【10】
キャスティナは、屋敷に戻ると昼間と同じように勝手口から帰る。ダイニングを覗くとダンが休憩中なのか、コーヒーを飲んでいた。
「ダンただいま。今戻りました」
「お嬢様。お帰りなさい。無事にお戻りになられて良かったです」
「いつも心配させてごめんね。夕飯までは、部屋で大人しくしてるね」
「今日は、旦那さまも奥様も夜会で夜はいませんよ。夕飯は、ルイス様と一緒でよろしいですか?」
「わかったわ。では、また後でね」
キャスティナは、キッチンを出て自分の部屋に戻る。ソファーに腰掛けて、ひと休み。あー、お茶もらってくれば良かった。失敗したー。流石に、またキッチンに行ってお茶もらってくる元気ないよ·····。
ソファーでぼんやりしていると、コンコンとノックの音がした。
「どうぞー」
扉に目を向けると、エーファが、ティーセットを持って入ってきた。
「お嬢様。お茶をお持ちしました。お嬢様が疲れてるみたいだから、ダンさんが持って行きなさいって」
「本当にー。うれしい。丁度飲みたいと思ってたの。でも取りに行く元気がなくて。流石、ダンね‼でも、お義母さまは平気なの?」
「旦那さまと奥様は、今お屋敷を出られましたので」
そう言って、エーファがカップに紅茶を注いでくれる。キャスティナは、カップを持ちお茶を一口飲んだ。
「あー、やっぱりダンの紅茶美味しい。後は自分でやるから大丈夫よ。夕食の時にティーセットも一緒に持って行くから」
「わかりました。お嬢様。それと、今日は奥様がいらっしゃらないので湯浴みなどのお手伝いしますね。ダンさんとメイド長に社交シーズンは、出来るだけお嬢様のお世話をするように言われましたので」
「全く。みんな私に甘いんだから。でも、うれしい。ありがとう」
「いえ、お嬢様。むしろ、それが当たり前ですから‼」
「あはは。そっか。そーだよね。何かもう、自分の事を自分でやるのが当たり前になっちゃったよ」
エーファは、それを聞いて苦笑いを浮かべる。「では、失礼しますね」エーファは、自分の持ち場に戻って行った。
キャスティナは、お茶を飲みながら考え込む。子爵令嬢としての自分は、どう考えても落第生。もし、結婚なんてしたらどーするんだろう?夜会なんて苦手で、貴族としての会話なんて出来ないし。そもそも、ドレスが普段着にしろ夜会用にしろないのよ。アクセサリーなんて、もっと持ってないし。お父さまは、いったいどう思ってるのかしら?もしや、この現状をわかってないとか?お義母さまは、恐らく私が幸せになるのは許せない感じだし。だからと言って、あんなに嫌われてるのにずっとこの家に置いておくってのも考えられないし。残念ながら、未来は明るくないなぁ。どこか、他人事のように考えてしまうキャスティナであった。
まさか、この一週間後にキャスティナの人生を揺るがす事が起こるなんて、この時は考えも及ばなかった。




