……その間そいつの面倒見ててくれないか!? 3時間程で良いから! 頼む」
そう言って両手を合わせるローガン。
俺は子供か!? そうは思ったが、おっさんナイスだ。
「え? え……私は構わないですけど……カナトは嫌じゃないの?」
少し驚いた顔で俺の方を見る。
「嫌だなんてとんでもない! もお、是非ともこちらからもお願いします!」
「そっか……うん、それじゃ一緒に少し街の中見て歩こう!」
そう言ってにっこり笑うシロエ。
いやったぁぁぁぁ!
いいじゃん異世界!! 来て良かったよ異世界。倒産してくれてありがとうバイト先!!
「じゃ、3時間後にここ集合な!」
近くにあった時計台を指差すローガン。
時計は見慣れた十二時間盤だ。
俺の世界と同じ読み方だとすると、現在昼の1時を過ぎた頃か。
「分かった。浮かれて迷子になんなよ、おっさん」
「おぉ。そっちこそ変な客引きとかに捕まるなよ、少年」
そう言うと人混みの中に消えていくローガン。
「ふふ、仲いいんだね。家族……て事は無さそうだし、古い付き合い?」
「……いや、そんなに長いって訳でもないんだけど……まぁそこそこかなな」
長いどころか、まだ会って数時間だ。
なのに、どこか懐かしい……ずっと昔から友達だったような不思議な雰囲気のあるおっさんなのは間違いない。
「さ、それじゃ私達もその辺見て回ろっか!」
シロエが笑顔でこっちを見る。
近距離で急に目が合い思わずドキッとしてしまう。
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▷港町アーシアは、大量の人と物資が行き交う流通の拠点だ。
それ故に良からぬ物資や人が入って来る危険性も多いのだが、そこは安心して欲しい。
優秀な街の自警団と、大天使"クレシア"率いる"セントレイア騎士団"が連携して警備に当たっており街の治安は高い水準で守られている。
品行方正に旅をしていれば彼らのお世話になる事はまず無いが、1つだけ気を付けなければいけないのが入街時の荷物の量だ。
アーシアでは個人による荷物の持ち込みは非課税扱いとなっているが、その量が一定量を超えると関税の対象となる。あまりにも大きな荷物を背負って街に入ろうとすると呼び止められて中身を調べられる事となるので、荷物は程ほどに。