初依頼達成の夜に。
短めです。
「依頼成功おめでとう」
ジョッキをぶつけ、飲む。今日は何でも屋としての初依頼達成の祝いということで旦那が少し奮発してエールの他に鳥の丸焼きや鹿肉のチョップを作ってくれた。噛む度に溢れ出す肉汁を舌で味わい、エールでそれを流し込む。これがこの1杯のために働いている、というやつなのだろう。
「初依頼にしてはちょっと色々あったけど、なんとか達成することが出来たね」
勿論今回の依頼に同行してくれたナーシスも一緒にいる。エールで若干気分が高揚しているのか、頬が赤い。
「お酒はあんまり得意じゃないんだけど、こういう日くらいは飲まないとね」
エールを流し込むナーシス。酒に弱いと言う割にはかなりのスピードで飲んでいる。既に2杯目だ。
「んくっ……んくっ……っぷはぁー!久しぶりに飲むと美味しいものだね、ふふ」
3杯目のエールを頼むナーシス。大丈夫なのだろうか?
「んー……?なんだい、君全然飲んでないじゃないか。ほら、今日は君を祝う日なんだからもっと飲んで、遠慮しないでいんだよ?」
ぐいぐいとジョッキを押し付けてくる。既に服は着替えて私服のになっているため、角度的に胸元がチラ見していて少しでも俺が体を動かそうものなら見えちゃいけない部分まで見えてしまいそうなだいぶ危うい体勢だ。
「もー……ほら、のんで!」
何を言っても聞かなそうなので観念して飲む。ナーシスはそれを見てにへらと笑っている。中々レアな光景なのでは?
「んふー、美味しいでしょ」
誇らしげにするナーシス。このエールは旦那のものなのだが……言っても聞く耳持たなそうだ。
「きょうは依頼順調に達成出来たし、君のカッコいいところもみれたし、いいことづくめだ!」
普段クールで笑うことの無いナーシスの満面の笑み。後光が差してるな。
「ふっへへへ……だんなー!おかわり!」
いつの間にかナーシスの飲んだ空のジョッキの数は6個になっていた。この調子からして完全に酔っ払ってるし、流石に飲み過ぎだろう。
ナーシス、そこら辺にしたほうが……
「えぇ〜!やだ、まだのむの!」
ダメだこの子、早く休ませないと。
ほら、ナーシス。もう寝た方がいい。家まで送ってやるから。
「えぇ〜……やだぁ……もっとのみたーい……」
今度は駄々こね始めたぞ、どうしろというのだ。
「うぅ〜……」
くてっと机に寄りかかる。こう見ていると先程まで騒いでいたのが急に静かになり、うとうとと宙を漕ぎ始めた。いいかげんねむくなったんだろう。
……しかしまぁ、こうして見てると挙動の一つ一つが小動物みたいだ。さっきの坑道での動きが嘘みたいだな……
……何故ナーシスは、山賊に対してあんなにも殺意を抱いていたのだろうか。確かに山賊という奴らは悪逆非道の限りを尽くす外道の極みだし、怒りを抱くのは当然のことだとは思う。しかしあそこまで躊躇なく殺せる程の覚悟と、殺意を抱くのは何かしら理由があってのことだと思うが……。
物思いにふけっていると、旦那が肩を叩いた。酔い潰れたナーシスは旦那が運んで行ってくれるらしい。
俺が送っていこうかと思い立ち上がるが、ふらっとよろめいてしまった。自覚はなかったが自分もそれなりに酔っていたらしい。申し訳ないが旦那の好意に甘えるとしよう。
多少ふらつきながらも立ち上がって自分の部屋へと向かい、ベットに横になる。山賊に対してあそこまでの殺意を抱くナーシス。果たしてその理由はなんなのだろうか……考えるうちに意識は遠のいていき、深い眠りへと沈んでいった。