【9】
「マスター。準備出来ました」
キャスティナは、早速マスターに声をかける。マスターは、名前はジーンと言って30台前半で爽やかなお兄さんと言った印象だ。既婚者で、商店の娘と結婚している。
「じゃー、このコーヒーを一番テーブルにお願い」
「はい」
キャスティナは、トレイにコーヒーを載せてテーブルに運ぶ。座っていたのは、年配の紳士。この方は、常連のお客様でキャステナもよく会う。この町に似つかわしくなく、どこか上品で雅やかな雰囲気が漂っている。
「おまたせしました。コーヒーです」
テーブルにコーヒーを置くと、本を読んでいた紳士が顔を上げた。
「可愛い声がすると思ったら、ティナちゃんか。ありがとう」
「今日もゆっくり、本読んでいって下さいね」
キャスティナは、紳士にそう言うと空いてるテーブルのお皿やカップを下げて回る。
それからのキャスティナは、4時まで目の回る忙しさだった。八百屋のおばあさんに聞いたのか、キャスティナがお店にいる事を聞き付けた若い男達でごったがえした。
カランカランと扉が開く度に、「いらっしゃいませ」と言って笑顔のキャスティナが出迎えてくれる。大概のお客は、一瞬でその笑顔の虜になってしまう。
「あっ。本当に今日はティナちゃんいる。会えてラッキー‼」
入ってくるなりキャスティナと同じ年くらいの男が声をかけた。
「こんにちは。わざわざ来てくれたんですか?ありがとう」
「ティナちゃん。4時だよ。上がって」
マスターが、キャスティナに言った。
「まじかぁー。今来たのに·····」
「ごめんなさい。折角だからコーヒー1杯は、飲んでいって下さいね。ここ空いてますから」
キャスティナは、カウンター席を勧めて素早くお店から立ち去る。
「マスター。今日もありがとうございました。楽しかったです。色々途中ですみません」
ペコリとマスターに挨拶する。
「ティナちゃんのお陰で、大繁盛だよ。またいつでもいいから来てね。従業員室のテーブルに封筒置いといたから持って行ってね」
「はい。では、失礼します」
キャスティナは、自分のロッカーに戻るとエプロンを脱いで畳む。ロッカーの中にしまって、ピンとバレッタをはずして前髪と髪を下ろす。手櫛で整えて、カバンをとる。テーブルに置いてある封筒をカバンに入れて裏口から外に出る。外はまだまだ明るい。これから夏にかけて、日が延びていく。
あー。今日すごく働いた。疲れたけど、楽しかった。さっ、早く帰らないとダンが心配する。キャスティナは、また30分かけて屋敷に歩いて帰った。




