ただひとつの武器
今回も短めです。
……朝か。飲み過ぎたのか頭が痛い。そんなに呑んだつもりはなかったのだが。
気だるい体に気合を入れて、ベットから立ち上がり外を見る。日の高さから昼前ぐらいだろう。
……そういえばナーシスは大丈夫なのだろうか。俺よりも遥かに呑んでいた。下戸と自分で言っていたし、もしかしたら今日1日動く事すらままならないかもしれない。少し様子を見に行った方が良さそうだ。思い立ったが吉日というし早速行こう。
部屋を出てフロアを見てみると、そこにはパンをスープに浸して齧るナーシスがいた。
「あ、おはよう」
おはよう。大丈夫か?
「何が?」
いや、昨日あんなに呑んで悪酔いしてたから……
「?私は1杯だけしか呑んでないよ?」
こいつは何を言っているんだ……
「私は昨日1杯だけ呑んで帰ったんだろう?」
……酒に弱いとかそういうレベルじゃない気がする。1杯呑んだ後の記憶全部消えるとか……。困って旦那を見て見たらサムズアップされた。どういうことだ。
……うん、そっとしておこう。これは気にするだけ無意味だ。
「?」
ガックリとうなだれる俺を見て首を傾げるナーシス。どうやら心配するだけ損だったようだ。
昼食も程々に済ませ、俺は親方の所へと歩を進めていた。ナーシスが親方から伝言を預かっていて、どうやら件の武器ができたから取りに来いとの事だ。こちらとしても武器らしい武器がナーシスから貰った弓とナイフだけで少々心許ないので早速受け取りに行くとしよう。
しばらく歩くといつもの金属同士がぶつかり合ういつもの音が響く場所へと辿り着いた。親方は手すりに寄りかかって休憩中だったようだ。
「よう、来たか」
挨拶もそこそこにして、早速現物を見せてもらう事にした。親方が弟子に布で包まれた何かを持ってこさせる。
「その中にお前の為に打った、お前だけの武器がある。早速開いてみろ」
親方に言われた通り布を捲る。俺の為だけに作られた武器。果たしてどのようなものなのだろうか。期待と不安を胸に布を捲っていき、やがて包まれていた物が姿を現した。
斧だ。
鉄板を曲げて叩いてくっ付けた後研いて整えられた木の棒をはめ込んだだけの簡単な手斧である。
……なんかこんな風に大層に包んだにしてはしょぼくね?
「なんか文句あんのか」
物凄く怖い顔で睨まれた。確かに作って貰っている側である以上文句は言えないのだが、それにしたって装飾も何も無いただの手斧なのだ。流石に地味すぎやしないだろうか。狩猟団の人とかバカでかい剣とか腕ほどの長さの剣とかでしかも鞘が物凄く丁寧に装飾されてるやつなのに。
「馬鹿野郎、てめぇはあくまで何でも屋で狩猟団の一員ってわけじゃねぇだろうが!あれは都市部に遠征した時に恥ずかしくない程度に装飾入れてるだけだ!狩猟団ってのはこの村の顔みたいなもんだからな。てめぇはまだそんな遠出をする予定なんざねぇだろ。今はこんなもんで十分だ!」
確かにそれはそうなのだが……
「それにな、ナーシスから聞いたがおめぇさんの戦い方は剣を使うのには向いてねぇんだよ」
一体どういうことだろうか。
「俺もナーシスから聞いただけだし、どういうわけか知らんがどうにもお前さんは正面から剣構えて戦うってのが向いてないらしくてな。戦うってなると勝手に水の魔術が発動して全体的な身体能力が上がるからそんな状態で剣で打ち合いなんかしたら鉄の武器じゃお前さんの力に武器が耐えられないで壊れること間違いなしだそうだ」
……言われてみれば確かにその通りだ。水の魔術は俺が戦うとなった時だけ勝手に発動して、任意での切り替えは効かない。その上加減も聞かないから打ち合いなんかしようものなら武器が壊れるだろう。
「その分手斧だったら普通に武器として使うだけじゃなく投擲武器としても使えるし、振った音も小さいから不意打ちを得意とするお前さんならピッタリだろうってことで手斧にしたんだよ」
……ぐうの音も出ない。というか冷静に考えれば当然の話である。
「ったく、納得したか?」
あぁ。それに先程の発言は考えなしすぎた。改めて謝らせてもらう。
「それならいいんだよ。それにまぁ、何にしても遠征用の武器はそのうちちゃんと用意してやるから待ってろ」
そう締めくくると親方は弟子と一緒に作業場へと入っていった。
新しい武器が貰えるということで少々浮かれすぎていたようだ。今度お詫びに酒でも持ってこよう。
手斧を見る。これから長く使う事になるだろうこいつに対しても失礼な事言ってしまったな……。武器は使い手次第で最強にも最弱にもなると言う。この斧と、作ってくれた親方に恥じない程度の強さにはなろう。