2話
大体のプロットはできてるのにいざ文章にすると難しい不具合。
この世界は、混迷の最中にあった。主人公が目覚めた大陸「アザムルド」は元々帝国と王国の二代国家によって統治されていた。だがつい最近海上国家「シーア」へ訪問していた帝王が搭乗していた船、「アズマ号」の破片と帝国の紋章の描かれた帆の一部、そして帝王と共に搭乗していた第一皇子が帝国の海域に浮かんでいるところが発見される。
救助された第一皇子の証言から、アズマ号に忍び込んでいた暗殺者によって帝王が殺害され、暗殺者が自分を巻き添えに船を爆破させた事が発覚。帝国を混乱に陥れることで帝国の内部分裂を起こし、それに乗じて大陸の統一を目的とした王国の仕業と判断した帝国は生存していた第一皇子を新たな帝王とし、先代帝王を殺害した王国許すまじと宣戦布告。
王国はそれを否定するも帝国は受け入れず、新帝王となった第一皇子「オーゼック・ファンダイン」は王国から送られた使者が持ってきた文書を読まずにその場で破り捨て、更にはその使者の首をその場で切り落とすという凶行に出る。こうして王国と帝国の全面戦争は避けられぬものとなってしまう。
勿論このような凶行に出た新帝王に対し苦情を唱える帝国貴族もいた。しかし陳述を唱えに言った帝国貴族はその全てが帰ってきた時に手のひらを返して新帝王に対して心酔し、新帝王へ忠誠を誓った。それを見た人間、全員がこう言ったそうだ。
まるで、洗脳でもされたかのように人が変わっていた、と。
アザムルド ????? ??? 夜
……知らない天井だ。見えるのは天井じゃなくて夜空だからなんか違うけどもう一度言っておこう。知らない天井「目覚めてすぐ何を言っているんだ?」ジーザス、聞かれていたようだ。
「通りかかったら腹に槍がぶっ刺さったリザードマンの死体と血塗れで左手が折れた男が倒れてたものだから何事かと思ったよ」
パチパチと燃えている焚き火に枝をくべながら女性が話す。どうやら倒れた自分を介抱してくれたようだ。丁寧に左腕には包帯が巻かれ固定されている。ありがてぇ……。
「んで、あんな所で何してたんだい?ここらで悪さしていたはぐれリザードマンの噂でも聞いて義憤抱いて身一つで挑んだのかい?」
どうやらあのワニはリザードマンと言うらしい。見た目以外は人ーーーヒューマと変わらないが、時折先程俺が必死になって殺したやつのように、文明からはぐれて獣となるのもいるんだそうだ。山賊とかと同類という事か。……一匹狼でよかった。ワニだけど。
「なんかしょうもない事考えてないか?」
どうやら彼女は読心術が使えるらしい。心が読めるとか怖すぎない?
「君がわかりやすいだけだと思うよ?」
マジか。
「マジだ」
オーマイガット。このままだと俺は単純間抜けのポンコツと認定されてしまう。クールでニヒルなカッコイイ二枚目イケメンが俺のキャラなのに。
「本当にクールでニヒルなカッコイイ二枚目キャラを目指しているならまずはその思考ダダ漏れな口を閉じるところから閉じるところから始めるべきだと思うよ。……それで、なんであんなところで倒れてたんだい?」
ふむ。それを語るには少々時間がかかる。そう、それは遠い昔、遥か彼方の銀g「いいから早く言ってくれないかい?いい加減そうやってすぐ話を脱線するのをやめた方がいいよ」……血も涙もない。
といっても、そんな対して話すことも無いのだ。ただ気がついたら砂浜で砂まみれになっていて、とりあえず人に会おうと思って海岸線を歩いていたらワニ人間改め野良リザードマンに襲われ、必死になりながらなんとかも生き延びたはいいものの死にかけてぶっ倒れた。そしたら……えーと……
「あぁ……ナーシス・フォルト。ナーシスでいいよ。君は?」
ふむ……どうしようか……。普通に自己紹介をしたいところなのだが、自分の名前が何でどこで生まれてどういう職業なのかも分からないのだ。紹介しようにも紹介する自分が分からないのだ。
……よし、ここは物凄く真面目に喋ることにしよう。死にかけていた所を助けてくれた命の恩人なんだ。変に茶化す方が失礼だろう。
……実は、記憶が無いんだ。
「……記憶が無い?」
あぁ。気付いたら砂浜に倒れていたんだが……自分がどうして砂浜で倒れていたのか、砂浜に辿り着く前は何をしていたのかその全てが分からないんだ。
「それは……」
とりあえず人を探して海岸沿いを歩いてたんだが、さっぱり見当たらなくてな。そしたらさっきのリザードマンに遭遇して……後は、さっき話した通りさ。
「襲われた、と……」
しばらくは逃げてたんだが追いつかれてね。覚悟を決めて正面から対峙して、なんとか辛勝した。
「武器を持った人間ならともかく、水の魔術と素手だけでよく戦ったね。凄いよ君は」
……水の魔術?
「うん。自分の血液に魔力を通して全体の身体能力を底上げしたんだろう?そうじゃなかったら素手でリザードマンと殴り合うなんて到底できない」
……なるほど、どうりで棒切れをぶっ刺すなんてことが出来たわけだ。
そういえば、ナーシスは何をしていたのだろうか。夜中にこんな辺鄙な所に来たって何も無いと思うのだが。
「あぁ、僕は所謂狩人ってやつでね。ここ最近僕の住んでる村の周辺によく出てくるようになって、畑を荒らされるようになってしまってさ。原因はなんだと調べてみたら君が仕留めたリザードマンの仕業だったようで、あいつが眠りに入る夜明けの前に狩ろうと思って来たら君が倒れていた訳だよ」
成程。つまり俺は一つの村の危機を救ったわけか。この調子なら英雄として崇め奉られるのも時間の問題だな。
「君のその虚言癖はどうにかならないのかい……?」
失礼な。俺から虚言癖を抜き取ったら何が残ると思ってるんだ。残るのはこのニヒルでクールなイケメン顔だけだぞ。
「虚言癖かつナルシストとか救いようがないね……」
何故だろう、喋る度にナーシスからの視線が冷たくなっていく。ちょっとふざけすぎたかもしれない。そろそろ真面目に話そう。
「それで、これからどうするんだい?」
正直な話、途方に暮れている。自分が何者なのか分からないし、ここがどこであるかも分からないのだ。目的もなく歩くのも乙ではあるがだからといってこのままではどこかで野垂れ死にするのがオチだろう。
「ふむ……記憶喪失、しかし腕は経つ……か……」
そう呟くとナーシスは足を組んで、顎を手にのせた。所謂考える人のポーズと言うやつだ。
そうしてしばらく悩んだ後、ナーシスは顔を上げた。
「ねぇ、君が良かったらだけどさ、うちの村で用心棒しない?」
まさかのスカウトである。有難くはあるのだが、大丈夫なのだろうか。
「大丈夫って、何が?」
いや、俺は身元不明、出身不明、過去不明の怪しさMAXの不審人物なわけで。そんなのを連れて帰って突然用心棒にしますとか、怪しまれないだろうかと。最悪村八分とかになるんじゃ……
「あぁ、別に気にしないていいよ、大丈夫」
……不安だ。自分が迫害されるならまだしも、ナーシスがそういう目にあったら俺は不甲斐なさと申し訳なさで首を吊りそうだ。
「大丈夫だって」
そう言って笑うナーシス。……まぁ、うん、そこまで言うんだったら多分大丈夫なんだろう。
「とりあえずもう少し寝ていいよ。村はそう遠くないし、日が完全に昇ってから行こう」
ナーシスがそう言い、いつの間にか焚き火で温めていたポットを取ると、中身をコップに移し俺に差し出してきた。
受け取り中身を見る。どうやら温めていたのはミルクだったようだ。ほのかに漂う香りが鼻腔をくすぐる。先程まで温めていたのでとても熱い。フー、フー、と何度か息を吹きかけ、一気に飲む。下を若干火傷しつつも、飲み干したミルクは体を温め、じんわりとしたものを感じさせた。
ふと空を見る。先程まで輝いていた星は段々と薄くなり、日が昇り始めている。……また寝てしまうのも味気ない。
「え?自分も起きておくだって?……構わないけど、体は大丈夫なのかい?結構血を流していたと思うけど……」
だいぶ楽になっている。日が登りきるまで数時間もないんだ。少しくらい話したい。
「ふーん……君がそう言うなら別に構わないよ」
そう言うとナーシスは日が完全に昇りきるまでの数時間、俺にこの世界の事や、ナーシスが住んでいる村のことを話してくれるのだった。