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4話

説明会が長過ぎて中だるみ感のする4話。

  アーディス村長と契約を交わした俺はこれからお世話になる村の宿屋へと村長と共に向かい、事の成り行きを話した。こういったこじんまりとした村特有なのかは分からないが、宿屋の経営者である旦那(みんな旦那と呼ぶ為本名は謎だ)は快く快諾し、2階の一室を俺の部屋として貸し与えてくれた。


  「あぁそうだ、これを渡しておくよ」


  そう言うと村長は清潔な服に幾らかの硬貨が入った袋、それとノカ村とその周辺について描かれた地図をくれた。


  「袋の中は銀貨が3枚と銅貨が30枚入ってて、一応言っておくと銅貨50枚で銀貨1枚、銀貨25枚で金貨1枚だよ。僕のへそくりから捻り出したものだからなるべく無駄遣いはしないでね?」


  部屋は1人分のベットが壁際に置いてあり、小さな物入れ箱が置かれて、ベットの傍に燭台が置いてあるだけの質素な部屋だ。散らかさなければ好きに物を置いてもいいらしい。

 ひとまず血に汚れた服を何とか脱ぎ、渡された服に袖を通す。片腕で着替える作業はしんどかった……。

  物入れ箱の中に地図と硬貨の入った袋を入れ、旦那から貰った鍵で閉じる。そうして再び2階から降りると村長はいなくなっており、変わりにナーシスがいた。ナーシスも着替えたようで先程までの狩猟用の身軽な服装ではなくシャツにスカートの女の子らしい格好となっている。


  「ん、村長から変わりに村の案内を頼まれたからね。と、言ってもそんな大きな村じゃないし、これといった店もないからすぐ終わるさ」


  着いてきてとナーシスに呼ばれ宿屋を出る。村ものどかなもので桑を片手におしゃべりに興じるご婦人方に斧で薪を割る少年など、それぞれが自由に過ごしていた。


  ふと村の入口が騒がしくなり、目をやる。


  「帰ってきたぞー!」

  「熊だ!大物だぞ!」


  5人組の傷だらけの男が大きな手押し車に熊の死体を載せて引いてくる。見たところ4〜5mはありそうだ。手押し車の周りに人が殺到してちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。


  「あんな感じで毎月大物狩りに行ってるのがこの村が誇る狩猟団だよ。月に1回村の中でも選りすぐりの狩人が森の奥地に入って行って獲物を仕留めるまで数週間森で過ごすんだ。仕留めた獲物は最低限の部位だけ村で保存食として取っておいて、残りの部分は首都の商人に売りつけるんだ。皮は鍛冶にも使えるしね」


 成程……話に聞くのと実際に見るのでは大違いだな。危険は多いが1回の狩猟で結構な見返りがあるようだ。


「もっと近付いて見てもいいけど……どうする?」


  せっかくだ、見に行ってみよう。月に1回ということだしここに定住するならまた見る機会はあるだろうが目先のイベントに食いつかないほど俺は大人になりきれんのだよ。さぁ、目の前の人集りに全速前進DA☆


  「子供だなぁ……」


  なんか後ろからの視線が痛いが気にしない。というか前回真面目な話とかばっかだったせいでふざけられなかったので鬱憤溜まっているのだ。こういう時くらい巫山戯なければキャラを忘れてしまう。


  人混みかき分けて改めて仕留められた熊を見る。離れから見た時もでかく感じたが近くで見ると尚更でかく感じる。よくよく見ると茶色の毛の中には薄らと青みがかったものが混じっており、手足の爪は人の指二本分位の太さをしている。こんなもので引っかかれようものなら即死だろう。……最初に遭遇したのがあのリザードマンで良かった……。こんなのと一人で方向感覚の効かない森の中で遭遇したら絶対逃げきれなかった。


  「おう、兄ちゃん、見慣れねぇ顔だが新参か?」


  背中に弓と矢筒、メイスらしき鈍器を背負った狩猟団の1人が話しかけてくる。

  ……スキンヘッドの頭が太陽を反射して輝いている……。


  「……兄ちゃん、なんか今失礼なこと考えなかったか?」


  イイエナンデモアリマセン……


  「……?まぁ、なんでもないならないでいいんだけどよ。俺の勘違いだったか」


  ……狩人ってみんな感がいいんだな。


  しかしこれだけでかいのを仕留めるには時間がかかっただろう。傷一つなく仕留めるというのは難しかったのではないだろうか


  「いいや、そうでも無いぜ。生息範囲と活動時間や習性をしっかりと調べてその上で仕掛けを多数掛けておけば後は嵌め殺しできるからな。せっかくの大物だってのに死んだって意味がねぇんでその辺は徹底してるぜ」


  わぁ、想像よりもエグかった。いやまぁ、人の貧弱な体でこんなのと正面切って戦うとか無理難題にも程があるから当たり前か。


  「そうだ、せっかくだし兄ちゃんこいつの爪いるかい?」


  貰えるものは頂くがそんな簡単に渡していいのだろうか。


  「いいんだよ、爪の1本くらいなくても対して値段に差は出ねぇからな。それにこいつの爪は凄いぜ?しっかりと手入れされしておけばナイフいらずだ」


  その狩猟団員はナイフを腰から抜くと熊の爪を1本切り取り俺に渡し、試しに切ってみろといいと縄を取り出す。

 物は試しだということでやってみたらナイフと同じように、もしかしたらナイフよりも綺麗に麻縄を斬ることが出来た。


  「どうだ、すげぇだろ?この熊は森の奥の蔦が絡んだ樹海の中に生息してるから蔦を斬るために爪や歯が鋭く発達しててな、爪で獲物の肉を抉りとって仕留めるんじゃなくて斬るようにして仕留めるという特殊な生態をしてるんだ」


  それはまた凄まじい進化を遂げたものだ。というかそんな環境でこんなにでかく成長したのか……


  「ま、兄ちゃんもこの村で狩人になるんだったら今度また教えてやるよ」


  狩猟団員の人……スキンヘッドの先輩、スキンヘッド先輩と呼ぼう。スキンヘッド先輩はそう言うと仲間に呼びかけて手押し車を運んで行った。


  「いいもの貰えたじゃないか」


  後ろからナーシスが話しかけてくる。見てたんだったら何か言ってくれればよかったのに。


  「いやー、少年のような眼差しで話聞いてたからね。変に水を差すのも駄目かなと思ってね」


  そんな気を使わなくて良かったのだが……


  「いいよいいよ。村の案内に戻ろうじゃないか」


  ……ところでナーシス。


  「なんだい?」


  この爪どうやって持ち歩けばいいだろうか。鋭い上に切れ味良すぎてポケットに入れようものなら太腿をざっくり行くこと間違いなしなのだが……。


  「……しばらくの間持ちっぱにするしかないね」


  ……そっかぁー。


  少し歩き、一件の家の前に着いた。鉄を叩く音と火の燃える音が絶え間なく聞こえる。


  「ここが鍛冶屋。弓やナイフとか、狩猟道具はここで売ってて、手入れもして貰えるんだよ」


  外では1人の壮年の男性が座り込んで剣を研いでいた。屈強な体に髭を蓄えた姿は貫禄があり非常に逞しい。


  「親方、ただいま」

  「ん、フォルトの嬢ちゃんじゃねぇか。そっちのは見ねぇ顔だが、新参か?」


  どうも、根無し草です。宿屋に泊めてもらう代わりにこの村の雑用係に就任しました。


  「そりゃいいな、今度こき使ってやるよ」

  「雑用係じゃなくて何でも屋だから一応仕事として通してあげてね?」


 ナーシス、この人は?


  「ん、この人は親方。この鍛冶屋の店長で、村の狩人全員の武器を作ってる人だよ」

  「よろしくな坊主」


  差し出された手を握る。がっしりとした職人の手だ。何年金槌を持って鉄を叩いてきたのだろう。


  「それで、なんか買ってくか?」

  「今日は挨拶回りがてら回っているだけだから遠慮するよ」

  「なんでぇい、つれねぇな……」


  ま、なんか欲しいもんあったら言いに来いよ、という親方と別れを告げて次の店へと向かった。


  次に着いたのは雑貨屋である。こちらは食材や娯楽品など多種多様な物を扱っており、基本的に困った時はここに来れば無いものは無いと言われているらしい。それゆえに村一番繁盛している店なのでないかというのがナーシスの談だ。


  最も、目の前でカウンターに突っ伏して寝ている少女を見ると到底そうは思えないのだが。14、15歳くらいだろうか。綺麗な銀髪をしている。


  「また店番しながら寝てる……」


  ナーシスの知り合いらしく、反応を見るにこれがしょっちゅうらしい。近付き揺さぶりながら声をかける。


  「フィナ、起きて、お客さんが来たよ?」

  「……眠い、後5分……」


  わぁ、ベッタベタなセリフだ。


  「フィナ、起きてってば」

  「……好きな物取ったら料金だけ置いてくれればそれでいいから……」

  「そんないいかげんな事してるとそのうち盗まれちゃうよ?」

  「……問題ない」

  「もう……」


  意地でも起きたくないようだ。頑なに顔をあげようとしない。


  「はぁ……ごめんね、この子はフィナ・クラーナ。この雑貨屋の店主なんだけど、見ての通り怠け者なんだよね……」

  「……私の主な活動時間は夜……昼間は力を蓄えているだけだから」


  なんというか、独特な子だ……

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