【2-1】
キャスティナは、扉に向いて呆然と立ち尽くしていた。
「キャスティナ、大丈夫?」
キャスティナは、エヴァンの声にハッとして声が聞こえた方に体を向けた。エヴァンは、キャスティナの横に来てくれていた。
「はい。大丈夫です。ぼんやりしてすいません」
「キャスティナ、そんな捨てられた子猫みたいな顔しなくても大丈夫よ。私がきちんと面倒見ます」
コーンウォレス侯爵夫人が、キャスティナに声をかけた。先程の冷ややかな雰囲気も消えている。キャスティナは、名前を呼んでもらった事に驚きと嬉しさを感じた。
「あの、貴族の令嬢として足りない事ばかりです。コーンウォレス侯爵夫人のように、素敵な女性になりたいです。これからよろしくお願いします」
キャスティナは、侯爵夫人に向かって頭を下げた。
「キャスティナ、あなたはもう私の義娘なのよ。他人行儀な呼び方は、やめなさい」
エヴァンの母親が、キャスティナにビシッと言い放つ。キャスティナは、びっくりする。初めて会ったのに、娘として迎えてくれるなんて……キャスティナは、涙が出そうになるのを堪える。とびきりの笑顔でキャスティナは、呼んだ。
「はい。お義母様。よろしくお願いします」
「まあまあまあ。これが、ヒューが撃ち抜かれた笑顔ね!これは、確かに衝撃的ね」
優しい緑の瞳で、会話を聞いていたコーンウォレス侯爵も、うずうずしたようにキャスティナに言う。
「キャスティナ、私も他人行儀な呼び方はダメだよ」
優しく微笑んでくれた。キャスティナは、またしてもびっくりする。お義父様にも満面の笑顔でちょっと恥ずかしさも浮かべて呼ぶ。
「お義父様、よろしくお願いします」
「うんうん。こんなに可愛い娘が出来て嬉しいよ。シンシア、この笑顔はたまらないね」
「あなた、キャスティナは子猫みたいで新鮮ですわ。何も持ってないから揃え甲斐があるし。嫁に本当に花嫁修業させるなんて、やり甲斐がありますわ。アイリーンの時は、教える事も揃える必要も何もなかったもの。物足りなかったのよ。着飾りがいのない息子二人だったから、何て楽しみなのかしら?手始めに、必要最低限の物をヒューと相談しながら用意したんだけど、本当に楽しくて。若い娘のドレスなんて久しぶりに選んじゃったわ。今回は急ぎだったから、既製品だけど次はキャスティナに合ったドレスを作らせたり一緒に買いに行くわよ」
「私からも何か選ばせて欲しいな。キャスティナに似合う、アクセサリーがいいかな?落ち着いたら一緒に買いに行こうね」
お義母様とお義父様が、楽しそうに会話をしている。キャスティナは、あまりの事にキョトンとしている。
「二人とも、キャスティナは私の婚約者です。ドレスもアクセサリーも私が贈ります」
エヴァン様が二人に割って入る。
「エヴァンは、仕事が忙しくてそんな暇ないでしょ。私達に任せてくれれば大丈夫だから」
にっこり笑顔で、お義母様が微笑む。エヴァン様は、何やら悔しそう。
「とにかく、今日はお昼は向こうで二人で食べます。夕飯は、兄上達にも紹介したいのでこちらに戻って来ます」
エヴァンが、キャスティナを引き寄せて一緒に歩き始める。
「まず、キャスティナの部屋に案内させて着飾ってからにしなさい。侍女もちゃんと紹介して。早く二人きりになりたいのもわかるけど……落ち着きなさい。そうね、初日だからエヴァンが選んだドレスでもよくってよ」
お義母様が意地悪そうに、にっこり頬笑む。
「全く。女性に冷たくて、体を鍛えるしか興味がなく仕事ばかりのお前がねぇー。人って、変わるもんだね。シンシア」
「父上、余計な事言わないで下さい。では、また夕食で」
エヴァンに押し出されるように、キャスティナは応接室を出た。




