【17】
キャスティナは、びっくりするが嫌な感情は湧かなかった。
「キャスティナは、よく頑張ったよ。そんな環境で、よくこんなに真っ直ぐに育ったね。その事の方がびっくりだよ」
そう言うと、抱き締めていた腕を解いてキャスティナの顔を見る。
「それに、キャスティナの水色の瞳はとっても綺麗だよ。私の青い瞳と同系色でお揃いだよ。素敵だと思わない?」
エヴァンは、優しい笑顔でキャスティナの顔を覗きこむ。キョトンとした表情でキャスティナは、エヴァンの瞳を見つめる。言われた言葉を理解するとふわっと表情を崩し何とも言えない笑顔を浮かべた。
「本当ですね。今日一番の嬉しさです」
そこで、コホンっとヒューの咳払いが入る。
「何だよ。ヒュー邪魔するなよ。今、良いところだろ」
エヴァンは、ぶっきらぼうに言った。キャスティナは、ヒューもいた事を思い出し恥ずかしさで顔を俯けた。心を落ち着かせて、キャスティナはエヴァンに向き直る。
「えっと、後は質問とかあれば。ざっと話したので、細かい事でもなんでも聞いて下さい。あと、ヒュー立ちっぱなしで疲れたですよね?お茶が冷めてしまったので、淹れ直してもらってもいいですか?」
「では、何か飲みたいお茶のリクエストがありますか?」
「えっと。折角なので、エヴァン様の好きな銘柄を飲んでみたいです」
エヴァンもヒューもびっくりした顔をする。キャスティナが好きな銘柄を選ぶと思ったからだ。
「まったく、君は私が喜ぶ事ばかり言うね」
エヴァンは、キャスティナの頭を撫でた。
ヒューがお茶を淹れ直してくれて、会話を再開させる。
「じゃー、疑問なんだけどキャスティナは毎日何して過ごしてたの?その感じだと何もすることないよね」
キャスティナは、敢えて言わなかったがやっぱりそこは気になる所だよね·····。しょうがない…意を決して話し始める。
何もやる事がなくなってから、3年が経つ。最初のうちは、一日中自分の部屋で本を読んでいた。本を読むのは好きなので、ずっと読んでいられるのだが、ある時こんなんじゃダメだと思った。へたすると、誰ともしゃべらずに一日が終わる。ずっと動かないから、お腹も減らないし夜も眠れない。とにかく、体を動かしたいと思った。貴族の生活が出来ないなら、他の事を学びたいと思った。手っ取り早かったのが、使用人のお手伝いだった。もし家を追い出されても、使用人として働けるくらいになっておけば最悪何とかなると思った。だから、使用人としての仕事は大体出来る。掃除・洗濯・料理など。後、これはキャスティナが執事に頼みこんでやらせてもらってる事なので家族は知らないと言うこと。強制されてやってる訳じゃないことは、しっかりと伝えた。
「感心するのみだね。キャスティナは、見かけより行動力があるんだね」
「産んでくれた母が、私がつまらなそうにしてるといつも言ってたんです。自分の人生を楽しくするのもつまらなくするのも自分次第よ。つまらないなら、楽しい事を考えなさいって」
「なるほど。キャスティナの母上は、素敵な方だね。私も会ってみたかったな」
「そうですねー。記憶がもう朧気になってきてるんですが、素敵な思い出ばかりです。それにエヴァン様。何かしてないと、誰かと繋がってないと人間ってダメになってしまうんです。使用人のお仕事、大変ですけど楽しいんですよ。ねっ、ヒュー」
キャスティナは、ヒューを見た。
「そうですね。頼りない主人ですと、やりがいもひとしおです」
笑ってヒューが答えた。




