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異世界トラベルエージェンシー ~宿敵も魔王も居ない平和な世界で異世界ガイドブック作り~  作者: アーミー
第2章 【貿易と美食の街アーシア】 〜夕赤の天使と若き騎士〜
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e02-02『露店の値札って有って無いような物』

賑やかな人混みの中をシロエと並んで歩く。



すれ違う人々が頻繁にこっちを振り向いてくるので、何か悪目立ちしてるんじゃないかと不安になる。


けれど、若い男同士の『な! あの子めっちゃ可愛くね!?』という会話が聞こえてきてその原因がシロエにある事が分かった。

しかも、その回数……1度や2度じゃない。


街に入って沢山の人とすれ違ったけど……このファンタジーな世界の中でもシロエは頭一つ抜けた美人みたいだ。



ローブのフードを深めに被ってはいるけが、それでもその端整な顔立ちは人目を惹くようで、それに気づいた人達が男女問わず彼女を目で追っているのが何となく分かる。



ちなみに、獣人やリザードマンの美的センスは分からないので、人間やエルフに限っての話だが。


その隣を歩く俺はと言うと、女の子と2人で買い物なんて恐らく小学生の頃以来な訳で、無論デートなんて経験もない。


そんな恋愛Lv.1の俺がいきなりこんなラスボス級の女の子とデートイベントなんて……。


道行く人々から、シロエの隣を歩く俺は一体どう見えてるのかと思うと、実は既に手汗が凄い。



そんな事を考えているとシロエの隣を歩くのが心苦しくなってきたのか、いつの間にか歩く速度が落ちていたらしい。


「ねー、置いてくよー! ホントに迷子になったら大変!」


シロエが俺のパーカーの袖を引っ張って歩きだす。


周りの男達から明らかに殺意のこもった目線が注がれる。



あぁ――よし。

もうこのままあのおっさん捨ててこう!


この子と旅しよう。



そんな悪魔の囁きが脳内を駆け巡るのだった……。



―――――



広場を抜けると、沢山の露店が並ぶエリアに出た。



木製の骨組みに、白い布製の屋根を張った簡易的な店舗。


それが所狭しと並んで、一帯は空が殆ど見えないような状態だ。


バザールってやつだろうか。



屋台のテーブルには店ごとに色とりどりのクロスが敷かれており、その上に商品がずらりと並べられている。



売られている品は実に様々で、野菜や果物、魚介やソーセージのような見慣れた食料品を扱う店。

ネックレスや腕輪など装飾品を扱う店。

更には、何に使うのか動物の骨のような物や謎の粉末を扱う怪しげな店まで何でもありだ。



行き交う人々を避けながら、そんな店舗を次々に見て歩く。


異世界から来た俺には、当然珍しい物のオンパレード。


食べ物類は何となく分かる。野菜や果物、魚介類は比較的日本でも見た事のあるような品揃えだ。


日用雑貨や魔法アイテムのショップになるとよく分からん物が増えてくる。




ここで、ある重要な事に気づく……



――ちゃんと字が読める!



店頭に置かれている札には俺の知らない文字が書かれているが、それがちゃんと読めるのだ。



おぉ、これもセレアの力か!?


ここに来てうちの社長の偉大さに初めて気づく。


異世界に来たはいいが文字も言葉も通じませんじゃ一向に話が進まないからな!


やるじゃん小動物!




ただし、文字は読めるがその意味までは分からない。


例えば雑貨屋に置かれている看板。


『新型のクーレロ入荷しました!』


と書かれているのは読めるが、"クーレロ"が何なのかわ分からない。


逆に、武器屋に置かれている看板の『ロングソード』『スピア』といったような文字は読めるし意味も分かる。



つまり、元々知っている物は分かるし、知らない物は分からないというわけか。


……ん。いや、当たり前じゃん。


そんなセルフツッコミをしていると、不意に声を掛けられ我に返る。



「あら、お兄さん。変わった服着てるわね!」


気づけば洋服屋の前だった。



人の良さそうな女性店主がニコニコと俺に話しかけてくる。


「あ、やっぱり目立つかな?」


足を止めて答える。


先を歩いていたシロエが気づいて戻ってきてくれた。



「人の多いアーシアでも珍しいんですね? 私も見た事なくて。東方の普段着なんですって」


出ました“東方“設定。


“東方”ってどの辺? とか聞かれるとかなり危ない。



「へぇ……いったいどんな素材使ってるんだい?」


興味深そうな店主の視線を受け、服の裾をめくり内タグを見る。


「えっと……ポリエステル100%」


「ぽ、ぽりえすてる? この辺じゃ聞かない素材だね。まさか魔法素材かい!? よかったらちょっと見せて貰えないかい」


どうぞ、とパーカーの裾を差し出すと肌触りや裏地などを確認する店主。


「へぇ……中々仕立ての良い物だね。どれ、防御面はどうかね」


そう言って、何やら変わった形のルーペで生地を良く見る。



「防御力……0。耐炎……-100!? なにさこれ!?」


店主が驚きの声を上げる。



「な、なんだ?」


「お兄さん、悪い事は言わないからさ。旅人さんなら、安物でも良いからしっかりした冒険着用意した方がいいよ。その恰好じゃ戦闘になったら素っ裸に燃料巻きつけてるようなもんだよ!」


「え、え!? マジ?」



そう言えばポリエステルは燃えやすいって聞いた事がある……。


しかも物はピースフルな日本の普段着。


快適性は追及されているものの、防御力なんて考えられている訳がない。

U〇IQLOで、"防御力L"とか書かれてるの見たことないもん!



これはさっさと防具を揃えなきゃな……あ……だけどお金を持ってんのか!?



そう思ってポケットに手を入れると、何やら封筒が入っている事に気づいた。


"しゅっちょうてあて"と汚い字で書かれており、肉球型の手形が押されている。


なんて気の利く小動物なんだ!!



「こ、これで足りるかな」


そう言って封筒の中の紙幣をシロエに見せる。


紙幣の種類と物価が分からん。



「ん? 20,000コールもあれば十分だよ! ほら、このへんのだってセットで8,000コールだし」


「あら、お嬢ちゃん。中々良い目利きじゃないか。そいつは中古品だけど物はしっかりしてるし状態も良いよ。背丈的にも……うん、大丈夫そうね」


シロエが指差したのは、如何にも旅人Aといった感じの当たり障りのない異世界の服装だった。


「へぇ。じゃあそれで……」


そう言ってお金を取り出そうとしたとき――



「お姉さん! セットで買うから5,000にして!」


横からシロエが割って入る。


「5,000は流石にキツいよー! じゃ、7,000ならどうだい?」


「えぇー……それだと今日の宿代が厳しいなぁ」



おぉ、これがバザール名物の値下げ交渉というやつか!


一瞬にして1,000も下がってるぞ(高いのか安いのか分からんが)


宿代ってのは建前だろう。こういう時女の子は頼もしい!


「5,500!」


「いや〜、限界でも6,500かねぇ」


「む〜〜」


唸って考え込むシロエ。



ふと目をやると、机に綺麗なアクセサリーがいくつも並べられている。


置かれている値札は『500c』



「あ、じゃあさ! 6,500で、そこのアクセサリー1つ付けてよ!」


2人の間に割り込んで提案してみる。



「うーん、まぁそれなら良いよ!」


店主も快諾してくれた。


「え、でもカナト。これ女の子用だよ」


そう言って俺を見るシロエ。



「シロエにプレゼントするよ。買い物付き合ってくれたお礼。好きなの選んで」



「――え!? ホント?」


予想以上に驚いた顔。


「……嬉しい。ありがとう」


そう言って真剣に選び始める。



「なんだいお兄さん、冴えない顔して中々やるじゃないかい!」


そう言ってニヤニヤしながら、買った服を袋に詰めてくれる店主。



「どれも可愛いなぁ……えっと、じゃあコレで!」


そう言ってシロエが取り上げたのは、淡い青色に輝くガラスをあしらった、蝶がモチーフの髪留めだった。


さっそく髪に付けてみる。



「ねぇ、どう? 可愛いかな?」


ブンブンと首を大きく縦に振る。



「やった」


満面の笑顔で小さくガッツポーズするシロエ。


可愛い! もうあなたは何しても可愛いから!!


だんだんただの気持ち悪い奴と化してきた自分を落ち着かせ、店主から荷物を受け取る。


「ありがとね! また来ておくれ」


「こっちこそ」

「ありがとうございます」


挨拶を交わし店舗を後にする。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



▷アーシアバザール

貿易の街『アーシア』名物のバザール。

多い時には300を超える店舗が軒を並べる巨大バザールだ。

真っ白に統一された屋台の屋根とは対照的に、各店舗は色とりどりの布地で装飾され見ているだけでも楽しい。

貿易の街が誇るバザールだけあってその品揃えは圧巻の一言。専門店でも入手が困難な商品が普通に並んでいる事もあるそうで、このバザールを目当てにアーシアを訪れる人も少なくない。

バザールでは値引き交渉が当たり前。少し勇気がいるかもしれないが、是非挑戦して貰いたい。

ちなみに、朝と夕方は非常に込み合うので、ゆっくり買い物がしたい場合はお昼過ぎがオススメ。


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