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異世界トラベルエージェンシー ~宿敵も魔王も居ない平和な世界で異世界ガイドブック作り~  作者: アーミー
第2章 【貿易と美食の街アーシア】 〜夕赤の天使と若き騎士〜
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e02-06『どこの国でも騎士は大変』【挿絵あり】

「あー! ドレスはどうしたんですか!? どうりで逃げ足が早いと思ったら、いつの間にお召し替えを!?」


 騎士風の男が大声を上げる。



 そんな彼の事は無視して話を続けるクレシア。


「ほれ、言っとる先から悪人の手先が追ってきよった……」


 目をウルウルさせて俺を見つめる。


「あーはいはい。あちらさん、どう見ても正規の騎士か何かだろ。察するところ……良家のお嬢様の家出か何かか?」


「家出とは人聞きが悪い! ただちょっと2,3日帰らんと心に決めて独りで散歩に出ただけじゃ」


「それを世の中では家出と言うんだよ! お・嬢・様!」



 業を煮やしたのか、俺たちのそんなやり取りを静観していた男が会話に割って入る。


「クレシア様! さぁ観念して帰りましょう。こう度々鬼ごっこに付き合わされては警護にも支障が出ます!」


「妾にこう度々脱走されるお前らの警護は既に問題ありだと思うがの」


 クレシアがやれやれといった感じで明後日の方向に呟く。


「御託はお屋敷に戻ってから聞きますので、さあ!」


 男が一歩前に出る。



「ふん! 見縊るでないぞ! 今回は強力な助っ人がおるのじゃ!」


 そう言って立ち上がると、素早く俺のベンチの後ろに隠れるクレシア。



「……そちらの男性は?」


「ローガンじゃ。つい今さっきナンパされとった所じゃ」


 あ。ヤバイ。俺不敬罪で捕まったりするの?



「な、なんと!」


 男の顔が驚きで強張る。


 しかし、それは直ぐに憐れむような慈悲深い物へと変わる。


「クレシア様をナンパなどなんと恐れ知らずな……。悪い事は申しません。これ以上厄介ごとに巻き込まれる前に、どうかこの場をお離れください」


 あれ、何か俺の方が心配されてる。



「ちょっと! それはどう言う意味じゃ!」


 クレセアが俺越しに男を威嚇する。


「そのままの意味ですよ!!」


 俺越しに睨み合う2人。



 騎士というのはもっと堅物なイメージだったが、この男は割と物腰柔らかな印象だ。


 クレシアと同じくらいの年頃だろうか。

 やや赤みがかった髪に、青い目が印象的な爽やか好青年といった風体。


 周りに居る連中は……どいつも年上みたいだな。

 この若さで部下を何人も連れ歩いてるということは、それなりに腕は立つんだろう。



「で、どうすんだ? あんたをお姫様抱っこして走って逃げりゃいいのか?」


 黙っていても埒が明かなそうなので、頭上のクレシアに声を掛ける。



「……いや、こうも囲まれては無策に逃げ切るのは厳しいじゃろ。……そうじゃ、貴様突撃しろ。その隙に妾は逃げる」


「……その場合、俺何の得も無いよな」


「むぅ。まぁそうじゃのう……。ならば、あいつと一戦交えてみろ。もし勝てたら食事の1つくらい付き合ってやらんでもないぞ! 応援してやる」


「んー、そりゃ中々悪くない提案だが……」


 男の方を振り向いて問いかける。


「なぁおい! もしあんたらと一戦交えた場合、俺って犯罪者になるのか? あんたらそれなりの騎士団か何かだろ?」


「えぇ。我々はセントレイア騎士団のアーシア支部隊です。事を構えるとなると……まぁ、事情が事情だけに情状酌量の余地は十分にありますが、最低でも騎士団支部まで御同行頂く必要はありますね……」


 セントレイア騎士団……か。


 それはさておき、丁寧に答えてくれるとは何とも律儀な男だ。

 まぁ、あちらさんが勝って俺が逮捕される前提で話されるのはやや癪だが。


「じゃあ別の選択肢として……例えば、俺が素直にこのお嬢様を差し出すなり1人で逃げ出すなりした場合、どうなると思う?」


 頭上を見ると、クレシアがなんともおっかない目付きで俺を睨みつけている。

 見なかった事にして男に向き直る。



「あーー……それはですねぇ……」


 今にも俺を食い殺しそうなクレシアを見て、男も気まずそうに目を逸らしながら続ける。


「良くて、金輪際アーシア出入り禁止。悪い場合は……暗殺者でも雇われて、街から出る前に路地裏でブスリと行かれかねないかも……ですかね。ハハッ」


「ハハッじゃねぇよ! どう考えても前者の方がまだマシだろ!」



「……それもそうですね! 申し訳ありませんが、運が無かったと思ってクレシア様のご提案通り、玉砕してください。あ、とは言え安心してくださいね。お怪我をさせるつもりはありませんから! 騎士団にもなるべく事情は説明しますので」


 申し訳なさそうにしつつ男は剣を抜きこちらに向けて構える。


「一応、僕も騎士の端くれ。剣を抜いたからには名乗りを上げさせてください」


 そう言って、抜いた剣を真っすぐと立て眼前に構える。

 先程までの柔らかな表情は消え去り、その眼光が一瞬にして鋭く研ぎ澄まされる。


「セントレイア騎士団、アーシア支部エレイン隊隊長、エレイン・グロウ・ストラドス!」


「……おぉ、その歳で隊長とは凄いじゃないかエレイン君! しかしここは1つ、年長者から大切な忠告をしておこう……」


 この若き隊長君も色々苦労してるんだろうが、こっちとて素直に捕まってやる訳にもいかん。

 上がっている二択はどっちに転んでもろくなことにならなさそうだからな。


 右手を上げ彼に向ける。


「――おじさん、結構強いんだぜ! キヴィ・ロッカ!!」


 瞬間――魔法発動の閃光が走り、現れた複数の石塊がエレイン目掛けて高速で飛翔する!


挿絵(By みてみん)

クレシア


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



▷セントレイア騎士団

 エバージェリー全域で広く信仰されている『セントレイア教』が有する私設騎士団。

 古くより、天使に使えその護衛から街の警備までを一手に担ってきた。

 由緒正しき一大騎士団であり、今でもエバージェリーの各所でそんな彼らの勇士を見る事ができる。

 しかしながら、近年(異世界大戦後)は新設されたエバー・キプロ共益協会が天使の護衛や街の警備を取り仕切る事が多くなり、歴史ある騎士団の規模は徐々に縮小しつつある。

 紋章は、女神とそれを守護する尾の長い獣。

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