【23】
キッチンの勝手口から外に出る。いつもの様に30分かけて歩いて町に着く。八百屋のおばあちゃんに声をかけた。
「おばあちゃん、こんにちは。今日はクッキー作って来たから一つどうぞ」
キャスティナは、にっこり笑顔で買い物かごからクッキーを取り出しおばあちゃんに渡す。
「おや、ティナちゃん。今日は早いね。ありがとう、後で頂くよ。ジーンの所に行くのかい?」
「はい。では、おばあちゃんまたね 」
ジーンのお店の前に立つ。準備中の看板がかかっていた。良かった、間に合った。キャスティナは、お店の扉を開けて中に入る。
カランカラン
「こんにちは、マスター」
カウンターの中で、開店準備をしていたジーンは驚いた顔でキャスティナを見た。
「あれ?ティナちゃん。今日は早いね。どうしたの?」
「マスター、今日はちょっとお話があって、早く来ました。ちょっとお時間いいですか?」
「もちろんだよ。ここに座りな」
ジーンは、自分の目の前の席を勧めた。
「ありがとうございます」
キャスティナは、イスに座って話し出した。突然引っ越す事になって、ここに来るのは今日で最後になってしまう事を。
「マスター、本当に今までありがとうございました。私、この場所が大好きです。マスターが、お兄ちゃんみたいでいつも優しく迎えてくれて……この場所があったから笑顔で今までやってこられました」
キャスティナは、涙を堪えて笑顔でマスターに言った。
「ティナちゃん。ティナちゃんの笑顔にみんな癒されたんだよ。僕も、妹みたいで可愛くて仕方なかったよ。いつも来るのが楽しみでしょうがないんだ」
ジーンは、キャスティナの頭を撫でた。
「そうか……寂しくなるね……」
ジーンは、残念そうに寂しさを浮かべた。
「あの、今までのお礼にクッキーを作って来たんです。今日来たお客さんに配ろうと思って。1つはマスター食べてね」
そう言って、キャスティナは1つマスターに渡す。それと、カバンから昨日買った、ハンカチーフを出す。
「あとね、マスターにだけ特別にプレゼントです。今までお世話になりました。受け取って下さい」
「えっ、いいの?うれしいなぁ。開けてみてもいいかな?」
「はい。気に入ってくれるといいんですが……」
ジーンは、包みを開けて中のハンカチーフを取り出す。優しくうれしそうに微笑んだ。
「綺麗な水色のハンカチーフだね。ティナちゃんの瞳と同じ色だね。ありがとう。気に入ったよ」
「ふふふ。良かった。マスター、今着てるワイシャツの胸ポケットに入れて欲しいの。ちょっといい?」
そう言って、キャスティナはハンカチーフを折り畳む。それを、マスターに渡す。
ジーンが、胸ポケットに入れてくれる。
「どうかな?」
「うん。すごくいい!」
「ありがとう。大切にするからね。今日は、どうする?もう帰る?」
「いいえ。今日は最後に精一杯働いて行きます。また4時までいいですか?」
「もちろんだよ」
ジーンは、笑顔で答えた。
キャスティナは、従業員用の控え室に行っていつもと同じようにエプロンをつける。前髪をピンでとめて、髪をバレッタで高い位置でとめる。
「よし。今日が最後。楽しもう」
キャスティナは、お店に戻る。お店の看板を準備中から営業中に変える。まだお客さんが来ないので、マスターがキャスティナにカフェラテを入れてくれた。
「ありがとうございます。マスターのカフェラテ飲めてうれしい」
「ティナちゃんは、本当に美味しそうに飲んでくれるから入れ甲斐があるよ」
キャスティナが飲み終わる頃に、お客さんが来始めた。キャスティナは、いつも通り一生懸命働いた。この日も、あっという間に時間が経った。
「ティナちゃん、上がる時間だよ」
マスターが、キャスティナに声をかける。
「マスター、今日もありがとうございました。また、途中で申し訳ないけど上がらせてもらいます」
ぺこりとお辞儀をして、キャスティナはお店を後にした。従業員用の控え室に戻ると帰り支度を整える。コンコンとノックの音が聞こえた。
「はい」
返事を聞いて、扉が開きマスターが部屋に入ってきた。
「ティナちゃん。今までありがとう。また、来たくなったらいつでもおいで。ずっと、待ってるよ」
キャスティナは、マスターに抱きつく。
ジーンが優しく背中をさすってくれる。
「マスター、心配しないでね。私、幸せになるから。そしたらきっと、また会いにきます」
キャスティナが、顔を上げてジーンを見た。
「そうだね。楽しみに待ってるよ」
「またね。マスター」
キャスティナは、笑顔でジーンに挨拶するとお店の裏口から帰って行った。




