【12】
それからの三日間は、本当にあっという間だった。父親に呼ばれ書斎に行ったあの日。自分の部屋に戻ってからも、呆然として何も考えられなかった。うれしいという気持ちよりも、どうすればいいんだという不安しかない。誰にも相談出来ないし。考えても堂々巡りになってしまうため、とにかく父親に言われた事をこなし淡々と三日間生活した。
三日間でどうにかなるとも思えなかったが、屋敷の仕事や町に出るのもやめて自分でできる限る自分を磨いた。特に何も出来なかったけど……。やらないよりは、ましっと自分に言い聞かせた。
エーファに手伝ってもらい、久しぶりにきちんとしたドレスに身を包み髪も可愛くセットしてもらう。薄く化粧もしてもらった。
「お嬢様。前髪どうします?このままは流石にまずいかと……」
「どうしよう?エーファ。切るわけにいかないし、横に流して固めればなんとかセーフじゃない?」
「こんな感じですかね?あっ、いいですね。ちょっと大人っぽくなりますよ。お嬢様、可愛いです」
鏡の前に立って自分の姿を確認する。薄いピンク色のドレスを着て、髪を編み込みアップにしてもらった姿が鏡にうつる。
「エーファ。私、いつもよりいいかな?地味で暗そうじゃない?」
「お嬢様は、いつも可愛いですよ!今日は、何倍も可愛いです。きっと、エヴァン様も惚れ直しますよ」
コンコンとノックの音がした。
「どうぞ」
「失礼します。お嬢様、お客様がお見えになりました」
そう言ってダンが、キャスティナを呼びに来た。
「行きます」
キャスティナは、一階の応接室に向かって階段を下りる。普段着なれないドレスで動きがぎこちない。あー、私。ドレス着て歩くのも、こんなにぎこちないだなんてショック……。本当に本当にどーしよう……。思わず溜息が出るのを堪え、応接室の扉の前に立つ。深呼吸をしてノックをする。
「入れ」
ダンが扉を開けてくれた。
「失礼します」
キャスティナは、応接室に入り扉の前で膝を折って一礼する。けっして完璧とは言いがたいカーテシーだが、そこは持ち前の笑顔で切り抜ける。
「キャスティナ・クラーク・エジャートンです」
キャスティナは、応接室のソファーの方を見る。父親とエヴァンが向かい合って座っている。10日ぶりに見るエヴァンは、間違いなくあの夜会で会った男だった。
今日は、近衛騎士の制服ではなく普通の紳士が着る濃い紺の外出着を着ている。
騎士の制服とはまた違った感じで、格好いいな。キャスティナは、もう一度エヴァンに会えた事にやっと嬉しさを感じていた。




