飛行機
夏祭りチャレンジ1日目!
村に飛行機が着陸したのを見たジンはサラを引き連れて急いで飛行機へと足を運んだ。
村人達は突如、飛行機が着陸した事に驚き、砂煙が治まった外へと足を出して初めて見る飛行機に釘付けであった。
飛行機は国や異跡探求者が僅かに保有し、その用途は長距離移動や輸送とそれぞれである。しかし、飛行機はほんの僅かしかなく、離着陸の場所も限られ、今はまだ一般人が目にする事はあまりない。
飛行機は条約として軍事利用しない事を取り決め、破った場合は今後の技術提供は停止する事が含まれている。これは、異跡探求者が飛行機を作り上げ、技術を提供する上で決めた事である。空からの攻撃も含め、異跡探求者の技術は今までの戦い方を変えてしまう。独占という手もあったが後々非難される事は目に見えていたし、異跡探求者の理念に反する為、最大級の条約を提示てし公開に踏み切った。
「あのマーク、異跡探求者のシンボルじゃないか?」
村人の誰かが飛行機の胴体に描かれたシンボルに指差して言った。
胴体に描かれたシンボルは長い方位磁石の長い針の上に2つの銃に重なった様なデザインである。
その飛行機に乗っていたと思われる複数の人物が降りた。
村人達は異跡探求者が村に来た事に驚きを隠せなかった。異跡探求者なら滑走路がない砂漠の大地でも着陸は出来るだろう。あの飛行機が証拠だ。しかし、いくらここから異跡が近いとはいえ、村に降りてくる理由があるのかと。飛行機なら、村よりも直接異跡に着陸した方がいい。
そんな村人の想像を知らず、飛行機のタラップから降りた3名の調査部は村へ行こうとすると、目前から急いでやってくる2人の男女を見つけた。
調査部は村人かと思ったが、向かって来る少女の服装が見た事のない服装であった。
調査部の前で足を止めると、ジンは口を開いた。
「水陸両用高速飛行機スヌーヌで来るとはな」
それを聞いた調査部は驚いた表情を浮かべたが、同時に目的の人物である事が分かった。
「探求者ジンですか?」
「そうだ」
調査部の尋ねにジンは肯定した。
サラは目を瞬かせて尋ねた。
「ジンさんのお知り合いですか?」
「いや。彼等は調査部だ」
サラの質問に答えるジン。もしかしたら、素直に質問に答えたのはこれが初めてかもしれない。
そんなやり取りの中、調査部の1人がサラを見ると同じ様にジンに尋ねた。
「彼女は?」
調査部の言葉にジンは一瞬耳を疑った。
「それは後だ」
ジンに尋ねた調査部にもう1人の調査部が声をかけた。
「ノアは本部に連絡。クォーシーは機体の点検。セシオンは内部の点検だ!」
今回の責任者と思われる調査部の男は素早く指示を出しすとそれぞれ持ち場に移動した。外には指示を出す男を含めて3人しかいなかったが、よく見ると内部にもう1人おり、敬礼していた。
「今回、本部からジンさんと同伴者の迎えをいい使わされたユリウスです」
指示を出していた調査部であるユリウスはジンに自己紹介した。
「本部からと言う事は、その指示を出したのは情報解析部第2班からか?」
「はい」
ジンの質問にユリウスは頷いた。
ジンの疑問は今の質問で晴れた。どうやら、副長であるおばさんが古代人の事を隠して指示を出したのだと。知られれば大騒ぎであるからそうしたのだろう。が、
(まだあっちで古代人と決めたわけじゃないからか)
そして、同伴者と言った背景も理解した。ジンがいくらサラが古代人と言っても、最終的には情報解析部が決める事であった。
サラは2人が何のやり取りをしているのか分からなかった。
そんなサラをユリウスは見た。
「その同伴者ですが、まさか…」
ユリウスの言葉に無言で頷くジン。ユリウスはやはりと言う表情を浮かべた。同伴者という言葉もおかしかった。普通なら探求者2名。なのに、探求者と同伴者。これは一体……
「宿泊場所から荷物を持って来る。その間、こいつを頼む」
ジンはユリウスにサラを見ていてもらおうと思った。それを聞いたサラは首を横に振ると早口に言った。
「私も行きます。迎えって事はここから離れるって事ですよね?」
サラの言葉にジンは内心で溜め息を着いた。確かにその通りなのだが、頼むからじっとしていてくれと思いながら。
「俺も行きましょう」
行きたいと言うサラにユリウスが助け船を出した。
「ジンさんの宿泊場所に謝礼を言うようにと言われているんです。どうでしょうか?」
「……分かった」
どうでしょうかと言われてもそう言われたのなら反論出来ないだろうとジンはサラとユリウスと共にフロンスの家へ向かう事にした。
この間、村人達が集まっており、声は聞こえずとも見ていた事をフロンスの家へ向かう途中に知った。
◆
ジンとユリウスの話を聞いたフロンスとアリステラは驚いた表情を浮かべていた。
「まさか、ジンさんが探求者だったとは……」
「話すとややこしくなる考えたから黙っていた」
フロンスの言葉にジンは口数少なく探求者である事を言わなかった理由を言った。
「ジンさんの宿泊の件に感謝します」
加えて、ユリウスはジンの代わりと本部から言われた通りに礼を述べた。
サラは別の部屋でマリアと話していた。
「ジンさん、探求者だったんですね」
マリアもジンが探求者である事に驚いていた。異跡探求者は雲のような人達で、探求者はさらに上の存在である。
サラは探求者と言う者をジンしか知らず、詳しく知らないからそれほどすごいものなのかと首をかしげた。確かにジンはすごいが。
「サラさんも異跡探求者なんですか?」
マリアの言葉に首を横に振った。
異跡探求者が何か分からない事もある。
「そうなの!?」
「ジンさんとは一昨日知り合ったんです」
続きを言おうとした時、2人がいる部屋の扉が開いた。
「行くぞ」
フロンスとの話を終えたジンが扉を開けてサラに声をかけた。手には荷物であるウエストポーチが握られていた。
サラは返事をすると、マリアの両手を握った。
「マリアさん。また会いましょう」
さよならは言わなかった。頭を下げると部屋を出て玄関へと足を運んだ。
「それでは失礼します」
ユリウスの言葉にジンは軽く会釈、サラは深々とお辞儀をし、フロンスの家を出た。
* * *
「ユリウス!」
フロンスの家からしばらく歩くと、役所で本部と連絡を取っていたノアが駆け寄り合流し歩きながら報告した。
「本部から予定通り帰還するようにと」
「分かった」
ノアの報告にユリウスは頷いた。
「それと……」
ノアはジンを見た。
「報告書は時間短縮の為、移動中に書くように。と」
ノアの報告にジンは目を反らして分かったと言ったが頭が少しだけ重かった。いや、少し顔が青くなっていた。
「ジンさん?」
その表情にサラは尋ねようとしたが、既に飛行機に到着していた。
「足元に気を付けて」
ユリウスの言葉にサラはタラップに足を乗せた。少しきしむ音がしたが、1歩とゆっくりとだが足を踏み出した。
続いてジンはタラップの前に立つと一呼吸し、タラップをかけ上がった。
その後をユリウスとノアが続く。
飛行機機内に足を踏み入れたサラが見たのは、座席が両端に2列づつ並べられ、計32席。入口付近は広々と開けられており座席がなかった。
「内部は思ったよりも広いのですね」
サラは納得した様に呟いた。
「クォーシー、セシオン。どうだ?」
後に続いてジン達が入るなり、ユリウスは飛行機を任せた2人に尋ねた。
「機体異常なし」
「コックピット問題なし」
クォーシーとセシオンはユリウスの前で順番に報告した。ユリウスは分かったと頷いた。
「これより本部に戻る!持ち場に着け!」
ユリウスの言葉にクォーシーとセシオンがコックピットの席に座った。コックピットと座席に仕切りはない。
「ジンさんとえっと……」
「サラです」
「サラさんもお好きな席に座り、シートベルトを着けてください。」
ユリウスの言葉を聞いたサラは村が見える窓際に座りシートベルトがどれか探した。
「その黒い紐がシートベルト。端に金具があるからそれをそこにさして」
シートベルトを探していたサラにノアが教える。
シートベルトを見つけ、教えられた通りに着けると窓に張り付く様に外を覗き込んだ。
ジンはその後ろ。しかし、窓際ではなく通路側に座っていた。
「ジンさん、隣空いていますが?」
それに気付いたサラは声をかけたが、ジンは答えなかった。
エンジンが起動しエンジン音が響き渡る。
見ていた風景が移り、体感でも動いていることが感じられた。
「離陸します!」
操縦席に座るセシオンが声を上げた。
その瞬間、今までにないくらいにエンジン音が大きく響き、砂の上をエンジンから圧縮された空気が押し出され、フロートで滑っていた。
押し出されたその勢いのまま、飛行機はふわりと地面から離れ、上昇した。
サラは村を見ると手を振った。それは、1日だけだがお世話になったフロンス家と何度も話して楽しかったマリアに向けてだった。
* * *
フロンス達家族は離陸した飛行機を見ていた。
「行ってしまったな……」
フロンスはどこか物寂しそうに言った。客を招いて食事する事は楽しかった。それに、異跡探求者と面識を持てた事。有意義でないはずがない。
マリアは飛行機に向かって手を振っていた。
他の子供なども飛行機に向かって手を振たり追いかけたりしていたが、マリアは何度も話して不思議と思えたサラに向けて振っていた。
◆
飛行機の小型窓から外を覗いていたサラが呟いた。
「砂漠ばかりです……」
村を離れてそろそろ数時間。何度か外を見てたサラだが、見ても外が砂漠であるため飽きていた。座席に背を深くかけて溜め息を着く。
(砂漠って、あたり前だろ?)
サラの言葉を聞いたノアは当たり前の事を何故疑問に思うのか分からなかった。
言ってしまえば、今回本部からの任務は少し不自然だ。それはノアを含む4人の調査部が感じていた事だ。
探求者1人の為に高速飛行機を出す事はまずない。加えて、一般人を乗せることもないしありえない。
高速飛行機は異跡調査で急な人数を増やす場合や物資や機材を急いで運ぶ為に使われている。
何故本部は高速飛行機まで出してこの2人を迎えに行かせたのか。
それに、サラと名乗る少女は見た事のない服装に加えて、時々おかしな事を言う。
飛行機に乗ってしばらくすると、
「少し遅いです」
と口にし、聞いたジン達を唖然とさせた。飛行機よりも速い乗り物があるのだろうか。
それに、探求者であるジンが共にいるという事も気になる。
異跡の爆発に巻き込まれて死んだと思われていたからだ。幽霊なら足はないだろうが、目の前のジンにはちゃんと両足がある。
そのジンはといえば、右手にペンを持ち報告書を書いていた。既に何枚かの紙にびっしり文字が埋められていた。が、反対側の左手は小刻みに震えていた。
「手、震えてますよ?」
「……言うな」
ジンに噂の真意を問いただす為に近づいて言ったノアの言葉にジンは左手を握った。
飛行機で文字を書く事は難しい。飛行機は一見静かな様に見えるが、いくらか揺れている。その為、報告書を書くジンの文字も震えたように書かれていた。
ノアは震える理由がそれなのではと考えたが、少し違う。
ジンは周りに出来るだけ隠しているが、軽度の高所恐怖症である。
幼い頃、渓谷から落ち、瀕死の重症を負ってしまった事がある。それ以来、高い所が苦手になってしまったのだが昔は酷かった。上から下を見下ろすどころか、留まる事も上がる事を出来なかった。今ではある程度克服しているが、それでも飛行機の様に高い高度を飛ぶ物に乗るとこうして体の何処かが震えるのである。
「1ついいですか?」
ノアはジンの向かいの通路側に座ると尋ねた。
「異跡1つ爆発したって本当ですか?」
「誰から聞いた?」
ノアの言葉にジンは書いていた手を止めて鋭い目付きで早口で尋ねた。この反応は当たりだとノアは思った。目付きが怖いが。
「本部では既に噂で広まっているからな」
最前席に座るユリウスがジンの求める答えを言い、2人の話に参加した。
いくらか敬語は取れている。これは飛行機に乗っている時は本部と同じ様に遠慮せずに話そうとユリウスの提案である。ジンはそもそも敬語で話していないから気にしてはおらず構わないと言った。それでもノアの言葉にはまだ若干の敬語が入っているが、これが彼の普段の話し方らしい。
ジンは溜め息を着いた。噂にしては広がるのが速すぎる。
「何処から漏れた?」
「じゃあ……!?」
「爆発は本当だが俺が壊したわけじゃない」
真実であるが正確に言えば、ジンが仕留め損ないドローンが撃ったのが原因である。仕留め損なった点を言ってしまえば、ジンにいくらか責任があるかもしれない。
「それよりも、何処から聞いた?」
「同僚から聞いたんです」
ノアの回答にジンは納得してしまい頭を抱えた。
通信部や調査部は探求者とは違い横のネットワークが広く、情報の伝達が速い。これなら広まる訳だ。
「けど、何と言うか……さすが《不死身》と言うか……」
言葉を探しながら言うノアの言葉にジンは深く長い溜め息を着き目線を反らした。
「不死身?」
その言葉に外を見るのに飽きていたサラが食い付いた。
「ジンさんって不死なのですか?」
通路側の座席に移動したサラが質問した。何か少し違う。いや、真に受けている様な言い方だ。
「二つ名。代名詞の事だ」
「代名詞?」
サラの質問にユリウスが答えた。
「実力があり有名な探求者には代名詞が付けられているんだ。より正確に言うなら、いつの間にか呼ばれてそれが広まって使われているだけなんだがな」
ユリウスの言葉にサラはジンを見た。ジンも実力があり有名なのだと。
「ジンは危険な異跡において生存率が高い事から《不死身》の二つ名が付いている」
「迷惑な代名詞だがな」
ユリウスの言葉にジンが毒づいた
「不死身と言うが、俺も人間だ。いつか死ぬ。そんな代名詞に何の意味がある?異跡でなかなか死なないから付けられただけで揶揄には相応しいがな」
本気で自分に付けられている代名詞を否定した。この二つ名はそうとう嫌いなのだ。自身が苦しむ悪運の強さを言い表しているから。
「けど、ジンさんは今生きてます」
サラの言葉は揶揄と言ったジンに深く刺さった。
「ところで、探求者って何なのですか?」
常識を知らないサラの言葉にユリウスとノアが固まった。
そして、疑うよう目をジンに向けた。
「ジンさん、彼女は何者なんだ?」
ユリウスの言葉にジンは口を閉じた。
「あ!」
副操縦席に座るクォーシーが声を上げた。
「海が見えますよ!」
その声に今さっき質問して2人を固まらせたサラは急いで窓側の座席に戻ると小型窓から外を覗いた。
この隙にと、ユリウスとノアはサラを知るジンに問いただした。
「彼女は何者なんだ?」
ユリウスの言葉にジンは溜め息を着いた。やっぱり古代人について知らされていなかったようだ。
なら、ジンの回答も決まっていた。
「詳しい事は2班から口止めされている。すまないが話せない」
面倒な説明をそれで回避した。
ジンの回答に2人は納得出来なかった。ジンは異跡の爆発に巻き込まれた。ならその後に会ったのだと考えるが、それでも迎えに行くのはジンだけだ。サラは異跡探求者でもないしなんなのか分からない。
「ふわぁ~!!」
窓から外を覗いたサラは声を上げた。
下は空とは違う青。光に反射され数種類の青と波が起きている所は白い線で見えていた。
「海です!海!」
サラは目を輝かせ1人で騒ぎだした。まあ、ずっと砂漠の風景が続いていたし、海が初めてなのだろうと思う所なのだろうが、騒ぎ方が少し大袈裟である。
窓にベッタリと張り付きあーだ、こーだと言う。子供がはしゃいでいる様である。
騒いで近くで少し揺れているのを感じたジンが早々にキレた。
「いい加減に大人しく座っていろぉぉぉ!!」
揺れに恐怖を感じた高所恐怖症であるジンが叫んだ。
* * *
ユリウスはサラに探求者について説明をしていた。
説明する前に探求者とそれに類似する事についてどれだけ知っているか尋ねると、ジンしか知らないと言った。
そのジンもサラに探求者やそれに類似する物について聞かれなかったし説明もしていなかった。いや、
「尋ねましたがが無視されました」
と言い、ノアから、
「質問に答えろよ!」
と乱暴に言った。突っ込む時等は乱暴になるらしい。
ジンは説明するつもりがない為に、正確には報告書を書く為にユリウスが説明している訳である。
「探求者は異跡内部を調査する者達の事だ」
今は探求者だけの説明に留めた。異跡探求者の詳しい説明は今はしない。
(コロニーの調査?)
サラは首を傾げた。
サラの記憶ではコロニーは居住施設等で人が住んでいた……はず。何故調査をするのか分からない。
「探求者は卓越した身体能力と頭脳がなければなれないもので、世界で最も難しい職業だ」
「そんなものにジンさんが……」
ユリウスの言葉にサラはジンを思い浮かべた。ガーディアンや人拐いと対峙した時に見せた身体能力と一瞬にして状況を読み取り最良を見つけ出した判断能力。だからなのかと思った。
「でもそれって、不法侵入ですよね?」
コロニーの事を知るサラにしてみれば探求者がしている事はそれであった。
「不法侵入って、既に人は住んでいないから不法でもないが」
「え?」
が、ユリウスの言葉にサラは驚いた。
そう言えば、ジンはコロニーに人がいない事を言っていた。居住の用途があったコロニーが何故?どうして人が居ないのだろうか?
ユリウスは説明を続けた。
「話を戻すが、探求者の主な役割は内部の立地やドローンの回収。今はまだ探求者に負担をかける調査しか出来ずに困難で奥に行くことも難しいが、必ず奥へ行き解明出来ると考えられている」
一通り聞いたサラは次の質問をした。
「ユリウスさんも探求者なのですか?」
ユリウスは首を横に振った。
「いや、俺達は調査部と言って、異跡がある場所を探したり物資を運んだりするのが役割だ。」
内心で本当に知らないのだと思いながら言った。
「その関係で飛行機と言った乗り物の扱いにも長けているんだ」
探求者が内部調査なら、調査部は外部、フィールドワーク専門である。
この際、分からない事を聞こうとサラは質問を切り替えた。
「どうして砂漠が広がっているのですか?」
ユリウスとノアの目が丸くなった。
「生まれた時から砂漠だが?」
いくらフィールドワークが専門とは言え、そうとしか答えられなかった。
「かなり昔から砂漠が広がっていると聞いた事があるが、詳しくは知らないな」
サラの期待する答えが出ない。
「どうしてコロニーに人がいないのですか?どうしていないと言えるのですか?」
「コロニー?」
「あ、異跡……ですか?」
コロニーでは伝わらないと気付き言い換えた。何故コロニーではなく異跡なのかも分からない。
「1000年前の建造物だからな」
「1000年!?」
ユリウスの言葉にこれまでないほどにサラが驚き声を上げた。
声の大きさにユリウスとノアは目を見開いた。同時に報告書を書いていたジンも驚いて手を止めた。
「驚く事じゃないだろ?それが100年前に見つかった。今では常識だが本当に知らないのか?」
ユリウスの言葉にサラは頷くも首を横に振る事も出来なかった。むしろ、
「ジンさん、本当なのですか?」
ジンに尋ねていた。
「……ああ」
静かに肯定した。
「古代人が作ったとされているが、どうして手放したかは不明だ」
「手放した!?」
ユリウスの言葉は更に追い討ちをかけるものであった。
「コロニーは……あれ?」
何かを言おうとしたサラの様子が突如変わった。
「コロニーはえっと……居住性とそれから……」
言葉が出ない。その様子をジンは目を細めて見ていた。
言葉が見つからなかったサラは口を閉じると改めて開いた。
「どうしてですか?」
「不明だと言ったが?」
何を言うのか待っていたユリウスだが、繰り返された質問に同じ様に答えるしかなかった。
「古代人…」
そのまま項垂れてしまった。
コックピットからセシオンの声が響いた。
「ユリウス!見えてきた!」
その言葉にユリウスとノアはコックピットに移動。ジンは高所恐怖症を隠す為に報告書を書く事を理由として動かない。
項垂れていたサラは少し遅れてコックピットに足を踏み入れた。
「島?」
前方に見えたのは、大小様々な島であった。
今までの砂漠とは違い、植物特有の緑色が見えていた。いや、溢れていた。
「あれが目的地だ」
ユリウスの言葉に飛行機がその植物で覆われた島の真上を飛ぶ。
「あと少しで着く。席に座ってくれ」
セシオンの言葉に3人は席に戻りシートベルトを着けた。
「そう言えば、目的地を聞いてませんでしたがどこに向かっていたのですか?」
「今それ聞く?」
今さらの質問にノアが驚いた。いや、出発前にユリウスがそれとなく呟いたのを聞いていなかったのかと思った。そう思っただけで教えないはずがない。ノアはサラに着陸場所を教えた。
「俺達、探求者や調査部の本拠地。異跡探求者本部だ」
飛行機の前方に本島とそこを橋で繋がっている小島が見えた。
飛行機は小島へと旋回する。
「着水します」
「着水ですか!?」
セシオンの言葉にこれで何度驚いたのか分からないサラが目を見開いた。
どう見てもこの飛行機はその場にすぐに着地出来るような物ではない。離着陸する長い距離の道、滑走路が必要である。
「滑走路はないのですか?」
「大陸にはあるがここは島だ。まあ、国で管理しているのは島まるごと空港として使っているがな。本部の敷地で滑走路なんて作ったら面積が取られる。だから、海に着水だ」
それにとユリウスは続けた。
「これが着地したのは砂漠だろ?つまりだ、これは場所があればどこでも離着陸出来るんだ」
異跡探求者専用だからと付け加えた。
その後すぐに飛行機のフロートが海面に触れ、物凄いスピードで飛んでいたその勢いは海水を切り裂き、波を高く、長く舞い上がらせた。
機内では着水時に1度大きく揺れた。
「ここは改良点だなやっぱり」
ユリウスが呟いた。
スピードを徐々に落としていった飛行機は勢いがなくなり、舞い上がっていた波も低くなった。
コックピットでは副操縦に座るクォーシーが監視塔の指示を確認していた。
「信号確認。1番に停止せよ」
「了解!」
クォーシーの言葉にセシオンが舵を取る。
この時ばかりは雑談していたような雰囲気ではなかった。
まだ僅かに動く飛行機をセシオンは1番に向けて移動。そして、ドックと思われる場所に着くと静かに停止させた。
停止してしばらくして、誰かが息を吐いた。
「お疲れセシオン」
「まだ終わっていないよクォーシー」
コックピット席ではセシオンとクォーシーが手を握りながら称えあっていた。
「セシオンの言う通りだ」
シートベルトを外し2人に割って入ったユリウス。
サラは飛行機が本当に海に着水し何事もない事に驚きながらも、シートベルトを外して外を覗いた。
海だ。こちら側ではない。反対側に移動して改めて覗いた。
少し近い所に茶色い建物が見えた。
「ノアさん。あれは何ですか?」
近くにいたノアに尋ねる。
「あれはターミナル。ここは滑走路だけでなく波止場も兼ねているんだ。」
そう言って違う場所に指差した。少し遠いが船が何隻か見えた。
(ようやく着いたかぁ~……)
ジンは疲労困憊と言わんばかりの表情で前の座席に額を着けて溜め息を着いた。
飛行時間にして約9時間。軽度とは言え高所恐怖症のジンには辛かった。
全員の両手が塞がっていると見たユリウスは飛行機のドアに手をかけるとそのまま勢いを付けて開けた。
機内とは別の新鮮な空気が流れ込み気持ち良く感じる。それは、同じく機内にいたジン達も感じていた。
「迎えが来ていますよ」
ユリウスは初めて会った様な言い方でジンに言った。
ジンは急いで書いた報告書をまとめ、荷物を手に取った。
「行くぞ」
サラに一言かけるとユリウスに向かい合うと会釈した。長時間の往復の飛行をしてきた調査部に何もしないのはジンに礼儀を教えた人物の教えに反する。普段のジンからは創造出来ないが。
「ありがとうございます」
サラは深々とお辞儀をした。
ジンは飛行機から出ると機体に付けられていたタラップから降りた。
次いでサラが飛行機から出た。髪が潮風に揺れた。潮の香りがする。その香りを楽しみながらタラップを降りた。
降りるとジンが複数の男女と対面するように立っていた。
サラは急いでジンの隣に駆け寄った。
サラがジンの隣に付いたのを見た出迎えと思われる亜麻色の髪の女性が口を開いた。
「ようこそ異跡探求者へ!」
まさかのジンが高所恐怖症だった(゜ロ゜;ノ)ノ!?
過去に一体何が……
空を飛ぶ事って人類の憧れなんですよねぇ~(^_^)
ライト兄弟がエンジンを積んだ(これ、後で重要!)飛行機で有人フライトを成功させましたが、過去には色々な事がありました。
孔明は天灯(別名孔明灯)という熱飛球を飛ばしたり、レオナルド・ダ・ヴィンチは回転する羽や上下に動かす羽を作って実験したら負傷し、動かさず水平にする考えを出しました。
日本ではなんと、ライト兄弟が飛行に成功する前に動力なし(エンジンありませんよ!)で飛行に成功した人がいます!
それが、浮田幸吉と言う人で、日本で初めて空を飛んだ人とされています(その後、奇怪を起こしたとして一時的に留置所に入れられたみたいですが)。