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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

しっかり短編

いつか再び会えたなら明日の話を一緒にしよう

作者: 閑古鳥

「ミートソースのスパゲッティ」


 最後の晩餐に何が食べたい?という雑談に俺はそう答えた。肉とトマトがたっぷり入った野菜少なめのやつがいいなと追加で付け加えて。小さい頃野菜が嫌いだった俺に少しでも野菜を食べさせたいとよく作ってくれたミートソース。野菜が好きになった今でもミートソースはあの味が大好きで、自分で作ってみたけれど上手くいかずに失敗するのが常だった。何か隠し味でも入れてるのかと聞いたこともあったけれど秘密と言われてしまったので結局あの味は自分では作れなかった。最後に食べるならあれがいい。俺にとっての日常の象徴。懐かしいあの味。

 雑談は続いて最後の晩餐のメニューが次々と出てくる。母親の作った野菜たっぷりのシチュー。家族で食べに行ったレストランの大きなステーキ。料理に慣れない父の作った少し焦げ付いた野菜炒め。初めて一人暮らしした時によく食べに行った店の塩ラーメン。姉と一緒によく作った生クリームといちごのロールケーキ。一度行ってみたいと思っていた料理店のハンバーグ。おばあちゃんの得意料理だったシンプルでお出汁のおいしい茶碗蒸し。じいさんが畑仕事の後に作ってくれた熱々の焼き芋。

 それぞれの想いがじわりじわりと空気を染める。今だけはここに穏やかで暖かい平穏な空間があった。少し話の輪から外れ耳だけを会話の方へ向ける。雑談はあちらへこちらへと話が転がっていき、今はある漫画の話になっていた。もうすぐ新刊が出るらしく本誌組のネタバレを必死で回避する単行本組の攻防が繰り広げられている。時間が経過していくとともに1人また1人と話の輪から抜けていく。話し声は次第に小さくなりとうとう最後に話していた2人も解散をしたみたいだ。


「明日、生き残れるかな」


 誰かがぽつりと零した声が静かな夜営地に広がった。明日。それはこの場に居る全員にとっての運命の日。


「3割……生きてりゃいい方なんじゃないか?」


 その声にまたぽつりと声が返る。これから前線へと送られる俺達には生き残れる保証なんてどこにもない。しかも相手にするのは狂った王に率いられた狂った兵団だ。降参したって生かしてもらえる可能性はほとんど無いし、兵士同士の実力だってそれほど差があるわけでもない。どう頑張ったってきっと誰かは死ぬ。それが自分かそうではないかなんてわからない。運が良ければ生きてるかもしれない。その程度しか可能性がないくらい絶望的な状況でそれでも俺達は国を……誰かを守りたくてここに志願した。それでも……


「死にたく……ないなぁ……」


 死にたくなんてないんだ。俺達はただ家族を友達を亡くしたくなくてちょっと勇気をだしてみただけの普通の人なんだ。未来が奪われるなんて思ってなかった。ずっとこの平凡で穏やかな日々が続くと思ってた。明日も明後日もまだまだ生きてたかった。それでも生きれるかわからない。


「もっと楽しいことしてればよかった」

「好きだって言ってくればよかった」

「おいしいもの食べたかった」

「なんでこんなことになったんだよ」

「生きてたいよ」

「死にたくないよ」


 後悔と悲しみ、嘆きが夜営地に木霊していく。それは次々と連鎖するように広がり続け、この場所を包み込んだ。けれどその中に帰りたいという声は聞こえない。俺も決してそれは言わない。死ぬ可能性が高くたって、生きてても帰れるかなんてわからなくたって、今横に居るみんなが明日はもう居ないかもしれなくたって、諦めて帰るなんてできないんだ。

 自分の命は大事だってみんなわかってる。それでも守りたいものがあったから、俺達は明日進むんだ。




 でももし……もしも……可能性はとても低いけれど、いつか再び会えたなら明日の話を一緒にしよう。


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