【14】
その後は、キャスティナと程好い距離を取ってくれて、これからどこに行くのか教えてくれた。この馬車で、町を出て一番近くの郊外に出るらしい。何でもお花が咲いていて綺麗な場所があるんですって。そこで、持ってきてくれたお昼を食べてから、午後はエヴァン様のお屋敷に行ってゆっくりしようと言われた。何でもコーンウォレス侯爵家の本宅の近くに、別宅として屋敷を建てたらしい。本宅には、両親と兄夫婦とその子供達が住んでいて手狭になったので、そろそろエヴァンも結婚するだろうしという事らしい。
花嫁修行は、エヴァン様の住んでいる別宅から通ってもいいし、本宅に住み込んでもいいしそれはエヴァン様のお母様である、コーンウォレス侯爵夫人と相談するって言ってた。もう、こうなってくると私には拒否権ないけど、昨日まで平民みたいな生活送ってたのに……人生ってわからないもんだな……。
馬車がカタンと音を立てて止まった。
「着いたみたいだね。外に出るよ」
そう言って、従者が馬車の扉を開けてくれたのでエヴァンが先に外に出る。続けてキャスティナが、扉から顔を出した所にエヴァンが手を差し伸べてくれた。
そっか、一人で降りなくていいのか。ちょっとギクシャクしつつもキャスティナは、嬉しそうに笑みを浮かべて、エヴァンの手を取って馬車から降りた。降りるとちょっと行った所に、小高い丘がある。
「あの丘の上まで行って、お昼を食べよう。向こう側は、花畑が広がってて綺麗だよ」
手を繋いだまま、丘を登って行く。先に従者が敷物を敷いて、お昼を用意してくれていた。丘の上に着くと、足下には、シロツメクサとタンポポが咲き乱れてるのが目にはいる。
「うわぁー。すごい。すごく綺麗。エヴァン様、すごく綺麗です」
満面の笑みで、キャスティナはエヴァンを見た‼
「喜んでもらえて良かったよ。やっと、キャスティナの素の笑顔が出たね。さっ、お腹空いたでしょ?お昼食べよう」
二人で、向かい合って敷物に座った。エヴァンは隣に座りたかったが、キャスティナが距離を取る。とにかくエヴァン様、距離感が近い‼もうちょっと少しずつお願いしたい。従者が、サンドイッチと果物を出してくれる。お茶も手早く淹れてくれる。
「いただきます」
パクっとひと口サンドイッチを頬張る。
「美味しいです。従者の方は流石ですね。流れるように、パパッと準備してお茶も美味しいし。ありがとうございます」
キャスティナは、従者にお礼を言う。
「あっ、もちろん連れてきてくれたエヴァン様には感謝しかないですよ。すっごく楽しいです。私、お母様が亡くなってから誰かと一緒に外に出掛けるのって初めてです」
そう言って、キャスティナは花畑に視線を向けて遠くを見ていた。
「キャスティナ、悪いとは思ったけど君の家の事は調べさせてもらったよ。母君を亡くされてからの10年間、どうやって生活してたんだい?良ければ教えてくれるかな?ある程度は、調べてわかってるつもりだけど、君の口からきちんと聞いておきたい」
エヴァンが、申し訳なさそうにキャスティナに聞いた。
「悪くないですよ。当たり前です。結婚しても何のメリットもない家で、むしろマイナスな点ばかりの家なのに……。私が、エヴァン様と結婚して迷惑かけないか心配なくらいです。話すと長くなりますけどいいですか?」
キャスティナは、きっぱりと言い切った。
「長くなるか·····じゃ、屋敷に帰ってゆっくり聞こう。食べたら戻ろう」
「わかりました」
キャスティナは、サンドイッチの残りを食べ始めた。




