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脱出

 最下層から大きな爆発音と共に周りが大きく揺れる。

 最下層にはエネルギーである電気を作る機械があり、炎上したエレベーターが落下した事で電気火災が発生した。

 電気火災は埃が湿気を帯びたり、機材が水に濡れる、配線の絡み合いなどの漏電によるトラッキング現象から起こる。

 今回の場合は落下したエレベーターが電気を作る機械を破損。その時に絶縁体も破壊。いまだに電気を作っていた機械は破壊されても止まる事なく電気を流し続けて漏電。その結果、露出した絶縁体と炎が接触し引火。導線や高熱に弱い危険物もあった為、大爆発を起こした。

 火災で最も怖いのは周りに燃え広がる事である。燃え広がればそれだけで被害は大きくなるだけでなく、避難路も確保出来なくなる恐れがあるからだ。

 火を消す消火方法は4つある。

 1つは、建物などの可燃物を取り除いて燃焼を止める除去消火法。

 2つは、土や砂をかけたり爆発を起こして酸素の供給を止めて消す窒息消火法。

 3つは、水をかけ温度を下げる冷却消火法。

 4つは、可燃物を不活性させ、燃焼の連鎖反応を抑える負触媒消火法。

 異跡は災害の事も考えられ内部は頑丈に作られていた。

 地震では揺れを抑える構造が取り入れられ、内部で火災が起きた場合は燃え広がらない様に燃えにくい素材が使われ、火災源となった一室だけに留められる様になっていた。

 しかし、今回は少し違う。

 火災源はエレベーター。それも、最上階から最下層へ落下。本来、エレベーターは地震などの揺れでは緊急停止するが、エレベーターを上げ下げしている統括機器は本体上部、上げ下げをコントロールする強力な磁気を発生させる機器が上部と下部に付けられている。万が一としてどちらかの磁気に異常がきたし落下するのを防ぐ為に緊急装置が上部、下部に2つ備わっていた。

 だが、ドローンの光線で上部の統括機器と磁気発生機器が破損。そして、統括機器が壊れた事で磁気を発生させる機器に維持の指令がいかなくなっていた。辛うじて緊急装置が作動してエレベーターの落下を抑えてしたのだが、上部の爆発の衝撃に耐えきれず緊急装置が破損。唯一残った下部は重さに耐えきれず緊急装置が壊れそのまま落下。

 落下先のエネルギー製造室はもし内部で火災が起こった場合を考えて燃えにくく丈夫な構造となっていたのだが、それは内側であり外側は脆い。

 つまり、落下したエレベーターの重さと衝撃に天井が耐えきれずに貫通。そのまま機械を壊して炎上。

 しかも、異跡が機能していないばかりか、異跡探求者が無理矢理開けた入り口と元から設置されていた通気孔、今さっき落ちて空いた穴から常に新しい空気が流れ込む為に更に炎上。爆発を起こし、最下層は火の海。更に上へと燃え広がっていた。


 そんな幾重にも重なった不運を知らないジンは少女を守りながら目前に現れたドローンを撃退しながら移動していた。

 そして、今、撃ち落としたドローンを見ながら新しい弾倉に装填していた。

 少女はその様子をライトの明かりを照して不思議そうに見ていた。ジンが暗い異跡内部で転んだりしたら困ると言って渡した物だ。

(ボールの耐久度はかなりあるはずなのですが…銃口ですか。盲点でした)

 ジンが銃口目掛けて鉄の弾丸で撃っているのを見て尋ねた。これではいくら外装が固くても壊せるわけである。

「レーザー・ガンは使わないのですか?」

「レーザー?」

 少女の言葉にジンはペンライトを投げ、進行方向を確かめながら聞いた事のない言葉を呟いた。

「その銃ってものすごく古いですよね?いつの物ですか?」

 少女からしてみれば鉄の弾丸はものすごく古いらしい。もちろん、それを使う銃もである。

 少女は何故レーザー・ガンではないのかと考えていた。

 ジンは少女の言葉に文明の差とかなりのロスタイムが存在する事を思いながら再び走り出した。

 走りながらジンは少女とは違う事を考えていた。それは、少女の身体能力の高さである。

 探求者は身体能力の高い者の集まりで平均値も非常に高い。走る速さもものすごく速いのだが、その速さに少女が付いてきているのだ。

 長距離をかなりの速さで走る事もある。それなのに息切れ1つしていない。一般人はまず追い付けないし、全力を出しても追い付けるかどうかも厳しい。

 ジンは少女の為に走る速さを遅くしているわけでもないし、元から遅いわけでもない。少女がジンの速さに付いてきているのだ。これは異常である。

(古代人は一体何者なんだ?)

 身体能力も現代を生きる者達とは違うのかと考えるジン。

 その時、再び爆発音が響き、揺れた。

「きゃ!」

 ふらつく少女の腕を掴み転ばない様に支えたジンの表情は苦しいものであった。

「本当にこっちでいいんだろうな?」

 徐々に不安になってきていた。

 初めから少女は分からないと言っていたのだから早くから不安はあったのだが、爆発という状況が更に追い討ちをかけたいた。

「必ず扉はあります。それに、プレートも下げられているはずですのですぐに見つかります」

 聞きたいのはそこではないのだがと思いながら突っ込むのを止めた。

 メインコントロールルームを見つけなければ何も出来ない。それを聞いて勘でもいいと言って案内を頼んだのだ。文句を言えるはずがない。

 それに、少女の命もかかっている。異跡でドローンにではなく爆発に巻き込まれて死んだとなれば話にならないし洒落にもならない。

 だが、

「回っているって事はないだろうな…?」

「それはありません」

 同じような場所を何度も通りすぎて疑問に思ったが、はっきりと否定された。

「座標が書かれたプレートがかけられています。今のところ迷っていません」

 少女が指差す方を見ると確かにプレートには数字に似た字が刻まれてかけられていた。番地の様な物なのだろう。古代人はこれで場所を特定していたのだろう。それを聞いて、見た事で一応安心はした。だが、やはり状況は厳しい。

 ジンは爆発を防ぐ為に強行軍をしていた。

 少女が示す先に現れたドローンを単体だろうが複数体だろうが全て自身ジンの可能な範囲以内で撃退していた。探求者としては自滅を歩む道であるが、メインコントロールルームに着けばドローンと戦わなくてすむ。それが理由の1つだ。だが、代償は大きい。少し前に弾丸を弾倉に補充したが、その弾倉が残り4つになっていた。戦闘出来る回数も少ない。

「急ぐぞ!」

 そう言って再び走り出した。

 ジンは何度か後を振り返ると少女がいるか、ドローンがいないかを確めた。後方から撃たれて倒れていたらこの先どのように移動すればいいのか分からない。

 そうして、また新たな通路に来ると進行方向の安全を確認した。

「あ!」

 その時、少女が小さな声を出した。

 進行方向とは違う方向、正面から小型のドローンが向かって来ていた。

「くそ!」

 ジンは吐き捨てると銃を構え、引き金を引いた。

 が、同時に左側から光線がジンの握っている銃の銃身を貫き、破損させただけでなく、ちょうど銃身を通っていた弾丸にも触れて小さな爆発が起こった。

「ぐあっ!!」

 握っていた銃から衝撃が伝わったと思った時には爆発し、火花が飛び散った。驚いて手を離したが握っていた左手に爆発の衝撃と火花がかかった。

 それを見た少女は怖くて声が出なかった。爆発に巻き込まれるという感覚は想像するしか出来ない。それが小さいながらも目の前のジンで起こったのだ。

 そのジンは一瞬驚きながらもすぐに目前のドローンを捉えると、右手で連写型の銃を握り、もう1体のドローンに貫かれない様に距離を置くと3発撃った。そして、落ちるのも見ずに通路に出ると、ドローンの大きさと形を一瞬で見て取り、3発撃った。

 2ヶ所でドローンが落ちる音が響いた。

 ジンは今も散った火花の一部が燃えている手袋を脱ぎ捨てた。

 至近距離からの爆発の衝撃と手袋が燃えたまま戦っていた為に左手は震え、火傷を負い赤く腫れ上がりヒリヒリして痛い。が、幸な事に火傷は軽かった。

 探求者の服は丈夫だが燃えにくさまでは考えられていない。本当に偶然なのだが、少なくとも手袋は丈夫で動かしやすく、燃えにくい素材で出来ていた。だから、軽い火傷で済んだ。上着の左裾も僅かに降りかかった火花で燃えていた。その部分は狭く、ジンが素早く動いた事ですぐに消え、手袋を履いていた手とは違い火傷は負わなかったが、燃えていた部分は燃え尽くされていた。

「…」

 少女はこの戦闘に声が出なかった。

 何度も見たはずなのにジンがどこか遠い人に感じられた。自身の身を顧みないその姿はどこか人を近寄らせてはくれない。何故だか、1人で戦う姿に悲しくなる。

「くそ…」

 ジンは空になった弾倉を変えながらドローンに撃ち抜かれた銃を見て悔しそうに呟いた。

 銃身の先が殆どない。握っていた場所にあった弾倉も外側ではなく内側から壊れた感じであった。爆発の熱が弾倉に入っていた僅かな火薬にも引火してこの様な壊し方をしたのだ。

 弾のある残り少ない弾倉を失ってしまった。

「おい、あとどれくらいだ?」

 ジンは背を向けたまま、苦しい表情を見せずに尋ねた。メインコントロールルームまで着けない可能性もあったからだ。

「も、もうすぐだと思います…」

 少女は慌てて言うが、ジンが苦しそうにしているのをどことなく感じていた。

 その時、また爆発音と揺れが響いた。

「きゃ!」

 揺れに少女は体制を崩して尻餅をついた。

 ジンは何とか体制を維持すると、爆発音と揺れに歯を噛み締めた。さっきよりも音が大きく、揺れも大きい。

 立ち上がる少女にジンは目線だけを向けて言った。

「…走るぞ」

「え?」

「走ると言ったんだ!爆発に巻き込まれる前に着くぞ!」

 そう言ってさっきまでよりも速く走り出した。

 かなり追い詰められていた。爆発音が大きく、揺れも大きいと言う事は、かなり近い所で起こっていた事を言っている。

 あれから時間がどのくらい経ったのか分からないが、異跡はかなり高い建造物である。最下層はどのくらい深いか分からないがある程度、予想でしかないが浅くはないはず。そう考えるなら経過時間は短くはないはず。

 だが、逆に言えば探索に時間をかけすぎていると言えるかもしれない。そろそろ見つけ出さなければならない。

 近くでまた爆発が起き揺れる度に少女を支えながら走る。

 走る途中で床が抜けている所を見つけ、そこから赤い光も見てとれた

(もうここまで…)

 意外に燃え広がるスピードが早い。至るところで爆発が起こり、その度にあちこち破壊し、炎上している。

 ジンは少女に尋ね、ルートを変えながらいつ床が抜けてもおかしくない状況に痛感していた。

 一方、少女はと言うと、

「もしかして…」

 青ざめた表情で呟いた。

「あれか?」

 その時、ジンが叫んだ。

 目前に扉。そして、何度か見たプレートが壁の少し高い位置にかけられていた。

 少女は考えていた事を頭の片隅に置き肯定しようとした。

 が、突然、進行方向の床が音を立てて抜け大きく抜け落ち、そこから炎が噴き上がる。

 ジンは急いで足を止めた。ほぼ全力で走っていたからすぐにとは言えなかったが、片足を前に出し、後ろに体重をかけて少し手前で止まった。

「きゃっ!」

 少女はジンにぶつかって止まった。反射神経に至っては探求者程ではないようである。

 ぶつけられたジンは何とかその場で踏み止まった。

 もう少しでメインコントロールルームと思われる所へ着くはずだったのに、抜けた床から炎が勢いよく燃えていた。とてもでないが渡れるはずがない。

「別のルートは?」

 ジンは顔をしかめ悔しくて叫びたかったが、目前の場所に行くのが優先と少女に尋ねた。

「それが…」

 少女は歯切れが悪そうに言った。

「もしかしたら、このコロニーはダミーかもしれません」

「は?」

 何を言っているのか分からない。

「いえ、正確には、初めから捨てるつもりで作っていたんです。だから構造が脆い。メインコントロールルームの役割は、監視とガーディアンの操作だけ。人なんて元からいなかったんです」

「何だよそれは!」

 何故その様な物があるのか。少女の言葉にジンは今まで調査されてきた16異跡の情報が根本から崩れるのを感じた。

 死者を出してやっと集まりつつあった異跡が捨てるつもりで作られたダミーであると。それでは、異跡内部の建造物は人が住んでいる様に見せかける為に作られた物。到底信じられるものではない。

 少女に八つ当たりに近く叫ぶが、すぐにもう1つの事実に気づく。

(待てよ!それじゃこいつは…)

 ジンはまじまじと少女を見た。

 打ち捨てられる異跡に少女がいたと言う事は、この少女は異跡と共に古代人に見捨てられた事になる。何故かは分からない。が、見捨てられたのだ。

「ふざけるな!!」

 ジンは怒鳴る様に叫んだ。

 怒りでおかしくなりそうだ。あまりにも身勝手過ぎる。被害者面するつもりはない。だが、古代人の勝手に振り回されるのはもううんざりであった。

 その叫びを少女はコロニーがダミーと言った自分に言われたものだと思いうつ向いた。


 大きく抜け落ちた床が更に落ちる音が響いた。

 2人は音に気付いて見ると、顔を見合わせた。

「とにかく、ここから出るぞ!」

 もうメインコントロールルームが無意味なら用はない。異跡から脱出する方が優先と走り出した。

 だが、逃げるにはすでに遅かった。

 下は火の海となり、最上階に届いている炎はごく僅か。下に降りる事は不可能であった。だから、火の回りが遅い場所へと走った。

 だが、火の回りが遅い場所へ逃げても異跡から出られなければ一酸化炭素中毒か炎で焼け死ぬ事になる。

「焼け死にか…」

 煙が充満しつつある中でジンは呟いた。今度こそここで命が尽きると思ったからだ。

 その時、目前からドローンが現れた。

「あれは!」

 ドローンを見た少女は足を止めると驚いた表情を浮かべた。

 4つの光線銃をもつドローンであった。少女もそのドローンの恐ろしさを知っていたからか足を止めてしまった。

 だが、

「止まるな!」

 ジンは叫ぶとドローンに向かって最後の遮蔽カンを投げた。

 ここで命が尽きると思ったジンではあるが、自分から尽き果てようとは思わなかった。最後まで生き抜く為に最後の切り札を使った。

 遮蔽カンから炎の煙とは違う白い煙が噴き上げる。

 ジンは少女の手を引くとその勢いのままお嬢様だっこをした。

「あ、あの!?」

 呆気にとられる少女をよそにジンは煙の中へと駆け出した。

 煙の中に入ると少女は目をつぶった。煙に目をつぶったのだが、ドローンからの攻撃も恐れてつぶった。

 ジンは煙の中でジャンプすると、遮蔽カンを投げる前にドローンがいた場所を覚えており、ちょうどそこに、ドローンの真上に着地すると、踏み倒す様に蹴り飛ばして前へと飛んだ。

 煙から抜け出すと後方からドローンが倒れた音が響いた。

 少女は音に恐る恐る目を開けた。

 どこも撃たれてはなく、煙がジンの背後にあった。

 ジンは少女が目を開けたのを見ると、静かに降ろし、再び走り出した。

 とにかく、出られる場所を探さなくてはならない。

 その時、別の通路からドローンの光線が少女の足を直撃した。

「きゃ!」

 少女は悲鳴と共に倒れた。

 ジンは急いで振り返ると腕を掴みそのまま引き上げ壁に隠れると、撃ってきたドローンに銃を向けた。煙により見えにくいが全部で2体。1体は小型ドローン、もう1体は4つの光線銃持ちドローン。

 ジンは小型ドローンに向けて引き金を数度引いた。弾丸は命中。ゆっくりと床に落ちる。もう1体のドローンは2人がいる通路に向かって光線が撃たれた。壁に隠れているから当たる事はないが、やはり手数が多く、光線が雨のようである。

「無事か?」

「は、はい」

 ジンはこの隙に少女の無事を確かめた。

 少女は少し驚いていた様子ではあったが、ちゃんと両足で立っていた。どこも怪我をした様子がなかった。

 さすがにジンは驚いた。撃たれたらまず立てない。それが常識なのだが、何事もない様に少女は立っている。

 目線を反らし撃たれた足を見ると、僅かに服が焦げているだけで怪我をした様子がなかった。

「くっ!」

 考え込んでいると、光線がもう少しでジンに当たる所であった。

 一瞬顔を歪めたがすぐに反撃した。が、すでに底を尽きようとしていた。2丁の拳銃に入っている弾丸がそれぞれ残り3発程になった所で一旦引き金を引くのを止めた。

 そして、ウエストポーチに手を入れると手榴弾を取り出した。

 手榴弾を見るたび、どうしてあるのかと考えてしまうが、それをドローンに向けて投げた。


 手榴弾は探求者が遮蔽カンを使いきった時に使う本当の切り札……とされているが、実際は探求者にとってはいらない装備品である。その切り札も考え方次第ではドローンと道連れを意味しており、自分の命を絶つものとされている。しかも、銃同様に効き目も薄い。更に、収納しているウエストポーチにドローンの光線が当たり爆発して死亡、もしくは巻き添えを食らい行動不能になると言う事もある。実際はありもしないし考えもしないそんな事があるのかと突っ込みたくなるが、過去に6件、このあり得ない事が起こっている。

 だから、一部変わり者を除けば殆どの探求者が手榴弾を不必要リストの上位に入れているのだが、後方支援サポーターは断固として聞き入れずウエストポーチに入れ続けている。


 そうゆう理由からジンも破壊を目的として投げたわけではない。

「耳をふさいで伏せろ!」

 ジンの言葉に少女は共にしゃがむと耳をふさいだ。

 投げた手榴弾はドローンの前に転がると爆発した。一応は対ドローン用として開発した物。威力も普通の手榴弾より上である。音も爆弾かと言いたいくらいに大きい。

 だが、それでもドローンは壊れる事はなく、へこんだだけでゆっくりと向かって来ていた。

「ジンさん…」

 少女はふさいでいた耳を離すと顔を青ざめた。全く効いていない。だがジンは、

「これでいいんだ!」

 自信ありげに言った。

 その時、ドローンがいた床が沈んだ。少女は一瞬、何が起きたのか分からなかったがすぐに理解した。2体のドローンはそのめま床と共に火の中へと落ちて行った。

 ジンはこれを狙っていたのだ。火の手が周り、床から煙が上がっていたのを目に捕らえると、そこが抜け落ちる可能性があるとして、ドローンを落とす事を考え実行。見事に成功させた。

 少女は安心して息を吐いた。

 だが、追い打ちをかける様に近くでバーンという大きな爆発が起こった。

「ぐっ…!」

「きゃぁぁ!!」

 その音に2人は耳をふさぎ爆風に悲鳴を上げた。

 だが、次に感じたのは熱い風ではなかった。空気が変わる様に吹き付ける生ぬるい風。

 ジンは爆発があった方を見て驚いた表情を浮かべた。

 向こうの壁に穴が空いていた。

 さっきの爆発で空いたのだろう。風と共に空の色と日の光が差していた。こんな偶然があるのだろうか。しかし、考える時間はない。

「行くしか…ないのか」

「え!?」

 ジンは少女の手を握ると驚いているのを気にせずに走り出した。

 もう、そこしか出口がないのだから。

 だが、そこへ向かう途中、2体の小型ドローンが現れた。

 2人は急いで通路の壁に隠れた。

「もう少しだと言うのに…」

 ドローンがこちらに向かって来るのを見たジンは悔しく言うと両手に銃を握った。残り3発ずつ。壁を背にして撃つと距離を詰められる可能性がある。そもそも、弾が豊富ならしていただろうが弾が少ない今は出来ない。

 ジンは腹を決めるとドローンがいる通路へと飛び出した。

 少女は驚いて何か言おうとするが声が出ない。

 ドローンを捉えたジンは引き金を引いた。確実に撃ち落とすにはこれしかなかった。

 同時に2体のドローンが光線を撃った。

 ジンが撃った弾丸は、2発共ドローンの銃口に命中した。が、ドローンの光線も1発はジンの頬を掠め、もう1発は左手に握り撃ち終わった銃身を貫き、破片が飛び散った。

「っ…!」

 ジンは頬と飛び散った破片のいくつかが手袋をしていない左手に刺さり顔をしかめた。

 だが、ドローンにはまだ不充分と見たジンは健全な右手に握る銃で残りの2発を撃った。それぞれに1発ずつ。弾丸は銃口に命中し、2体共床に落ちた。

 ジンは銃をしまうと刺さった破片を抜いた。抜く時も痛みがあり顔をしかめたが、ずっと刺さっているよりはましであった。傷口から血が流れる。

 ジンは傷付いた左手ではなく右手で少女の腕を引いて走り出した。そして、途中で抱き上げると更に早く、助走を付ける様に走り出した。

「歯食いしばれ!」

 そう言った直後、ジンは空いた穴から外へ飛び出した。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 飛び出した瞬間、少女は高い悲鳴を上げた。

 そして、重力に引かれて落ちる。

 少女は怖さのあまり、ジンの首に腕を巻くと目を閉じた。

 一瞬だけ首に苦しさを感じたが、ジンも落下の勢いに歯を噛み締めていた。知らないうちに少女は悲鳴を上げるのを止めていた。

 ドンという音が響いた。異跡側面に着地した音である。が、すぐさま湾曲になっている側面を滑るように落ちて行った。

 ジンは落下の速度を弱めようと、体制を崩さないようバランスをとるのに必死であった。飛び抜けた身体能力がなければまず不可能であるし、なめらかな湾曲でなければ今頃は垂直に落ちていた。

 滑る靴の底がすり減り熱くなるのを感じる。

 殆ど勢いで出てきてしまった。

 それでも異跡最上階で焼け死ぬよりはましであると思っている。

 だが、今の状況ではまだ安心とも言えない。これで何事もなく地上に着いて生きていたら本当の奇跡である。

 そう考えた時、爆発がジンの背後で起こった。

「うわぁぁぁぁぁ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」

 2人は爆発の勢いに押された異跡の外装と共に宙に突き飛ばされ、悲鳴が響いた。

 遠くに見えていた地面が目前に迫った。

 2人は柔らかい地面に叩き付けられる様に不時着し、意識が遠のくのを感じた。

 

  * * *


 熱い風に髪が頬を撫でるのを感じた少女はゆっくりと目を開けた。

 不時着により体は痛いはずなのにあまり痛くない。

 体を起こし、地面の感触に違和感を感じて下を見た。

 地面は砂。手にすくい掌で遊んでみる。

 そして顔を上げ、目前に広がる景色に言葉を失った。

 一面の砂、砂漠であった。

 遮る物は何もない。どこまでも続く砂漠が強い日差しに照らされて地平線まで続いていた。


「っ…」

 ジンは呻き声を上げて目を覚ました。

(生きて…いるのか…?)

 痛む体を堪えて仰向けになると空を眺めた。

 いくら地面が砂だからと言え、記憶している第16異跡の高さを考えるとそこから飛び降りて生きている事が信じられないでいた。まして、爆発の影響も受けているはずなのに生きているとはどうゆう事なのか。

 何度も命が尽きるのを感じたし悟ったりもした。つくづく悪運が強いと考えるジンである。

 熱い風を感じると体を起こした。

 そして、目に映った物に顔を歪ませた。

 その先には激しく燃える異跡が音を立て少しずつ崩れ落ちていた。

 第16異跡は高さ約300m、幅約800m程のドーム型の建造物が今では面影がないほど燃えていた。

(剥奪だな)

 そう考えると深く溜め息を付くと次の行動を考えた。

(後方支援は避難したと考えていいだろうな。そうなると、本部に連絡を取るのが優先か。ここから近いのは…)

 そう考えるとジンは少女はどうなったのかと周りを見回した。

 高い所から落ちたとはいえ、自分がこうやって生きているのだ。なら、少女も生きているはず。いや、生きていてほしい。

 振り返るとそこに少女がいた。

 少女は食い入る様に一面に広がる砂漠に驚いているようだった。

 ジンは声をかけようとしたが思い止まった。

(そう言えば、名前聞いてなかったな…)

 始めに名前を尋ねたはずなのだが、少女は答えていなかった。ついでに、自分から名乗ろうともしていたのに逃げるのが優先と後にしていた。

 ジンは再び溜め息を付いた。

「あ~…」

 ジンは言いずらそうに、けれど、明かに少女が気づく様に声を出した。

 ジンの声に予想通り気づいた少女は不思議そうに振り返った。

 ジンは声を振り絞った。

「名前…聞いていなかったな」

 今さら聞くのも恥ずかしい。だが、覚えておかなければこれから先困るかもしれない。

「お前の名は?」

 ジンの言葉に少女は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑顔を浮かべて名乗った。

「サラです。よろしくお願いします」

ようやくヒロインの名前出せました(; ̄ー ̄A

ここまで引っ張って申し訳ないですm(__)m


電気火災には色々突っ込みがあるでしょう。

おかしいと思うところがあったらご感想を。



江戸時代、火を消す火消しは江戸では勇敢な人の職として憧れられていました。

消火方法は建物を壊す除去消火法です。まあ、水は貴重でしたからね。

ちなみに、中国にある世界遺産「紫禁城」には火を消す為に水を貯める巨大な瓶がいくつもあるのですが、紫禁城の大きさに対して瓶の数があっていないんです。つまり、水が圧倒的に足りない。大火事になっていたら絶対に消せませんよ。

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