e00-03『大切な事ほど小さい字で書いてある』
「……バイト?」
「そう! あ、そもそもうちの会社の事説明しとかないとな。何年か前からさ、そちらの世界で"異世界転生"が大流行じゃん? そんで今じゃどこの世界も転生転生で空前の転生ブームな訳よ。で、そこに目を付けたのがうちの社長!」
そう言って、傍らで毛づくろいしている狐……セレアを指さす。
「え!? あっちが社長なの!?」
「そうだよ! 人を見た目で判断しちゃダメだよー」
そう言って可笑しそうに笑うセレア。
「話続けるぞー。で、異世界っても千差万別。色んな世界がある訳だけどさ。中には、魔王もいなけりゃ世界の危機にも瀕していない、そんな平和な世界もある訳」
「……いい事じゃんか」
「いやいや、異世界ったら誰かに来て貰って冒険してもらって盛り上がって貰ってナンボな訳よ!」
「ほぉー。そんなもんなのか」
「そんな訳で……我が"異世界トラベルエージェンシー"では、そんな平和な異世界に赴いて、どうにかその世界の魅力を伝える事を事業にしようって訳よ!」
「……はぁ。そんで、それが俺と何の関係があんの?」
「よくぞ聞いてくれた! 我々の仕事は、色んな街に出向いて "異世界のガイドブックを作る" こと! 綺麗な景色や美味い物を紹介して、異世界の魅力を知って貰うのが目的だ!」
「なるほど……まぁ、悪くは無いかもな」
「そうだろ!? 行った事も無い世界を旅して、美味い物を食べて、君はそれを本にまとめてくれればいい! ガイドブックが完成した暁には、十分な謝礼を用意した上でここに来る直前の時間の元の世界に戻すつもりだ」
「なるほどなるほど……。ちなみに――そのガイドブックって誰が読むんだ?」
「そ、そりゃ、読者様というか神様達というか……まぁその辺は企業秘密だ!! どうだ!? 一緒に行ってみようぜ、異世界!」
「きっと楽しいよ~!」
そう言って椅子から立ち上がるローガンと、尻尾をブンブン振るセレア。
「……ま、いいぜ! 元々旅には出るつもりだったし!」
「やったー! それじゃぁさっそく!」
そう言って、セレアが尻尾を一振りすると、真っ暗な空間に光の柱が2つ立ち昇る。
「右の入り口だ。『剣と魔法の世界"エバージェリー"』に繋がってる」
ローガンが右の柱を指さす。
「……左は?」
「そっちは『キプロポリス』ってゆーまた別の異世界だ。まぁ、向こうで異世界同士繋がってんだけどな。細かい話は追々な。ほれ、行くぞ!」
そう言って俺をグイグイと光の柱に押していくローガン。
「ち、ちょっと待てよ。まだ心の準備が!」
「大丈夫大丈夫、楽しい旅に必要なのは、綿密なプランよりもその場のノリと勢いだ! じゃ、行くぞー!」
そう言って、光の柱に向かって俺の背中をドンっと押す。
「う、うわぁぁぁ」
光に向かって吸い込まれる寸前……
「あ、ちなみにうちの会社、保険とかは一切効かないからケガしたり死んだりしないよう気を付けてね! 勿論死んだらゲームオーバーだよ」
セレアのいやに明るい声が聞こえる。
「そういう大事な事は最初に言えぇぇぇぇーーーー!」
自らの絶叫と共に、光の中へと落ちて行く。