【5】
キャスティナは、部屋の隅にある二人掛けのソファーに座る。やっと一息つくと昨日の出来事に思いを馳せる。あの庭園で起こった出来事は、今の今まで考えないようにしていた。考えたら顔に出てしまい、義母に何を言われるかわかったもんじゃないからだ。
自室に一人になり、昨日の事を思い出すと顔が赤くなり、自分の手で顔を覆って冷ます。
昨日の出来事を整理しなくちゃ。私、コーンウォレス侯爵家のエヴァン様に求婚されたのよね?あの名家の。間違ってないわよね·····。でも何で?時間にすると、30分ぐらい一緒にお茶してほんの少ししゃべっただけなのに。こんなに地味で可愛くない子にいきなり求婚なんてするはずないわよね。からかわれただけかしら?そっか、そうだよね。せっかくだから、いい思い出を残してあげようとかそんな感じかな。
うんうん。そうだ。そうに違いない。コーンウォレス侯爵家のエヴァン様と言えば、どんな美しいご令嬢が迫っても靡かないで冷たくあしらう事で有名だし。確か「冬の貴公子」って呼ばれてるんじゃなかったけ?
ん?でも昨日の彼は、全然冷たくなかったよね?もしかして、名前も偽名とか?よくわからないけど、婚約を申し込まれたのは、からかわれただけだな。
でも、あんな綺麗な場所で嘘だったとしてもプロポーズされて夢みたいだったな。しかもあんな格好いい人に。近衛騎士だったし。私、騎士に憧れてるんだよね。私を守ってくれる騎士さまどこかにいないかなって。お母様が、生きてた頃の夢って騎士の方と結婚だったなぁー。忘れてたな。
きっと私にはあんな事、二度とないだろうな。キャスティナは、目をつぶって昨日の出来事を思い出にする。エヴァン様、素敵な思い出をありがとうと心の中で呟いた。