【15】
お昼を食べて、馬車に戻る。キャスティナは、花畑に降りてみたかった。窓から外を見つつ名残惜しげに、馬車が出発した。帰りも、エヴァンと隣り合って座る。
「まだ、見たかった?」
「いえ、大丈夫です。それより、エヴァン様に言いたい事が‼」
「なんだい?」
思いきってキャスティナは、口を開く。
「あ、あの。エヴァン様、距離感が近いです。私、男の人に慣れてなくて緊張とドキドキでうまく話せません。もうちょっと離れたいです。隣じゃなくて、向かい合って座りたいです」
「それは、ダメだね」
「えっ?!」
まさか、拒否されると思わなかったキャスティナは目を丸くして驚く。
「これでも、我慢してる方なんだよ。だからそれは却下。この距離感は、キャスティナが慣れてね。でも、ドキドキしてくれてるならうれしいな」
定番になった有無を言わせぬ笑顔で、エヴァンがにっこり頬笑む。
「もう!エヴァン様、またその笑顔‼ずるいです」
キャスティナがちょっと離れて距離を取る。
「怒ってるキャスティナも可愛いよ」
「エヴァン様、意地悪です」
キャスティナは、怒ってプイッと横を向く。
「クスクスクス。キャスティナは、表情がコロコロ変わって飽きないね」
キャスティナは、エヴァンの言葉は聞かなかった事にして窓の外に目を向ける。馬車の揺れとポカポカした日差しが気持ちよくて、窓にもたれて眠ってしまった。
「怒ってそのまま寝ちゃうなんて、可愛い過ぎる。余りに警戒心がないのも心配になっちゃうな」
そう言ってエヴァンは、キャスティナの頭に手をやって自分の肩に傾かせる。手はそのままキャスティナの腰に添える。
「この距離感が定位置になるのは、いつかな?」
エヴァンが、小さな声で呟いた。




