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旅ゴリラ

作者: 京本葉一



 むかしむかし、あるところに、ダンベルをもったお兄さんや、バーベルをかついだお姉さんが、たくさん集まっていました。

 お兄さんやお姉さんは、そこで筋肉を育てていました。


 筋肉に語りかけ、ときどき叫び声をあげながら、楽しく汗をかきます。

 気分は爽快です。

 自分にも周りにも、ほめ言葉を投げかけます。

 明るい笑顔で、鏡に向かってポーズを決めれば、ほめ言葉が飛びかいます。

 最高の気分です。


 ときどき新しい人もやってきました。

 若い人はもちろん、おじさんやおじいさん、おばさんやおばあさんたちもやってきましたが、ひときわムキムキのお兄さんたちが先生となって、お兄さんやお姉さんに仕上げてしまいます。

 古い人も新しい人も、みんな仲良しでした。

 自前のドリンクを自慢し合う、美しい光景が広がっていました。





 あるとき、一頭のゴリラがやってきました。

 ふらりとあらわれた旅ゴリラは、集まっていた人たちに、


「バナナはあるかい?」


 と、たずねました。

 ゴリラの肉体美に目を奪われていた、お兄さんやお姉さんたちは、もちろん置いてあったバナナを、大声で騒ぎながら、あるだけ手渡しました。


「いいバナナだ。こんな上物をいただいておいて、このまま立ち去るわけにはいかないな」


 一本食べても冷静なゴリラ。

 そのまわりには、落ち着いていられない人たちがいます。


 いったい何キロのダンベルを持てるのだろう?

 何キロのバーベルをかつげるのでしょう?


 ゴリラは穏やかな態度を保ったまま、人々の期待にこたえて、パフォーマンスをつづけました。

 希望する人たちには、筋肉にさわらせてあげました。

 嵐のような熱狂をつくりだしました。





 ゴリラは残ったバナナをもって旅立ってゆきましたが、その後、何日も何日も、お兄さんやお姉さんの興奮はつづいていました。

 そして、事件は起こりました。

 とあるお兄さんの、筋繊維がズタズタになるという、いたましい事件でした。


 なぜ?

 だれが?

 どうやって?


 そのすべてを、お兄さんやお姉さんたちは知っていました。

 わかっていながら、止めることができなかったのです。

 犯人を責めることはできませんでした。


 そこにはただ、過ちを悔いるお兄さんがいて、泣き虫なお兄さんやお姉さんがいて、なぐさめ励ましあう、素敵なお兄さんやお姉さんがいるだけでした。





 むかしむかし、あるところに、ダンベルをもったお兄さんや、バーベルをかついだお姉さんが、たくさん集まっていました。

 お兄さんやお姉さんは、そこで筋肉を育てていました。


 筋肉に語りかけ、ときどき叫び声をあげながら、楽しく汗をかきます。

 気分は爽快です。

 自分にも周りにも、ほめ言葉を投げかけます。

 明るい笑顔で、鏡に向かってポーズを決めれば、ほめ言葉が飛びかいます。

 最高の気分です。


 古い人も新しい人も、みんな仲良しでした。

 自前のドリンクを自慢し合う、美しい光景が広がっています。

 壁の高いところに、


『ゴリラ』


 と書かれた標語が飾られていましたが、いまひとつ、意味はわかりません。

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