表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/16

休憩

 少女達が人拐いにより閉じ込められていた小屋の近くでは、村の男達が人拐いの男5人を縛り上げ、数人が見張りとして囲んでいた。

 少し離れた所では閉じ込められていた少女や子供が家族と再会し抱き合い、泣いていた。


 数日前から村の少女や子供が行方不明になった事が始まりである。

 最初は1人の少女がいなくなった。度々近くの村へ行き来していた為に深く考えなかったのだが、翌日に子供が2人いなくなり慌てて村人総出で探し出す事になるも見つからず、砂漠へ出たのではないかと意見を出し合うが、結局は小さい村だからすぐに戻って来るか後日周辺を探す事となった。が、日を追って1人といなくなってしまった。

 子供には人の少ない所には行かないように、何があっても村から出ないように注意し、大人達は子供が砂漠へ行かないように目を光らせていた。

 その最中で村に銃声が数発響き、駆けつけた4人の男達が見たのは、気を失い倒れている男5人とそれを相手取ったと思われる若い青年1人。そして、小屋の近くに見慣れない服を着た少女と村からいなくなっていた少女や子供達であった。

 村の男達に気づいたのか、青年は顔を向けると、

「縛るものはないか?人拐いの連中だ 」

 と言い、男達は初めて居なくなった理由が人拐いによるものだと知った。


 その人拐いから村の少女と子供を救い出したジンは村人達に感謝されていた。

 初めのうちは鋭い目付きと不機嫌な表情。そして、余所者と言う理由から近寄ろうとする人はいなかったが、1人の子供が、

「ともだちを助けてくれてありがとう!」

 と、お礼を言った事で1人、また1人とお礼を言い、気づいた時には村人から途切れんばかりの感謝の言葉を言われていた。

 お礼を言われたジンはと言うと、

「礼を言われる為にやったわけではない」

 と素っ気なく言った。

 これには村人達は少し戸惑ったが、最終的にはやはり感謝していた。

 だが、ジンは終始不機嫌な表情であった。理由はやはり疲労であった。

 村人達の何人かは、ジンが不機嫌なのは5人の人拐いを1度に相手して疲れているのではと考えたが、それは少し違っていた。

 普通に考えれば、5人を1度に相手するのは戦闘力に差がなければ大変である。だが、ジンは2度に分けて倒していた。それと、村人には教えていない為に知られていないが、ジンは探求者である。探求者は身体能力が高い。だから2度に分けたとは言え、5人を相手に出来た。

 それでもジンが村を訪れた時点では既に疲労は貯まっていた。

 人拐いと相手をしていた時にはそのハンデがあったのだが、人拐い達にしてみれば、ハンデなどないようなものですぐに倒されてしまった。


 その一方で、ジンとは別の理由で不機嫌になっている者がもう1人。ジンが人拐いを倒し感謝される理由を作ったサラである。

 そのサラはジンの隣で少し睨んでいた。

 村人からの感謝がひとまず止むと、小屋の壁に背を預けたジンに言った。

「どうしてあんな事を言ったんですか!」

 サラの言葉に溜め息を着くタイミングを逃したジンは何の事を言っているのか分からなかった。

 サラは周りに聞こえる様な大声を出してはいなかったがその声には確かに怒気が込められていた。

「どうして自分が殺されてもいい様な事を言ったのですか!」

「それか…」

 ここで何を言いたいのか分かったジンは溜め息を着いた。

「挑発だ」

 ジンの言葉に表情を一瞬崩したサラだが、すぐに睨んだ。

「つまりだ。奴等を挑発して隙を作る必要があったんだ」

 ここでジンは説明を始めた。


 人拐いは銃を持っていた。しかし、小屋を開けた自分ジンを撃たなかった。その理由は至ってシンプル。銃声で村人に気付かれたくないからである。

 人拐いをしている事に加え、日が昇っている真っ昼間に銃声は目立ちすぎるからである。そして、これをすぐに理解したジンはサラを含む小屋の中にいる少女達に被害が及ばない場所へ移動。初めに撃たなかった事から撃つ確率も低かった。

 被害が及ばない場所で止まると、ここで挑発を始めた。銃を持っているのなら勝手に撃てと。ここで注意したのが自分の不利にならない事であった。人拐いは言葉巧みに人を騙す。話が長くなれば付け入る隙がなくなるり、誰かを人質にされる可能性があった。迅速にして意識を自分に向けさせつつ終わらせるつもりであった。それが失敗したら実力行使だったのだが、ジンの思惑とは別に対峙した3人の中に気が短い者がいた。恐らく新入りかただ威勢のいいだけか。その者がジンの思惑を予想以上に早く進めさせた。

 当たれば致命傷だが、弾丸が外れる位置まで誘導し構えさせ、引き金を引かせた。

 この一瞬の隙が最も大きく、ジンはすぐに避けると人拐いの3人の間合いに入り、一瞬にして鎮圧したのだった。


「それでも、心配したんですよ!」

 一連の説明を聞いたサラは血の気がなくなるような気がしながらも怒っていた。

「ジンさんがすごく強くて速いのは知っています!けど、こんな事はもう言わないで下さい!」

 言うなと言われても無理だろうと内心で呟いたジンはサラから目線を反らした。

「ところで、お前自身の事は何も話してないだろうな?」

「話していませんが、どうしたのですか?」

 ジンの言葉にサラは首を傾げた。

「俺がいいと言うまで異跡にいた事や異跡であった事は言うな。もちろん、俺が探求者である事もだ」

「どうしてですか?」

 口止めをするジンに更に首を傾げるサラ。

 ジンは深い溜め息を着いた。

「ややこしくなるからだ」

 異跡探求者はこの世界ではかなり有名で、その代名詞である探求者はエリートの様なもので憧れの的であった。だからジンは村人に黙っていた。

 そして、サラは古代人だ。言わずもながら誰にもその存在をまだ世界に広める訳にもいかない。

 ここまで考えてジンは何かを思い出した様に再び深い溜め息を着いた。

(そういえばこいつ、自分が古代人って事知っているのか?)

 ジンはサラが古代の人間である事を言っていなかった。いや、ぼやかしていた。だから砂漠でサラが大量の質問をした時に無視をしていたのだ。この世界の殆どが砂漠である事を。いつの間にかサラを傷付けない様にしていたのだ。

(おばさんに叱られる…か?)

 副長だがおはさんと呼ぶ女性が叱る様子を考えたジンは溜め息を着いた。頭が重い。

(そういや、電話も途中で切っていたな…)

 叱られる理由が見つかり更に頭が重くなった。


 そんな事を考えているとも知らないサラはジンの顔を覗き込もうと目線を反らすと、異跡で怪我した左手から血がにじみ出ている事に気が付いた。

「ジンさん、手!」

 サラのトーンの高い声にジンは考えるのを止めると左手を見た。

「少し無理をしたか」

 そう言うと血がにじみ出た左手を右手で掴む様に隠した。

「何をそんなに冷静に言ってるんですか!悪化するかもしれないんですよ!」

 かもしれないな。とジンは思った。

 傷によっては化膿で治りが遅くなる場合がある。サラはそれを指摘していたのだが、ジンとしてみれば傷はいつもの事と捉えて気にしていなかった。

「早く手当てをしないと!すみません!」

 サラは誰でもいいからと叫んだ。

 ジンとしてみれば少し迷惑であった。

「どうしたんだ?」

 サラの声に気付き、近くにいた村人の男が尋ねた。

「手当てをしたいんです。場所を借りられますか?」

 サラの言葉を聞いた男はジンの左手から血がにじみ出ている事に気づくと目を見開いて驚いた。

「怪我をしていたのか!?すぐに来てくれ!あ、すまないが少し外す!」

 男は一声かけると2人に来るようにと手招きをした。

 ジンは結構だと断ろうとしたが、

「ジンさん早く!」

 サラに腕を引っ張られ言えなかった。


  * * *


 ジンとサラは2人を案内した男の家にいた。

 ジンの左手は適切な手当てを受け、清潔で綺麗な包帯で巻かれていた。ついでに、左頬の傷も改めて手当てをしもらった。

「医者だったんだな」

 ジンは手当てをしてくれた男に言った。

 初めは1人でやるつもりだったのだが、案内と場所を提供してくれた男が医者であった事から手当てをお願いしたのだ。もっとも、男の方がそのつもりであった。

「医者と言っても簡単な処置や処方だけだがね」

 加えて、大きな怪我や病気は車で丸1日走った町で診られると言った。

「しかし、火傷に何かが刺さった跡。ごく最近のようだが、どこで何があったんだ?」

 男の興味本意の言葉にジンは口を閉じた。何も言わないというポーズである。

「気に触ったのなら申し訳ない」

 男はジンに謝罪を言うと話を変えた。

「自己紹介がまだだったな。自分はフロンス。村長の弟でこの村で医者をしている」

 フロンスは40半ばの男性であった。

「ジンだ。手当てしてくれた事に礼を言う」

 ジンも自己紹介をし、お礼を言った。

 最初は余計だと思っていたが、手当てされたからにはお礼を言わないわけにはいかない。それに、ジンがしようとしていたのは応急手当てだ。きちんとした処置ではない。

「医者だからね。それと、お礼を言うのはこちらの方さ。村の子供達を助けてくれてありがとう」

 フロンスは改めて村の少女と子供を助け出したジンに感謝した。

 ジンとしてみれば偶然であり、いなくなったサラを探して巻き込まれた様なもので感謝されても困るのである。

 そのサラはというと、やはり部屋の中を目を輝かせて見渡していた。

 医務室と言うべきか、部屋には薬が並べられている棚や机と置かれている物は至って普通である。

 壁は恐らく土レンガ。何処から土を持って来たかは分からないが、触った感覚と見た目から土ではと考えていた。

「何が、珍しいのでしょうか?」

 さすがに目を輝かせるサラに意味が分からずフロンスは首を傾げた。

(頼むからまたいなくなるなよ…)

 ジンは少し呆れながらも心の底から願うと、フロンスに口を開いた。それは、村に着いてから考えていた事だ。

「1ついいか?この村にしばらく停泊したいが泊まれる場所はあるか?」

 調査部リサーチが来るまでここに留まらなければならない事は分かっていた。

 村とは言え、宿泊出来る宿はあるだろう。費用は調査部が迎えに来た時に払わせればいい。そもそも、私物や僅に持って来ていたお金はテントに置いており、異跡爆発時に後方支援が持って逃げて、いや、恐らく置いて逃げただろう。失っているのだ。

 そこは深く考えなくてもいいが、とにかく、腰を下ろせて休憩出来る場所を見つける必要があった。

「それなら家にどうぞ。患者が泊まる部屋がありますのでそちらを使って下さい」

 ジンとしてみれば思わぬ言葉が飛び出た。そこは宿か村長の家と決まった様な事を言うと思っていたのだが、まあ、村長の弟で医者なら部屋はあるかと考えた。加えて、予断の許さない状況で移動が困難となった場合、常に目が届く所に置いておく。これも妥当であった。

「本当ですか!」

 ジンが答えるよりも早くサラが食い付いた。どことなく喜んでいる様に見えた。

「お前、何喜んでいるんだ?」

 さすがに分からずジンは尋ねた。

「村の中を見て回れる事が!楽しみです!」

「人拐いに騙されて閉じ込められたばかりだぞ!しばらくここにいろ!」

 理由はそれかと知ったジンは大人しくするようにと睨み付けた。

 ジンの言葉にサラは少し首を傾げたると口を尖らせていた。

 ジンから人拐いがどの様なものか助け出された後に聞いたが悪い事であるとしかいまいち分かっていない。人拐いが捕まったのならもう安全だからいいはずなのにジンに止められて腑に落ちないでいた。

 その時、部屋のドアが思いっきり開いた。

「お父さん!見つかったって本当?…あ、お客さん?」

 扉を開けて部屋に入って来たのはサラより少し年下に見える少女であった。

 少女は部屋の中に父であるフロンスだけでなくジンとサラがいる事に気付いた。

「本当だよ。ここにいるジンさんが見つけて助け出したのさ」

 フロンスは娘にジンを紹介した。フロンスの方がジンよりも年上なのだが、敬意を込めてさん付けしている。

「よかった…あ、私はマリアです。皆を助けてくれてありがとうございます」

 マリアは胸を撫で下ろすとジンに向かって感謝を言った。

 ここまで感謝されるとは思っていなかったジンは意外にもこの村の結び付きは強く、対応は不十分ながらも大切に思いやる気持ちが強いのだと考えた。

「それから、えっと…」

 フロンスはサラも紹介しようとしたが、名前を聞いていなかった為に言葉が詰まった。

「サラです。初めまして」

 それを読み取ってか、サラは自分から挨拶をした。

「サラさんですか。変わった服を着ているんですね」

「私からしてみれば皆さんの方が変わっていますが」

「そうなのですか?」

 と、前触れもなしにガールズトークが始まった。

 ジンは溜め息を1つ着くとフロンスに向き直った。

「宿泊の件、感謝する」

 と、フロンスに頭を下げた。一応は礼儀を尽くした。


「サラさんとジンさんは何処から来たんですか?やっぱり川の方から来たんですか?」

 サラとマリアのガールズトークは次の話題に移っていた。

「川があるのですか?」

 と、まさかのマリアが求めていた答えとは違う検討違いの言葉が飛び出た。

 サラの目は何処か輝いていた。

「ずっと気になっていたんです。水が貯まっている場所には確かに土はあります。けれど、それだけで家を建てる事は出来ませんよね?となると、何処からか持ってくる必要があるって事ですよね?」

 サラは早口で言った。

 人が住む場所には僅な土と植物が存在している。それは、人が生きる上で必要な水がある事を示しているからだ。

 サラはまだ世界の殆どが砂漠である事を知らないが、いくら砂漠でも砂以外にも土の土地が存在する。そこには確かに植物が根を張っている。川は様々な物を運んで来る。土もその内の1つで利用している。

「は、はい。ここから少し離れた場所に川があって、そこから持って来ているんです」

 マリアは少し引いていたが、サラにしてみればそんな事は気にしてはおらず、むしろ、納得いく答えが得られてた。

「見に行きたいです!」

「おい!」

 サラの言葉に今さっきフロンスに礼を言ったジンが突っ込んだ。

 今さっき出るなと言ったばかりだ。

「今から行けば戻って来るのが夜になりますよ」

 マリアは困った表情を浮かべた。

「なら、畑はどうだ?」

 ここでマリアに助け船を出したのはフロンスだった。

 ジンは驚いた表情をフロンスに向けた。フロンスの前でサラに出るなと言ったのにフロンスは外に出る事を進めた。

 ジンの表情を読み取ったフロンスがそれも踏まえて言った。

「大丈夫。小さい畑だがここから近いしすぐに帰ってこれる」

 フロンスの言葉にサラの目が輝いた。ものすごく気になったのだ。

「行きます!案内して下さい!」

「待て!」

 即決だった。サラはジンの静止に耳を傾けずにそのままマリアの手を引いて部屋から出て行ってしまった。

「たく…」

 残されたジンは溜め息を着くと急いで後を追った。

 この後、役所に戻り本部と連絡し直そうと考えていたのに後回しになった。

 別にサラをフロンスの娘であるマリアに任せて別行動を取っても問題はないかもしれないし人拐いの様な輩もいないだろう。が、どうも今は自分の目の届く範囲にいてほしい。と言うか、余計な事を言わないか心配という感情がジンをサラと行動するように動かしていた。

 3人が部屋から出るとフロンスは僅かばかり微笑んでいた。

「若いっていいものだな」


  ◆


 ジンとサラはマリアの案内で作物が育っている畑を訪れていた。

 本当に村から近く、小さい。

「ここは水溜場から水を汲み上げて育てているんです」

 マリアは畑で育てている作物の種類を言った。

「今は豆類と少しの野菜。麦はもう少しで収穫なんです」

 マリアの話を聞いたサラはしゃがむと土に手を当てて感触を確めた。確かに土だが少し砂が混じっていた。

「ここはマリアさんの家族の畑なのですか?」

「村協同の畑ですよ。他にも畑はありますが、こんな場所だから少しでも協力して生活しているんです」

 質問に答えたマリアの言葉にサラは驚いた表情を浮かべたが何故か真剣な表情を浮かべた。何処となく異跡でドローンについて語った表情に似ていた。

「もしかして、川の近くにも畑が?」

「はい」

「水を汲み上げているって事は、時々塩が発生していませんか?」

「はい。本当に時々。けれど、今は分量が決められていてあまりありませんが」

 それを聞いたサラは何かを考え込んでしまった。

 ジンはサラが何故この様な事を聞いて考え込んだのか分からないでいた。

 マリアも同じであった。この農法はどこでもやっている方法で、珍しい農法でもないからだ。

 そして、サラの口が開いた。

「この農法って、灌漑農法ですよね?」

「灌漑?」

 サラの口から出た言葉にマリアは首を傾げた。

「マリアさん達が行っている農法の事です。水を撒く事で農業をする方法ですが、撒く量を間違えると塩害が発生して作物が育たなくなるんです」

「そうなのですか?」

 サラの説明にマリアは驚いた表情を浮かべた。

 ジンも同じであった。サラが灌漑農法と言った農法はこれと言って呼び名がなかった。当たり前過ぎる農法で見過ごしていた。名前があるだけで不思議と新鮮な気持ちにさせる。

「塩害が発生した場所はどうしているのですか?」

「別の野菜を植えています」

「え?」

 マリアの答えはサラを驚かせた。

「サラさんは植物が育たないって言いましたが、何種類か育つ野菜があって、それを育てているんです」

 マリアの言葉にサラはサラに驚いた表情を浮かべていた。

 ジンとしてみれば、やはり、現代と過去では環境が違うのかと考えていた。

「もしかして、それを育てると塩がなくなっているのですか?」

「はい」

 サラの言葉に頷いたマリアは思い付いた様に両手を叩いた。

「そうだ!今日の夕食に出しましょうか?」

 そうして、そろそろ夕食だからと3人はフロンスの家へと戻った。


  ◆


 フロンスの家の夕食はいつもより豪華だとマリアが言った。

「お客さんがいるからね」

 そう言ったのはフロンスの妻でマリアの母であるアリステラであった。

 ジンとサラという客人を交えて食卓に着くと、アリステラは夕食を小皿に取り分け、2人の前に置いた。

「どうぞ、召し上がって下さい」

 アリステラの言葉に2人は軽く会釈した。

 夕食のメニューはパンに干し肉を炙ったものと数種類の香辛料で煮込んだ豆の煮物に野菜サラダであった。

 サラは少しだけメニューを見つめていた。

「どうかしましたか?」

「い、いえ、何も…」

 アリステラに問われ、サラは首を振るとジンを見た。ジンは何事もないように食べている。ジンだけではなくフロンスもマリアも食べていた。

 見た事のないメニューに少しだけ食する事に不安を感じていたサラは恐る恐るフォークを手に持った。

 食事と言えば、砂漠を歩いていた時、ジンが持っていた携帯食を僅かに食べた時があった。硬く焼き固められており、味はあまりしなかった事を記憶している。

「サラさん、そのサラダ食べてみて。それが塩の土地で育てた野菜を使っているんです」

 その時、マリアがサラダに指差して言った。

 数種類の野菜が使われているそのサラダは綺麗に盛り付けられ、彩り豊かであった。

 サラダにフォークを刺し野菜をすくうと、口に入れた。そして、その味覚に驚いた。

「しょっぱい…!」

 口に入れた瞬間、ほんの僅かに塩を食べたようなしょっぱさが口を刺激した。

「アイスプラントって言うんです。塩の土地に植えるとしょっぱくなるけど塩の大地が元の大地に戻るんです」

 マリアの言葉にサラは成る程と首を縦に振った。

「けど、サラさんってやっぱり不思議。常識ですよこれ」

 笑みを浮かべて言うマリアの言葉にサラは口に食べ物を入れたまま首を傾げた。

 食事の間、ジンは投げ掛けられた質問に口数少なく答えただけで終始無言であった。


  * * *


 夕食後、ジンとサラは貸し与えられた部屋にいた。

 部屋に入るなりジンはベッドに横になった。

(くっそぉ…限界だ…)

 ジンの疲労は頂点に達していた。

 今まで顔に出さない様にしてきたか、かなり無理して行動をしていたのだ。

 疲労を溜め込んで行動していたのは過去に何度かあったが、同じ位に疲れていた。

「夕食、美味しかったですねジンさん」

 サラはもう1つのベッドに座ると笑みを浮かべて言った。色々な味覚や食感が楽しめたからだろう。サラにしてみれば刺激的であった。が、ジンは何も言わなかった。

 僅かに沈黙が流れると、ジンが口を開いた。

「明日、役所に行って連絡をし直す」

「どうしてですか?」

「お前がいなくなったから途中で切ったんだ!」

 そう言うと目の上に腕を覆う様に乗せた。

「…すみません」

 サラはジンに謝罪した。

 ジンが連絡を取らないといけないと言ったのにそれが自分がいなくなった事でそれを放棄して探す事になり、サラは申し訳ない様に思えた。

 が、ジンからの返答がなかった。

「ジンさん?」

 不審に思ったサラはジンが横になっているベッドに近づくとジンの様子を見た。

 小さいが寝息を立てていた。

 疲労が貯まったジンがとうとう眠ったのである。

「眠ってしまったのですか…」

 サラは少し笑みを浮かべた。寝顔は腕があってよって分からなのが残念であった。

 サラは自分のベッドに戻ると横になり目を閉じた。程なくしてサラも寝息を立てて眠りに着いた。


 そして翌朝。目が覚めたジンが見たものは、自分の横で眠っていたサラの寝顔であった。

 どうやってサラが移動したのか分からなが、同じベッドで眠っていた事を知ったジンは内心で悲鳴を上げ、すぐさまサラを起こさない様に抱え上げるとサラのベッドに移動させた。

 これはジンにしか知らないエピソードである。


  ◆


 フロンスの家で朝食を食べたジンとサラは役所へと足を運び、予定通りに連絡を入れた。

『何昨日は勝手に連絡切ってんのよ!!』

 受話器から漏れんばかりの声にジンは耳から外した。そして、予想通りの言葉が飛び出た。

『しかも、今日連絡入れるってどうゆう事よ?遅すぎるわよ!心配したのよ!!』

 予想した通りの言葉に予想通りの展開であった。

「それは謝るからおばさん…」

 ジンは謝罪を述べた。が、

『おばさんじゃなく副長っていいなさい!』

 何処かで聞いた展開である。

『それはそうと、あんたの近くにまだその古代人はいるの?』

「ああ」

 ジンは当たり前の質問だと思った。

『そろそろ迎えが着く頃だと思うから古代人と一緒に帰って来て』

「は?」

 だが、次の言葉の意味は分からなかった。

 迎えが着く。そんなはずはない。

 迎えが着くなら早くてもあと1日必要である。一番近い調査部はジンが異跡調査をしていた時に後方支援サポーターとして活動していた調査部しか考えられない。後方支援はジンとは反対方向の村へと逃げたはず。連絡が入り急いで出ても2日はかかる。いくら何でも早すぎる。それに、帰って来てとはいったいどうゆう意味か分からない。

 そう考えるジンの耳に不自然な音が聞こえた。徐々に大きくなるエンジン音。車のエンジンではない。

「これは?」

 ついで、窓ガラスが空気の振動で揺れる。

「ジンさん!?」

 サラはジンに救いを求める様な目を浮かべた。今度はちゃんと役所に留まっていた。

「そうゆう事か!」

 迎えが着くと言う言葉を理解したジンは受話器に向かって一声かけると受話器を置き外を見た。


 村の外では空から何かが下降し、砂煙を上げて着地した。

 村から僅かに距離があるとはいえ、舞い上がった砂煙は村の砂やホコリも巻き込んで舞い上がっていた。

「おいおい…」

 役所の中からそれを見たジンは驚いた表情を浮かべていた。

「普通こんなもの飛ばして来るか?」

 ジンの呟いた言葉を聞いたサラはどうゆう意味か分からず首を傾げた。

 砂煙が収まると着地したそれが姿を現した。

 横に長い胴体に翼とフロートが存在する。そして、翼にはそれぞれ2つのエンジンが搭載されていた。それらは紛れもなく、水陸両用高速飛行機であった。

なんだが途中、話の流れが変わったのは気のせいかな( ・◇・)?


ジンは年下の少女に免疫がないのか?はたまたピュアなのか(ー_ー;)???


砂漠の村の設定、相当苦労しました。

詳しい事は気紛れ解説に書けたら書くとして、早い話が、砂じゃ植物は育たない事が分かりました。調べてよかった…(; ̄▽ ̄A

そういや、サボテンの事も書かないとな…


灌漑農法はサラが説明した通りです。メソポタミア文明で広く行われていた農法で、メソポタミア文明はこの農法を使って大きく繁栄したり衰退したりしていました。


灌漑農法で起こる塩害は水の量を間違えると塩類集積で塩が地表に出やすくなるんです。

この解消方法は点滴灌漑で流したりするのですが、作中ではアイスプラントと言う野菜を育てる事で解消させました。一石二鳥ですね(笑)

アイスプラントは現実でもあるので探してみて下さい(^_^)/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ