【2-16】
「で、こちらがエヴァンの自慢の婚約者か?」
この国の第一王子である、サディアス・ロバーツ・フォルトゥーナが王族が座るイスに座って言い放った。サディアスは、足を組んで座り肘掛けに肘を立てている。どこか面白くなさそうに、イライラしている。
「いえ。私の婚約者は、アクシデントがあり大変申し訳ないのですが、本日はご紹介出来なくなりました。この侯爵令嬢が理由を説明してくれるそうなので、代わりに連れてきました」
エヴァンは、表情を無くし冷めた雰囲気を漂わせている。
「ほー。では、説明しろ」
サディアスが、面白そうに口を歪ませた。目は、全く笑っていない。
「私、リッチモンド侯爵家の次女でキャロライナ・リード・リッチモンドですわ」
キャロライナは、サディアスに向かって綺麗にカーテシーをする。
「私が、ワインを持って歩いてましたら、エヴァン様の婚約者様が、突然私の目の前で振り返りまして、それにびっくりしてぶつかってしまいましたの。ワインがかかってしまいまして、サディアス殿下にお会いするには難しい装いになってしまいまして……私、可愛そうだと思いまして、こうして代わりに理由を説明しに参りましたの」
キャロライナは、私ってなんて優しいのかしらと自慢げにサディアスに話をした。サディアスは、それを聞いて瞬時に理解する。よくある嫌がらせだと。この女は馬鹿なのか?わざわざ自分がやりましたと説明しに来て。侯爵令嬢ともあろう女性が、ワインを持っていてぶつかる訳がない。まず、自分で飲み物なんて取りに行かない。飲み物を持ちながら歩くなんて以ての外。もし、持ち歩くとしても人にぶつからない様に細心の注意を払う。目の前に人がいる所に、自分でワインを持って歩いて行く訳がない。
「エヴァン。私は今日の夜会で、ずっと楽しみにしていたんだよ。お前の婚約者がどんな女性なのか。私は、いつ会わせてもらえるのかね?」
「又の機会に是非。私は、急いでおりますので、これで失礼させて頂きます」
エヴァンが、説明は終わったとばかりに急いで去ろうとする。サディアスがそれを止める。
「おい。待て。で、何でわざわざこの侯爵令嬢を連れてきた?」
「キャスティナが……私の婚約者が、サディアス殿下に会わずに帰る事になり申し訳ないので、当事者である侯爵令嬢に理由を説明しに行って欲しいとお願いしたので、一緒に来て頂きました」
「お前の婚約者は、どうやら可愛いだけじゃないみたいだな」
目は鋭いが、口が笑っている。エヴァンの隣にいる、キャロライナは何がなんだかよくわかっていない。
「おい。そこの侯爵令嬢。お前は二度と私の前に顔を見せるな。不愉快だ。さっさと行け」
サディアスは、キャロライナを蔑んだ視線で見る。周りで傍観していた者達は、驚きを隠せずにいる。コーンウォレス家よりは劣るが、リッチモンド侯爵家も名門の貴族に変わりない。それを、サディアスは切ったも同然なのだ。
キャロライナは、意味がわからずにキョトンとしている。その騒ぎに気づいた父親が、キャロライナの元に走って来る。
「サディアス殿下。我が娘が、大変申し訳ありませんでした。事実確認をしたのち、改めて謝罪に伺います」
リッチモンド侯爵は、娘を引っ立てるようにその場を後にする。エヴァンも、一礼してキャスティナの元に向かった。




