e01-03『旅の装備選びは慎重に』
「キヴィ・ロッカ!」
――低い男の声!!
次の瞬間!
……岩!? 1メートルはあろうかという複数の岩が高速で飛来し、直撃した男達が一斉に吹き飛ぶ…!
「なっ…!」
俺に銃を向けていた男も、背後を振り返ると同時にその直撃を喰らい、岩と一体となり吹っ飛ぶ。
そのままこちら吹き飛んで来て、俺の後ろにあった巨木に直撃する!
その後は当然……真下に居る俺目掛けて降ってくる。
岩ごと。
「いっ…!」
咄嗟に半身を翻す!
鈍い音を立て男と岩が地面に落ちる。
どうにか岩は避けれたが男の下敷きにされた……重い。
「おー! やってみたら出来るもんだなー! しかし加減がわからん……」
声のした方を見ると、先程まで有ったはずの茂みのが、岩の飛来を受けて消し飛んでいる。
その先から、見た事のある中年男性がニコニコしながらこちらに歩み寄ってくる。
ローガンだ。
そのまま俺に近づくと手を差し伸べる。
「遅くなってすまん、大丈夫か?」
その手を掴むと、よっと、と力強く引き起こしてくれた。
「遅ぇよ! てかあんたの事忘れてたわっ!」
「なっ! ひでぇな。こっちはずっとお前の事探してたんだぞ。そしたらやっと遠くに見つけたんだが、その嬢ちゃんがいきなり魔法ぶっ放して逃げ出すもんだから。運動不足のおっさんじゃ若者の青春全力ダッシュにゃ流石に追いつけないぜ……」
そう言って額に手を当て、ヤレヤレと言った芝居掛かったポーズを取る。
「……そうだ!あの子……!!」
倒れている少女に駆け寄る。
「おい、しっかりして!!」
傍にしゃがみ込み声を掛る。
その小さな身体を抱き起そうと手を伸ばしたとき……
「っ痛ったーー……」
そう呟いてむくっと少女が起き上がる。
「うぉっ!!」
驚いて思わず変な声が出る。
「嬢ちゃん、大丈夫か?」
ローガンも俺の後ろから声をかける。
「はい、すいません。油断しちゃって……あ」
少女は、俺の顔を見るなり心配そうな顔で額にそっと触れる。
僅かな体温が肌から伝わる。
「ごめん。ちゃんと守れなくて。……少し血出てる」
そう言うと、懐からハンカチを出して俺の額を拭ってくれる。
額……擦りむいたのか?
あ、さっきローガンの魔法に吹っ飛ばされた盗賊に押し潰されたときか。
「あ、あぁ。俺は平気。それより、キミの方こそ大丈夫!?」
「ん……?」
少女はよいしょっと立ち上がり、パンパンと背中を払う。
「……うん! 大丈夫みたい。衝撃で少し動けなかったけど、特に怪我とかは無いかな!」
ローブの背中の部分が少し焦げ付いているが、確かにそれ以外大したダメージは無さそうだ。
「け、結構な爆発だったし……絶対死んじゃったと」
ポカンとして思ったことを口にしてしまう。
「心配してくれたんだね。ごめんね、私が油断したばっかりに」
少女が屈みこんでくる。
「大丈夫! ……私見た目よりジョウブ!」
両腕を胸の前でグッと掲げガッツポーズをして見せる。
「立てる?」
そう言って手を取り立ち上がらせてくれた。
「ま! 何せ2人とも大事なくて良かった」
一連の流れを静かに見守っていたローガンが話に割って入る。
「俺の名前は“ローガン”。そっちは“カナト”。2人で世界周遊の旅をしてる」
そう言いながら、俺の方に目配せする。
話を合わせろという事なんだろう。
「私の名前は……“シロエ”です。私も旅の途中だったんですけど、街道でいきなり野党に襲われて……お二人共、危ない所を助けて頂いてありがとうございます」
そう言って少女……シロエは俺たちに向かってお辞儀をする。
「へぇ……野盗、ね」
そう呟いて地面に落ちている物――野盗の男が落としたのであろう拳銃に目をやるローガン。
「……取り敢えずここを離れよう! 見たところ、使われてない旧街道のようだが、さすがにこれだけ派手にやらかしたら人が来るかもしれん。騒ぎになったらなにかと厄介だろう?」
「……そうですね! 本道は……こっちです」
そう言ってシロエが歩き出す。
「さて、俺らも行こう。歩けるか?」
そう言ってローガンも歩き出す。
「あ、ああ…」
………
『お二人共、危ない所を助けて頂いてありがとうございます』
か。
俺、何もしてねぇけどな。
カッコわりぃ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
▷旅衣装は、悪天候や寒暖から身を守るだけではなく、魔物や野盗との戦闘で優れた防具となります。
特に高い魔力が込められた高級品ともなるとその効果は絶大。
快適さ、ファッション性も大切ですが、防御力もしっかり加味して選びましょう。