e00-01『自分が小さく感じた旅は、きっと良い旅』
(まずい――どうする!? 絶対に殺される!)
どんな下手糞でも外しようのない至近距離から俺のコメカミに向かって銃口が突きつけている。
(どうしてこうなった!? 異世界に来たら、無条件でチート能力に目覚めて、たまたま悪漢に襲われてる可愛い女の子を助けて好意を寄せられ、でも他の子にもモテモテでヤキモチ妬かれて困っちゃうみたいな? そんで無双してざまぁして……それが当たり前じゃないのかよ!?)
しかし現実は……俺が助けるはずのヒロインは、俺を庇って凶弾に倒れ目の前にころがっており、次はお前の番だと額に銃を向けられている訳である。
ピクリとも動かない少女を見る……あぁ、待ってて。もし一緒に転生したら次の異世界で一緒に冒険しよう!
……ってムリムリムリ、いくら異世界転生が流行りだからって、そうポンポンと都合よく転生出来るかよ!? お願いだから助けて……!!
「悪く思うなよ」
そんな俺の願いも虚しく、あり触れた別れの挨拶を吐き捨てる男。
よく聞く台詞だが、自分の事打ち殺した奴を悪く思わない聖人君子なんてこの世に居ると思ってんのか?
あ。だめだ! 終わる! 俺の人生今ここで!!
――――いったいどうしてこうなった!?
―――――時は数時間遡る―――――
今週末はバイト先の給料日!
この日の為に、夏休みの半分以上を注ぎ込んで、毎日毎日汗水垂らして働いた!
あと少し! 今週も元気に働きましょう!
そう息巻いて出勤すると――バイト先が倒産していた。
いつもこの時間には開いてるはずの、表のシャッターが閉じている。
シャッターには張り紙が1枚。
要約すると「この店は破産しました。中に入るな、中の物を持ち出すな、違反した奴は訴えるぞ。偉い大人より」という物。
次第に他のバイトやパートの人達もやってきて、店長に連絡したり、張り紙に書かれた番号に電話してみたりするも、ずっと話中で繋がらず。
店の前でたむろしてても仕方ないので一旦解散して現在に至る……と。
家に帰り、さっき出たばかりのベッドに再び潜り込み銀行の通帳を眺める。
ダメだ……全然足りない。
俺の夏休みの計画が……。
高校2年生の夏休み。俺は夏休みの後半を利用して一人旅に出る予定だった。
――事の発端は、駅で見かけた旅行会社のポスター。
『自分が小さく感じた旅は、きっと良い旅』
その何気ない言葉にどうしようもなく衝撃を受けた俺。
今となってはその理由は分からない。もしかしたら中2病ならぬ高2病だったのかもしれない。
青春ど真ん中と呼ばれるこの17歳の夏に、何かデカイ事をやらなけりゃ!!
そんな使命感に1人突き動かされた俺は、両親を説得(案外あっさり承諾したな……)
そして旅費の捻出の為夏休みの前半をほぼ毎日バイトに充てたのだった!!
……それも全部水の泡。
もしかしたら偉い弁護士の先生か誰かが救いの手を差し伸べてくれてバイト代が振り込まれるかもしれない。
でも、さすがにそれが今週末と言う訳には行かないだろう……。いつの事になるか分からないけれど、夏休みはそんなに待ってはくれないのだ……。
絶望に打ちひしがれ、俺はいつのまにかそのまま眠りに付いた。