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ミツキ・カケルの初期ステータス

歩きながら自己紹介をすませた二人は、噴水広場を抜けて大通りへと歩いて行く。その道中フィリアが淡々と辺りを案内してくれていた。


「ところで、カケルさんはこの国の出身じゃないんですか?」

「じ、実はそうなんだ。ほんとに田舎の辺境の地から来たからこの国のことも、全然わからなくて。」


「お恥ずかしい限り」と頭をかくカケルにフィリアが丁寧に説明しだした。


「ここはアルテミア王国の首都アルデシア。七大国で一番大きな国の、一番大きな街です。」


七大国ってことはこの世界には7つの国があるってことか…。そしてここが最大の都市、と。


「へえ、今日初めてここに来たけど、とても平和で豊かな街なんだね。」


心のメモに綴りながら放ったその言葉に少女の顔が俯く。


「首都アルデシアは外城壁と内城壁の二つの城壁で囲まれています。内城壁の外側には治安が悪いと言われるスラム街があったりと、見た目ほど穏やかな街ではないのです。ちなみにここは内城壁の中ですね。」


フィリアが大通りからまっすぐと続いている城門を指さしながら解説する。

その城門から王城までが内城壁の半径だとしても相当な敷地面積になる。そこはさすが世界最大都市というところなのだろう。


「暗い話はここまでにして、ここが王城前広場になります。」


黒髪の少女が短めのスカートをひるがえしながらカケルにそう伝える。

彼女の後ろに広がっていたのは両サイドに様々な店が並んだ巨大な十字路だった。中央の道を進んだ先には迫力のある王城が聳え立っている。


「この十字路を西に進むとギルド街、東に進んだら住民街が広がっているんです。」


なるほど、そして中央に市場を設けてうまく経済を循環させているわけか。

脳内で情報を整理していたカケルの横顔を眺め、ギルド街に案内しながらフィリアが問いかける。


「カケルさんはどこから来たんですか?」

「あ、いや、ほんとにフィリアが知らないような小さな村で暮らしてて…!」

「どこですかどこですか?」


なぜか目を輝かせながら聞いてくるフィリアの勢いに押され、


「ス...」

「す?」

「墨田区、かな?」と言って当然のように後悔する。

馬鹿か僕は!そもそもこの世界に東京自体ないのに!!咄嗟とは言えもっと上手い受け答えが

「スミダク村ですかあ、私も名前ぐらいしか聞いたことないです。」


あるんかいい!!

脳内でカケルの今日一番の突っ込みが木霊した。


「よ、よく知ってるねー」と愛想笑いを浮かべながら、摩り替えられる話題がないか思考するがフィリアの質問は止まらない。


「ちなみに、魔法はなにが使えるんですか?」

「えーと、田舎にいたせいでそうゆうの分からなくて…」


グイグイと来るフィリアへの回答を濁しながら、魔法の存在があることを再認識する。


「でしたら、どんな属性が使えるか、調べてみるのはどうでしょう。」

フィリアは少し驚いた様子だったが、すぐにパンッと手のひらを合わせ提案する。


「そんなことができるの?」

「はい、ギルドには魔晶石といって、属性を判別できる石があるんです。お金もかからないので気軽に使えるんですよ。」


導かれるままにギルド街の大通りが続いてる一際大きな建物に入っていった。


ーーー数分後。


「げ、元気だしてください」

「...そうだね...」


落ち込んでいた青年を少女が横から顔をのぞかせながら励ます。

なにを隠そう、その属性検査の結果がまさに今落ち込んでいる原因だ。


「魔法が使えない人だって少なからずいます、だからあまり落ち込まないでください」


そう、カケルに魔法を使うための魔力が存在していなかったのだ。


「......魔法使えない人ってどれくらいいるのかな」

「えっと......1000人に1人くらいでしょうか。」


割合をきいてさらに愕然とするカケルであった。


おかしい。

そう、改めて自分の立場を振り返るとおかしいのだ。

事前連絡どころか事後報告すらない転生。

秀でた力どころか魔力ゼロ。それはつまりこのファンタジー世界で魔法が使えないということであり。

さらにずぶ濡れという状態異常スタートと、なににも恵まれていないのだ。

最後はカケル自身の行いによるものではあるが。


だが、人によっては経験を積む(レベルを上げる)ことで魔法が使えるようになる人もいるという。今はこれにかける他ない。


「...カケルさん、今晩の宿は決まってるんですか?」


フィリアに聞かれ、避けていた課題に唐突に直面したのを感じる。カケルの現時点での最大の問題。それは言語が読めないことでも魔力がないことでもなく、衣食住の確立ができていないことなのだ。


改めて自分のステータスを整理すると乾いた笑いが零れてならない...ハハハ。

◆名前:ミツキ・カケル

◆所持金:ゼロ

◆魔力:ゼロ(もちろん属性も持たない)

◆拠点:なし(宿にすら泊まれない)

◆備考:読み書き不可

あれ、目からしょっぱい液体が。


「もし決められてないなら、私の家に来ませんか?ご飯もご用意できますし。」


前を歩いていたフィリアが振り返りながら提案する。


「すごく有り難い申し出だけど見ず知らずの人のためにそこまでしてもらうとさすがに悪いような... 」


「いいんです、私たちもう他人じゃないですし」


どこか悲しげな表情にも見えるフィリアの笑顔に戸惑いながらも、寝る場所のないカケルにとってはありがたい申し出であり、断る理由もない状況が後押しする形で提案を承諾するのであった。


* * * * * * * * * *


日が暮れかかり、中央の大通りを街頭が照らし始める。よく見ると電球の代わりに拳サイズの結晶石が光を放っている。科学よりも魔法が発達した世界なのだと改めて認識させられた。

フィリアに連れられ大通りを下りながら幻想的な黄昏の街に目を奪われていた。


「このあたりは魔光石もしっかりと整備されていて、夜はもっと綺麗なんですよ?」


先導しながらフィリアが話しかけてくる。見知らぬ単語が混じっていたが、そこは追々知っていくことしよう。

そうこうしているうちに二人は城門を潜り抜ける。


「ここって昼に話してた…」


「はい、内城壁の城門です。私の家、スラム街の方なので…。」


気まずそうにフィリアが外側を指さす。考えてみれば、中央広場から南に下っている時点で住宅地区から遠ざかっていたことに気が付く。


どんなものかと思ってはいたが、城門をくぐった先は思ったほど廃れてはいなかった。

大通り同様に街頭が並び、小さな店が両脇に連なっている。確かに先ほど入ったようなバカでかいギルドほどの建物は見られないが、それを除けば十分に繁栄できていると言えそうだ。


「そんなに治安が悪そうには見えないけどなあ。」


「ここは他の町の方々や貴族の方々が通られる道ですからね。スラム街と呼ばれる地域は大通りから少し離れます。」


確かにそれもそうか。などと思いつつフィリアのあとに続いて大通りから外れ脇道を通っていく。

王城前と違い、ここでは居住地区や行商地区、ギルドの勢力などがまばらに点在しているらしい。

どうやら先ほど入ったギルドが世界最大のギルドの支部であり、その他にも中小様々なギルドが存在し、みな内城壁の外に拠点を持っているのだとか。確かにそれならある程度栄えていることも納得できる。酒場と思しき場所からはどこぞのおじさん達の笑い声が聞こえてくるし、子供の手をひいて帰る母親の姿も見える。


なんだ、スラム街というからどれほどのものかと思ったがあまり変わらないじゃないか。

そう思いながら歩いて15分ほどして、先ほどまでの賑わいが嘘のように、薄汚れた壁が連なる区画へと足を踏み入れた。


「ここを抜けたらもうすこしです。」


そんな小道を足早に進むフィリアのあとを追う。

商店らしきものはちらほら見えるが活気がまるでない。街頭もなく、ところどころにある店の前にぶら下がったランプは先ほどの魔光石ではなく、原始的に火を灯しているもののようだった。


暗いな…。

日が山の向こうに沈みだし想像以上に辺りが暗くなったことに気が付く。周りの建物が闇に染まっていく中、フィリアの背中が止まった。


「散々歩かせてしまってごめんなさい。」


「いや、お世話になるんだし気にしなくていいよ。むしろ本当に助かるよ。」


フィリアが立ち止まり金属製の格子門を押し開ける。「門?」と思い、徐々に暗闇になれた目で見上げてみれば、そこには3階建てほどの屋敷が聳え立っていた。いつのまにか少し開けた場所に出ていたようだ。暗くてあまり良くは見えないが、豪華そうな作りをしている。フィリアが開けた門を後ろで閉め、長さ10mほどの石畳を歩きながら玄関へと向かう。


「…フィリアってもしかしてお嬢様だったり?」


「…そんなわけ、ないじゃないですか。すぐ灯りをつけるので中に入って少し待っててくれますか?」


フィリアに言われるがままに中に入る。

そしてフィリアが扉を閉めた音が後ろで聞こえたと同時に、強い衝撃を背後から受けたことで視界が急速に旋回し、体を打ち付けられる痛みに全身を襲われた。


一体なにが...

強く打った頭を押さえ、起き上がりながら離れかけた意識を手繰り寄せる。何が起きたのか判断できない中で、脳だけがここは危険だと警報を鳴らしていた。そしてすぐに、自身の置かれた状況に気づくことになる。


まるで連動するかのように、次々と建物内の灯りが点き始めた。

唐突な点灯により視界が一瞬眩むんだ先に目に映ったのは、片手を前に突き出したフィリアの姿だった。無表情のまま突き出された手の周りからはパキパキと音を立てながら氷塊が増長し、それが背中に広がる痛みの原因なのだと理解するには十分だった。


「な…んで……フィリ、ア」


痛む頭を押さえながら起き上がろうと膝をつく。


「ごめんなさい」

そう呟く彼女の他に、部屋には30人ほどの人間が居ることに、灯された明かりでようやく気づく。

どの人間も柄の悪そうな顔をしながらニヤニヤと笑っていたが、その中でも1番ふんぞり返っていた大男が口を開く。


「おいフィリア、こいつは奴隷商品として問題はないのか?」


「はい。国外の村から本日王都にあがってきたばかりです。知人はおろか知識も魔力も持ちません。」


「ほう、ソイツは上物だ。」


ニヤリと、まるで欲しい玩具を買ってもらった子供のように、はたまた悪巧みに成功した詐欺師のように男の口角があがる。


「奴隷...って言ったのか。」


「そうだ、お前はこれから俺ら奴隷商の目玉商品として高値で売られるわけのさァ。せっかく王都に来たんだ、せいぜい新しい人生を楽しみな?」


親玉と思われる大型の男がそう言い放つと、部下らしき一人が男に鉄製の輪を丁寧に渡していた。


「こいつを見るのも初めてだろ?これは主従の首輪ってんだ。少し値がはるが、つけられた者に絶対服従って代物だ。んわなけでお前も大人しく俺の所有物になってもらうぜェ?」


高々と、低俗な悪役そのもののような高笑いをしながら首輪を片手に近付いてくる。

焦りと拒絶にかりたたれ起き上がろうとするが、背中に走る激痛がそれを許してはくれない。


「...諦めてください。私の氷魔法か直撃しているんです、背骨かあばら骨ぐらいは折れています。」


悲しげな表情を浮かべながら促すフィリアの首に嵌められた首輪がカチャリと音を立てる。

彼女の言うことは本当のことなのだろう。例えようのない鈍い痛みが体の内部を抉るように全身を襲う。痛い...本当に痛い。


全身に広がる痛みと脱力感に折れそうになったその時、唐突にその声はカケルの脳に響いた。


<聖スキル:自動回復(微)を獲得しました。>

<闇スキル:痛覚軽減(微)を獲得。>


今までに経験したことのない感覚にカケルが戸惑う。

そんな言葉を横目に体に鞭を打ち、徐々に痛みが退いていく中よろめきながら立ち上がる。


「ほう。おいフィリア、こいつを大人しくしろ。」


男の言葉にフィリアが命令に忠実に、無言で魔力を練り始めた。外界がその影響を受け、一帯の温度が下がるのを感じる。


「アイス、ブリザード!」


彼女の差し出した手のひらから氷塊がいくつも形成され、勢いよくカケル目掛けて射出された。ただでさえ立ち上がるのがやっとのカケルにとって、5mほどの距離から放たれたそれを回避する方法を持ち合わせてはいなかった。

反射的に直撃に備えて目を瞑る。


......解析完了。

<闇スキル:カウンター(微)を獲得。>

<聖スキル:氷耐性(微)を獲得しました。>


直後、離れた別々の位置で破壊音をきこえる。

時間にしておよそ数秒、痛みが来ないことに疑念を感じおそるおそる目を開け、目の前の光景に唖然とする。


屋敷の内部の壁が疎らに倒壊し、それらに巻き込まれたように賊が数人横たわっていた。


「なにがどうなって..」


<闇スキル:カウンター(小)を獲得。>


いよいよ無視できない脳内アナウンスに、半信半疑ながらも頭をフル回転させて状況を把握する。

声の出所はこの際後にして、どうやらゲームを連想させるこのナレーション通りにスキルとやらを獲得し、氷塊の弾道を反らしたと考えるのが妥当、なのか...


これが...女神様からの恩恵?

冷や汗を滴ながら訝しげに自分の手を眺める。

猶予は残されていないこの状況、うまくこれを使えばここから逃げ出せるかもしれない。


「...嘗めた真似してくれるじゃねーか」


脇腹あたりの装備が破損した親玉がゆらりと構えをとると、周りをパキパキと音をたてながら氷塊が形成されていく。


「どういうカラクリか知らねーが、あのメス犬を騙して潜入したんならてめぇ、王国の犬か。」


氷塊が徐々に鋭利なつららへとその姿を変える。それは痛め付けることを目的とせず、殺傷能力を飛躍的にあげたものであることは一目で理解した。3本の巨大なつららの先端が全てカケルに向けられる。


「ちょっと待ってくれ!」

「くたばれクズがあ!」


弁解の余地なく攻撃は放たれる。自分の命もそうだが、あの仮説が正しかったとしてもこの屋敷が倒壊しかねない。だが次の瞬間、カケルの推測はまたも外れることとなった。


「ガハッ」

鮮血。呻き声とドスドスという鈍い音をたて、それらが後方に飛散した。後を追うように赤く流れでた血液がつららの先端から床に滴り落ちる。


「そんな、馬鹿な...」


放たれたつららがカケルに届く直前で大きく歪曲し、吸い込まれるように男に次々と突き刺さったのだ。


<<氷魔法:系統「ランス」を獲得しました>>


弾くだけだと思っていたスキルが攻撃者に牙を向いた瞬間だった。頭の奥そこで重なる声が耳に残るのを感じる。

グラリと男の貫かれた体が後方に倒れ、動かなくなる。

その光景に唖然としていたまわりの賊が次々と武器をとりだした。


「てめー、よくもガラムさんを!!」


30人ほどの集団が四方から敵意を剥き出しながら走り出す。

命の危機を感じ咄嗟に、僅かな希望にかけてカケルも頭に響いた声に賭け、魔法を叫んだ。


「ランス!!!!!」


唱えた瞬間、カケルの上空を中心に無数の鋭利物が氷から一斉に生成される。300は下らないその本数が一斉に地面に向かって降り注ぎはじめた。


「そこまでだ!」

つららが人間を喰らう寸前、まるで津波のように上空一面を炎が一掃する。

「我々は王国近衛部隊だ!この場は我々が占拠している。貴様らを不法奴隷及び人身売買の容疑で連行する!」


正面の入り口から深紅の騎士を中心に銀色の鎧をまとった騎士団が、吹き抜けだった2階に銀色のローブを纏った魔術師が侵入し場を包囲していた。


たすかった...?

そう思ったのも束の間、異常なまでの眠気と脱力感に襲われ片膝をつく。

あれ、一体なにが...

為す術もなく、激痛と相成ってカケルは引きとどめていた意識を手放した。


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