【2-31】
それは一瞬の出来事だった。アルヴィンが剣を構えたかと思った瞬間、多数の騎士が一斉にアルヴィンに向かって剣を振りかざした。が、見事に全員吹っ飛ばされた。アイリーンもキャスティナも、唖然としている。凄い·····。隊長と言うからには、強いと思っていたが思っていたよりずっとずっと凄かった。
キャスティナが、エヴァンの方を見ると自分も相手にして貰いたそうに目を輝かせていた。
「エヴァン様も、行って来て下さい」
キャスティナが、エヴァンに声をかける。
「いや、側を離れるわけにはいきません」
エヴァンが、首を振る。
「いいのよ。エヴァンは、護衛の仕事があるから、なかなかこういう機会はないのでしょう?私達、動かないでここにいるから誰か代わりに寄越してくれればいいわ」
アイリーンも、エヴァンに言う。エヴァンは、迷っているようだったが二人の言葉に甘える事にした。アイリーンの言う様に、アルヴィンが相手にしてくれる機会は滅多にないからだ。
エヴァンがグランドに降りて間もなくすると、後輩のエアハルトがアイリーンとキャスティナの元に来てくれた。
「お久し振りです。アイリーン様、キャスティナ様」
エアハルトが、二人に丁寧に挨拶をする。
「お久し振りです。エアハルト様。訓練中に申し訳ないわ」
アイリーンがエアハルトに、申し訳なさそうに返事をした。
「いえ。私も久しぶりにお二人に会えて嬉しいですよ」
エアハルトが、にこにこと二人に笑顔を向ける。
「エアハルト様、ありがとうございます。私も久しぶりに会えて嬉しいです。それに、エヴァン様のお仕事風景が見られるなんて思いませんでした 」
キャスティナも、エアハルトに笑顔で答える。
「エヴァンは、強いですよ。アルヴィン隊長との手合せなんて見られないですからね。お二人ともラッキーですよ」
三人がグランドに視線を向けると、アルヴィンとエヴァンが向かい合ってるのが見える。周りの騎士達も、端に避けて二人の手合せを観戦するようだ。
二人が剣を抜き、構える。エヴァンが先に動いた。キンッキンッと、剣を交える音がグランド中に響き渡る。息を飲むようにみんなが二人を見守っている。エヴァンが切り崩そうと果敢に挑んでいる。それをアルヴィンが流れる様に、いなす。キャスティナは、何故だかとても綺麗だと思った。二人の顔は真剣そのもの。剣一本で相手に向き合い、真剣勝負をしている。この姿を目に焼き付けたいと思った。
勝敗は、一瞬だった。アルヴィンが動いたと思ったら、エヴァンが膝を突き、アルヴィンの剣先がエヴァンの首元で止まった。
「わあああああ」と、歓声が聞こえた。
キャスティナもアイリーンも、声も出さずじっと二人の姿に見入っていた。
「流石、アルヴィンだな」
誰かの声が聞こえ、キャスティナもアイリーンもハッと我に返り声のする方を見る。キャスティナ達が座っていた席の通路を挟んだ隣の席に、いつの間にいたのか背が高くて金髪の目付きのきつい男がいた。
「アラン殿下。気付かず、挨拶が遅れ申し訳ありません」
エアハルトが、アランに向き直り深々と頭を下げた。それを聞いた、キャスティナもアイリーンも絶句する。なぜ、こんな所に第二王子であるアラン殿下が?しかも、見たところお付きの人が見当たらない。
「ああ。気にするな。この訓練場にいるものみんなが、あの二人に見入ってたからな」
アイリーンとキャスティナは立ち上がり、通路に出てアラン殿下に向かって挨拶をした。
「アイリーン・ウィリアーズ・コーンフォレスです。アラン殿下、お久し振りにございます」
アイリーンが綺麗にお辞儀をした。
「キャスティナ・クラーク・エジャートンと申します。お初にお目にかかります」
キャスティナは、瞬時に貴族的な顔つきに切り替えお辞儀をした。
「コーンフォレス家の者達か。で、お前がエヴァンの噂の婚約者か」
アランの視線が、キャスティナの上から下まで一気に動いたのがわかった。にやりと笑っている。キャスティナは、何て似た者兄弟なのかしらっとため息をつきそうになるのを堪える。ある意味、期待を裏切らなかったわ。
「はい。本日は、セリア殿下とのお茶会の後にこちらに寄らせて頂きました」
キャスティナは、感情を出さない様に気を付けて返事をした。
「エヴァンの好みが、こんな子供だとはな。笑えるな」
「アラン殿下、私の婚約者に何か?」
声のした方を見ると、エヴァンとアルヴィンが階段を上がって観客席に向かって来るのが見えた。
「エヴァン。久しぶりじゃないか。アルヴィンが、訓練場に出ていると聞いて覗きに来たら、君の婚約者がいたから挨拶していただけだよ」
アランが嫌な笑顔を、エヴァンに向ける。
「なかなか、婚約者を紹介する機会に恵まれず申し訳ありませんでした」
エヴァンが、キャスティナの隣に来るとアランに一礼した。
「アラン殿下、そろそろお戻りになった方がよろしいかと?」
アルヴィンが、アランに冷ややかな目線を向ける。
「ああ。わかってる。今日も、アルヴィンは凄かった。たまには、私にも手合せ願えるか?」
アランにとっても、アルヴィンはどうやら尊敬に値する人物らしい。態度が私達と全然違う。
「そうですね。機会があれば。エアハルト、殿下の執務室までお送りしろ」
アルヴィンは、エアハルトに向かって言葉を投げた。
「では、アラン殿下。行きましょう」
エアハルトが、言うと渋々アランが出口に向かって歩き出す。キャスティナとアイリーンは、アランに向かって一礼した。
アランが階段の所まで行って、ふとエヴァン達の方を振り返る。さっきの雰囲気とは別人のキャスティナが目に入った。屈託ないキラキラした笑顔をエヴァンとアルヴィンに向けていた。何だ、さっきと全然違うではないか·····。
アランが、キャスティナに興味を持ってしまった瞬間だった。




