【2-22】
夜会当日、キャスティナは朝からリズとリサにより磨きあげられていた。今日こそ、エヴァンの仕事仲間に紹介してもらう予定だ。エヴァンの仕事仲間に婚約者として紹介されるという事は、ついにキャスティナが婚約者として身近な人に御披露目される事を意味する。リズとリサは、俄然やる気に満ち溢れている。
キャスティナの事を、エヴァンの仕事仲間にも気に入ってもらい、家族以外の人にも可愛がってもらいたいのだ。リズとリサは、キャスティナにもっと自分に自信を持ってもらいたかったし、貴族としての生活も楽しんでもらいたかった。それには、やはり外の人々にもキャスティナの良さを知ってもらいたかった。
今夜のドレスは、薄い紫のドレスだ。少し大人っぽくして欲しいというキャスティナの要望により、化粧も可愛らしさを抑えて凛とした雰囲気を醸し出している。髪形も、綺麗な黒髪を全面に出してハーフアップとなっている。
「いかがでしょうか?キャスティナお嬢様。今日は、大人コーデです」
リサが、キャスティナに聞く。
「ありがとう、リズリサ。今日は、いつもよりちょっと大人っぽくなったかしら?エヴァン様の隣にいて、少しでも釣り合うようにと思ったんだけど」
自分では、よくわからないと言った様子だ。
「お嬢様。この前の感じとまた違っていて、素敵です。今日は、可愛さではなく美しさが強調されてます‼エヴァン様を呼んで来ますね」
リサが部屋を出て、エヴァンを呼んで来てくれた。
「キャスティナ、凄く綺麗だよ」
エヴァンが部屋に入るなり、キャスティナをぎゅっと抱き締める。
「あー、あいつらに見せたくない。キャスティナも憧れの騎士が沢山いるけど、俺以外をキラキラした目で見たらダメだからね」
エヴァンは、腕を緩めてキャスティナの顔を窺いながら言う。
「私にとって、エヴァン様以上の騎士の方なんていません」
キャスティナは、きっぱりと言い切る。
「今日は、そんなに緊張しないで楽しんで来ようね」
「はい。では、リズリサ行ってくるわね」
キャスティナは、エヴァンの手を取り部屋を出ていく。二人とも笑顔で、見ているだけで微笑ましくなる。リズとリサは、今日こそキャスティナが楽しんで来ます様にと祈るのだった。
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第一騎士団の、副隊長であるノース伯爵家に到着した。キャスティナは、到着する前に道すがら馬車の中で疑問に思ってる事を質問した。
「エヴァン様、どうして第一騎士団の夜会を副隊長が主催なんですか?普通はそういうのって、隊長が主催なんじゃないですか?」
「……。キャスティナ、確かに普通は隊長主催なんだけど……。うちの隊長は少し変わってて、まだ結婚していらっしゃらないんだ。普通夜会だとか、お茶会って奥方が中心になって開催するから。だから、代わりに結婚してる副隊長が主催してるんだよ。この夜会が、第一騎士団の懇親会みたいなものだから。みんな家族や婚約者なんかを紹介するんだよ」
「そうなんですね。隊長は、確か公爵家の方ですよね?まだ結婚してないなんて、びっくりです。どんな方なのか、楽しみです」
なんともなしに聞いた隊長が、実は想像のはるか上をいくかなり個性的な人物であるなんて、この時は思いもよらなかったのである。




