表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界トラベルエージェンシー ~宿敵も魔王も居ない平和な世界で異世界ガイドブック作り~  作者: アーミー
第2章 【貿易と美食の街アーシア】 〜夕赤の天使と若き騎士〜
17/19

e02-09『怖いお兄さん達には近付かないように』

 それからというもの、暫く会話もなくただ並んで2人海を見つめていた。



 そんないたたまれない空気の最中……


「あーー! いたいた!! ねぇ、そこの赤いローブの彼女!」


 聞き慣れない声に、ふと振り返る。



 見るからに"職業:遊び人"な若い男が2人、ヘラヘラと笑いながらシロエに近づいてくる。



「ねぇ、俺達この街の人間でさ、良い店とか知ってんだけど! 良かったらこれからご飯でもどぅ?」


 一方の男がシロエの顔を覗き込む。


 慌ててローブのフードを被るシロエ。


「なにー? 恥ずかしいの? かーわいいなぁ! 実はさっきその辺でキミの事見かけてさぁ! めっちゃ可愛いじゃんって話してたんだよー!」


 もう1人の男がフードに手をかけて脱がせようとする。



「――ごめんなさい、私用事があるの」


 そう言ってそっと下がるシロエ。



「え、なに? そいつの事? まさか彼氏とか?」


「……そういうのじゃないけど」


 いや、確かにその通りなんだけど……何だか少し傷つく。


「じゃ、いいじゃん! しかもさ、見てたら何かそいつと喧嘩してたみたいじゃん!? そんな奴ほっとこうぜぇ!」



 そう言うと、強引にシロエの腕を掴む。


「ちょっと、痛い!」


 シロエの声を聴いて、俺は思わずその男の腕を掴んでいた!




「……なんだよ?」


 男が、急に静かな口調になり俺の顔を睨みつける。



「……痛いって言ってんじゃん。その手、放せよ!」



 ――――言った。

 言ってしまった。



 元の世界じゃ絶対に考えられない。


 いや、そもそも元の世界じゃこんな可愛い女の子を連れて歩くような機会も無かったし、そう言う意味でもこんなシチュエーション自体考えられないんだけれど、そういう事じゃない。


 異世界に来て、まだ認識が現実に追いついていないのか、自分でも信じられないけれど、俺はチャラ男2人に向かって、精一杯のメンチを切っていた。



「……ねぇ、お兄ちゃん。ちょっと向こうでお話しようかぁ」


 男が俺の肩をがばっと抱く。



「か、カナト!」


 慌てて声を上げるシロエ。



「だ、大丈夫だから。シロエは先に行ってて」


 何処に? いや、何処でもいい。


 とりあえずシロエさえこの場から逃がす事が出来れば、後は俺も逃げるなりなんなり……


 ……と思ったけれど、そう上手くは行かなかった。



 もう一人がシロエの肩を抱く。


「ち、ちょっと、辞めてよ!」


 嫌がって振り解こうとするシロエ。


 けれど、男はニタニタした笑いを浮かべたまま離そうとしない。


「おい、お前ら! いい加減にしろよ!」


 シロエを助けるため俺の肩を抱く男を腕を思いっきり振ったら、その拍子に俺の手の甲が軽く男の顔に当たった。


「痛ったーー! 見た見た? 俺、今暴行受けたんですけど!!」


「あー! 見た! お前ヤバくね? それ、歯とか折れちゃったんじゃね?」


「ちょっと、どう責任取ってくれんだよ!?」


 大声で騒ぎ出す2人。


 周りの人達は我関せずという顔で見て見ぬ振りで通り過ぎて行く。



 ……その時



「何じゃ、楽しそうじゃな! 妾もまぜてはくれんかの」


 不意に、後ろから男達の肩を2人纏めて抱く女性。


 金の長髪に、燃えるような紅い瞳。

 真っ赤なワンピースを纏った……

 言うならばシロエの可憐な雰囲気とは真逆に位置する妖艶な美女がそこに立っていた。


 そのすぐ後ろにはローガンの姿が。



「く……クレシア様!?」


 引き攣った声を出して急に小さくなる男達。


「どうした? 妾の連れに何か用があるのじゃろ? 続けてくれ」


 そう言うと、抱いていた男達の肩を離す。



「い、いえ。こ、これは、違うんです。……そっちの少年、そう、その人の方から俺らに乱暴を働いてきてですね」


「そ、そうなんですよ。俺たち少し話をしたかっただけなのに」


「そうなのか……。それはお前達も災難じゃったの」


「そ、そうなんですよ!」


「そうかそうか」



 そう言って笑顔で頷いた後、急に黙る。


 夕日のような真っ赤な瞳が、まるで血に染まったように妖しく光る。



「――――で、どっちから先に“沈む”のが良いかの?」


 そう言ってちチラッと海を見る。



「ひ、ひぃぃぃ! ど、どうかお許しください!」


 そう言って妲己の如く逃げ去って行く男達。




「お前……死神かなんかなのか?」


 黙って見ていたローガンが、やれやれといった様子で声をかける。


「失礼な。もしそうなら今頃お主は生きとらんじゃろ」



 そんな事を言いながら、俺の方に歩み寄ってくる。


「お前がカナトじゃな。ふむ、見た所そんなに腕っぷしは強く無さそうじゃが……なかなかやるではないか! 気に入ったぞ」


 そう言って、子供を褒めるように俺の頭を撫でる。



「で、そっちがシロエか。……成程な。妾はクレシアじゃ。“夕赤の天使”などと呼ばれておる。ヨロシクな」


 そう言って握手を求めるクレシア。



「て、天使……様。よろしくお願いします」


 握手を返すシロエ。



「して、会ったばかりで急じゃが。先程ローガンに少し世話になっての。食事でも、と話しておったのじゃが、お主らも一緒に行くぞ。無論、妾の奢りじゃ!」



 ……あぁ、そう言う事か!


 何が起きたのか全く分からなかったが、おっさんの連れだったんだな! この数時間の間に何があったかは分からないが、とりあえずナイスだ!!


 飯と言う単語を聞いた瞬間に、猛烈にお腹が空いてきた。


 そう言えば今日はまだお茶だけ。

 朝飯も食べて無いんだった



「ほんとですか!? 実は腹ペコで……俺までお言葉に甘えちゃっても良いんですか?」


「無論じゃ! 食事は大勢の方が楽しいからのぉ。……シロエも良いな?」


 有無を言わせない迫力。


 何だ? ご飯に誘うだけなのにここまで高圧的になる事なくても……。


「は……はい。勿論です」


 ほら、シロエも怯えちゃってるじゃないか。


「よーし! では妾の馴染みの店に連れて行ってやろうぞ! 間違いなくこの街でナンバーワンの名店じゃ!! 心して付いて参れ!」


 そう言ってご機嫌良く歩き出すクレシア。


 黙ってそれに続くローガン。



 俺とシロエもその後から付いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ