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短編もの。

Moon&Star

掲載日:2019/02/14


①


 『ムーン&スター』のタイトルロゴが現れる。


②


 男女が夜道を歩いている。頭上を見上げながら語り合っている。


「ケイティ、月が綺麗だ」

「私の方が綺麗でしょ。クリス」

「そんなのは当然だ」

「口に出しては言ってくれないのね」


 バックミュージックが流れ出す。女性が先を歩いている。


「あなたってヒトは、いつだって、そうよ。私のことを、振り回すの」


 女性が振り向く。

 後ろの男性に向かって「こっちに来ないで」と手を振る。シッシッとジェスチャー。



「出逢ったときも、最悪だった。私のお気に入りのドレスを汚してきた」



 回想が入る。

 【two years ago】というクレジットが入る。


③


「ちょっとなにやってるの!」

「ああ、ごめん」

「やだ。ずぶ濡れじゃない」

「弁償するよ」


 赤いドレスの女性に白ワインを零してしまったタキシード服の男性が、頭を下げている。


「せっかくのお気に入りだったのに」

「いくらだい? 千ドルで足りるかな」

「お金の問題じゃないわ」

「オーケーイ。一万ドルかな?」


 タキシード服の男性が財布を取り出す。

 女性が呆れたように笑う。


「お金を払えば解決した気でいる人はキライ。私の不注意もあるんだから」

「だけど、これくらいやらなきゃ君の気が晴れない」

「元々パーティは好きじゃなかったの。もう大丈夫。気にしないで、じゃあね」


 ハンカチをひらひらと振って、女性が会場を後にする。

 残された男性は手に持ったワインを口にしようとして、小さく苦笑する。

 グラスは空のようだ。


④


 場面が戻る。

 先に歩く女性に追いつくように走る男性。


「僕のお星さま。怒らないでよ。綺麗な顔が、台無しだから」


 前を行く女性の肩をトントンと叩くが、相手は振り向かない。

 歩く彼女を止めるために、前に飛び出す。


「怒った顔も、キュートだよね。初めて会ったときも、そんな顔をしてた」


 女性の顎を掴んで、笑いかける。

 女性はまだ不機嫌そう。


「誰かさんがお水をかけるからでしょ」

「白ワインだ」

「一緒よ」

「脱がせたかったんだ。あまりに君がキュートだったからね」

「悪いヒトね」


 女性が男性の身体を小突く。ピアノの音色がピロロンと響く。

 心なしかちょっとだけ嬉しそうだ。


⑤


 回想に戻る。

 パーティ会場を出て、自宅に戻った女性。「はぁ……」とため息をついてる。


 机の上の写真を眺める。

 若かりし三人家族の写真を撫でる。


「ドレスは、いつも、ボロボロ。いくら着飾っても、シンデレラになることはできない」


 女性が携帯を開く。友人達との結婚式写真をスクロールしながら、ふとなにかを思い立ったのか、番号を記入する。

 音楽が止まる。


「はい、ママ。元気? ケイティよ。あー、別に用はなかったの。んー、そうね。お仕事は順調よ」


 ブロンドヘアーに触れて、写真立てを持ち上げる。

 ビショビショになったドレスを見て、苦笑する。


「またクリスマスに帰ろうと思っているわ。パパも呼んでパーティをしましょう。友達のジャスミンも呼ぼうかな。え? あー……うん。そうね、お友達の誰かと過ごすのも」


 母親の言葉に戸惑っている。ベッドの近くに置いてあるジャスミンの花に目をやる。


「オーケーイ。またね」


 電話を切って、ベッドに座り込む。


 着替えようとして、腰の紐の部分に何か挟まっていることに気付く。

 誰かの名刺のようだ。


「変なヒト」


 音楽が再開して、場面転換。


⑥


 とあるバーにて、男が座っている。


「僕の名前はクリス=ロバート。ここロスで飲食店のコンサルタントをしている。ここのオーナーとも友達さ。土曜の夜はこうやってブランデーを飲むのが日課だ」


 男がバーテンダーに目配せをする。

 白いハンカチでグラスを拭いていた彼が小さく頭を下げる。


 音楽がジャズに変わる。

 女性が入店してくる。


「ようやく、お姫様のお出ましだ」


 男がカメラに向かって話しかけて手をあげる。


「弁償してくれるの?」

「一杯奢るよ」

「お酒は飲まないわ。悪い虫が寄ってくるから」

「殺虫剤でも撒いておけばいい」


 バーテンダーがカクテルを運んでくる。

 女性の前に運んでくるが、女性は手につけようとしない。警戒しているようだ。


 女性が名刺を取り出してくる。


「これはどういうつもり?」

「なんの話だ?」

「アナタ、わざとやったんでしょ」

「さあ、どうだろう」


 男がニヤリと笑って、ブランデーを飲む。


「あんな社交の場じゃ、君とゆっくり喋れないからね」

「やっぱりわざとだったのね」

「あのドレスはもう着ないのかい?」

「捨てたわ」


 不快と言わんばかりに、女性か鞄を持つ。そのままお店を出ようとするが、男性が「待ってくれ」と食い止める。


「名刺の名前をよく見てごらん」


 眉をひそめた女性がしぶしぶ席につく。

 名刺を見るなり、大きく口を開ける。


「嘘でしょ?」

「本当さ」

「あり得ないわ。だって、あの」

「パーティを主催したのも僕だよ。顔と名前くらいは知ってると思ったけど、本当に知らなかったんだね」


 男が指をパチンと鳴らす。お客さんが全員退室していく。

 最初から全部仕組んでいたのだ。


「本物のシンデレラになりたくはないかい? どんなドレスでも着させてあげるよ」

「悪くない申し出ね」

「セレブの男は、君のような媚びない女性を好むんだ」

「あらあら、下手な口説き文句」


 女性がカクテルを飲む。バーテンダーが鼻で笑いながら、画面外にはけていく。


「アナタってズルいヒト」

「欲しいものは何でも手に入れたい性分でね」

「私の心を買えるかしら」

「頑張ってみせるよ」


 ドラムがリズムを刻む。


⑦


 場面が最初の夜道に戻る。

 二人は腕を組んでいる。


「私の名前はケイティ=マーター。しがない洋服店員。でも、彼と出会ってから世界が変わった」


 男性が女性の腕を掴んで、くるりと回転させる。

 赤いドレスが揺れている。

 首元には真珠のネックレス。


 男性が踵を鳴らす。

 足を左右に動かして、腰に手を当てる。


「気ままなお姫様は、言うことなんて聞きもしない。彼女といると大スターの自分が忘れられる。僕が星なら、君は月さ」

「瞬く星を見上げながら、夜空に何を願いましょう。パパもママも同じ空を見ているかしら」

「僕の話なんてまるで聞いちゃいない」


 女性が空を仰ぐ。

 ベンチが現れる。二人で並んで座る。


「ああ、ベイビー。こっちを向いてくれ」

「イヤよ、そういう気分じゃないの」


 手を伸ばした男性の腕を振り払って、女性が立ち上がる。

 前を歩いていく。男性もそれについていく。


 ラッパの音が鳴り響く。

 どこからか手拍子が聴こえてくる。


「王子様は私の美貌に溺れた」

「お姫様は僕の策略に溺れた」


 手を繋いで、二人は走り出す。

 夜道を抜けて、公園を抜けて、街に出る。


「ズルいヒトね」

「悪いオンナだ」

「お互い様ね」

「お互い様だ」


 腰を振りながら、街を歩く。

 カメラワークが横から前に変わる。



「はじまるよ、ダンスパーティー。今夜は祝いの日だ。僕と君が出会った記念すべき日。たくさん踊って、飲み明かそう」



 男が劇場の扉を開く。

 中にはたくさんの人々。



「僕はスター。ウィリアム・ホールデンも真っ青になる名俳優。君を虜にした王子様」

「私はムーン。オードリー・ヘプバーンも嫉妬する名女優。アナタを虜にしたお姫様」



「「二人でハリウッドを揺るがせよう!」」



 周囲の人々が歓声をあげる。

 黒人の男性が二人、画面の奥で後方転回する。

 子供たちが沢山の薔薇を持って、現れる。



「誰でもみんなシンデレラになれる。だから諦めないで。夢はきっと叶うから」



 二人がステージに登っていく。

 周りにダンサーが集まってくる。



「悔しいことも悲しいことも、明日になったら、忘れられる。変えよう世界を。イッツア、チェンジ・ザ・ワールド!」


「二人なら乗り越えられる。未来には希望しかない。ほら、辛い時は空を見上げて。煌めくムーン&スター!」



 両手を広げて、二人が抱き合う。

 ステージは大喝采に包まれる。



「愛しているよ。ケイティ」

「私もよ。クリス」



 ステージが暗転する。

 背景には唇を重ねている彼らの影が映し出されている。


⑧


 場面が切り替わって、バーへ。

 看板には【Moon&Star】の文字。


⑨


 カメラワークがすーっと上空に移動する。星がキラリと輝く。

 何もなかったところに、糸で垂らされた月の模型が落ちていく。


⑩


 【END】という文字が浮かぶ。

 エンディングクレジットが流れる。



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