初クエスト
「入団試験ンン?!」
カケルと綺麗に声を揃えながら少女姿のマーリとリリスがユリウスの言葉を復唱する。
「ああ、リーシャに頼まれてね、君が食い扶持に困っているらしいからと。」
「実はそうなんだ。ガラムほどの相手を圧倒したカケル殿の実力があればこちらでも十分な働きができると見込んで申し入れていたのだ。」
リーシャが少し申し訳なさそうに言葉を付け加える。ユリウスの口調が砕けていることには突っ込まないでおこう。
「本当はあそこまでするつもりはなかったんだが、つい興味が湧いてしまったんだ。その点についてはすまなかった。」
「サブマスターの私からも謝罪いたします。この木偶の坊はすぐ好奇心に負けて周りに迷惑をかけるのです。」
「デクっ?!」
「貴方は黙ってましょうね?」
シノンに威圧されユリウスが冷や汗を滴ながらコクコクと頷く。
これではどちらの方が立場が上か分からないな...
とその光景を客観的に見ながら苦笑いする。
学園もののアニメに出てくる委員長キャラが大人になったら、シノンさんみたいな人になりそうだ。
「それにしてもカケルさんに召喚精霊がいらしたとは...驚きました。」
「召喚精霊、とは少し違いますが、確かに原理は一緒です。ね、リリス。」
「リリスはマスターに絶対服従。マーリも同じ。」
そう言いながらカケルの横に座っていたリリスが膝の上に自然な動作で座る。
「なにしれっと抜け駆けしてるんですか!」とマーリがリリスとじゃれている間も会話は進む。
「精霊召喚は本来この人間界に住まう魔物や精霊と契約を交わすものだ。だがあんな大きな翼が生えている存在など天界や魔界にしか存在しないとされている。」
あ、喋った。と内心思いながらユリウスの話に耳を傾ける。リリスとマーリの間では追いかけっこが始まり、部屋を何周かしたのち扉から出ていってしまった。それを眺めながらユリウスが言葉を続ける。
「...見たところ下位のキューピットと淫魔みたいだが、それでも翼持ちを2体同時召喚なんて前代未聞だぞ。」
「ハハハ...自分でも実はよく分かってないんですよね」
「まあ確かに一度に色々詰め込みすぎるのも良くないしな。そうゆうのは追って知っていけばいいさ。なんにしても、ギルドへの加入おめでとう!これから俺たちは家族も同然だ。」
ユリウスが差し出した手をカケルは固く握り返した。
「あ、そういえば姓がないんだったな。んーそうだな、今日からお前はカケル=セインクリッドを名乗っくれればいい。」
「え、えええ?!」
「今日から俺が保護者だ、よろしくな。」
「え、いやその、唐突過ぎる気が?!」
「ギルドに入ったらみんな家族!さっきもそう言っただろ?」
その言葉で、ギルドに入った姓のない人には全員セインクリッドを名乗らせているのだと理解する。近いうちにユリウスさんにはミツキのことを話しておこうと思ったものの、この時は素直に新しい名字をもらえたことが嬉しかった。厨二心がくすぐられたのも否めないのだが。
「はい、ありがとうございます!」
「改めまして私がサブマスターのシノンです。なにか困ったことがあったら言ってください。」
リーシャやシノンとも改めて握手を交わしたとき、ユリウスが「そういえば」と言葉を発した。
「マーリちゃんとリリスちゃんはいつでもあのグラマラスボディに進化できるのか?それともあれか?なにかしらの条件が」
「ギルドマスタァァ~~??」
シノンのドス黒い笑顔を最後にギルド内でまたしても爆発音が響き渡ったのは言うまでもなかった。
* * * * * * * * * *
「それでは、ギルド登録を行います。すこし長くなりますが、しっかり聞いてくださいねっ?」
場所は変わり、ギルドカードと呼ばれる身分証を作成するためにカケルと連れの少女二人は1階中央の受け付けカウンターに移動していた。
カウンター越しにボブへアの受付嬢が接客スマイルを振りまきながら説明を始める。
「まずギルドには共通のランクというものが存在します。序列は最下位のFランクから一般的にはAランクが最上位になります。階級としてはその上にSランク、SSランクが存在しますが、SSランクは八大元帥にのみ与えられる栄誉として、Sランクはその候補者レベルの実力を有した方に与えられています。」
「かなりの狭き門、ってことですね。」
「はい。門どころか、ケツの穴程度ですっ。」
「.......。」
一瞬自分が聞き間違えたんじゃないかと思うほどキラキラとした営業スマイルを放ちながら受付のお姉さんが言葉を続ける。
「先程説明したランクですが、ギルドによって下限が異なっています。本ギルドは最下位をCランクとしてますので、試験に受かられたカケルさんはそこからのスタートとなります。」
「分かりました。」
「規定により、自身のランクと1つ下位のランクのクエストしか受注することはできません。カケルさんの場合、CランクとDランクのクエストが受注可能です。」
なるほど、実力に見合うクエストを受けさせると同時に、上位者が低ランク層のクエストを食い荒らさないようにする処置なのだろう。このあたりはゲームや小説の見知った設定と変わらないな。
そう思いながら「はい分かりました」と二つ返事で答えた。
「ではギルドカードを作成しますので、こちらに手を翳してください。」
「これは...」
受付嬢がカウンターに出したのは昨日フィリアと魔法属性を測定するために使用した水晶玉だった。
「魔力量を測定する特別な水晶石です。」
「うっ...」トラウマが..
「どうかされましたか?」
「あ、いやなんでもないです。」
「そうですか?では早くしやがれって感じですっ」
にこやかにそういう彼女に従い手のひらを水晶に近づけたが、水晶は変化する様子を見せず、一時の間がカウンター越しに流れる。
「はい、ありがとうございますっ。カケルさんはレベル1ですね。これから頑張ってくださいっ。」
そう言い水晶と連動した板のうえに設置してあったカードを手渡す。渡された黒いカードには見たことのない文字で表面には中央に大きく、裏面には細かく刻み込まれていた。
「これでギルド登録は完了です。測定した情報は全ギルドで一括管理されてますので、万一カードを紛失した場合はお近くのギルドで仰ってください。」
「ありがとうございました」と頭を下げ立ち去ろうとしたところを慌てて受付に止められる。
「新人の入団者には祝い金も合わせてお渡ししております。」
ポケットに収まるほどの巾着袋がカウンターに置かれる。
「また、カケルさんはクエストをすでに1つ完遂してますので報奨金が出てます。よいっしょと!」
ガンッと音を立てながら巾着袋の隣に丸々と置かれたのは人間の頭がすっぽり入りそうな金属性の箱だった。
受付嬢がこちらに向けて箱をあけると金貨が余すところなく敷き詰められていた。
「ギルド側で預かることもできますが、いかがしますか?」
「...一旦預かってもらってもいいですか?」
「かしこまりましたっ。では手続きは以上となりますが、ユリウス様より手続き完了後に顔を見せるよう仰せつかっております。このままお部屋までご案内いたしますね。」
そう言われ流されるまま再びギルド長室まで足を運ぶこととなった。
今週中に後半追記いたします