探求者
テント内部は幾つかの部屋が存在している。部屋の壁に当たる部分はテントと同じ白い布が上から垂れており杭で固定されていた。唯一、出入り口に当たる幕は同じ様に垂れていたが少し長さが短いため固定されてはいない。
その内の一室で探求者2人は担当者の女性とミーティングをしていた。
「今回調査していただくのは、この第16異跡になります」
第16異跡の担当者は手に資料を持ちホワイトボードを使いながら説明をしていた。ホワイトボードにはこれまで調査した第16異跡の結果をまとめたものが張られ補足が書かれていた。
「過去何度かの調査でこの異跡は…」
「ああ、資料読んだからそこら辺の説明はいい」
担当者の説明を20代後半の探求者ケルトが片手を上げて言った。
「要は、更に調べる必要があるって事だろ?」
「そのとおりです」
ケルトの言葉に担当者は頷づき説明を続けた。
「今回調べて頂きたい場所は、居住区の広さと未だ未曾有である奥地までの進路の確保です」
担当者は資料に書かれている今回の目的を述べた。
「これは資料にも書かれている通り分類としては居住区である可能性があります。この居住区が異跡内部でどこまで広がっており、当時どのくらい住んでいたのか予想を立てる必要があります。同時にこれから調査する上で奥地までの進路確保もしてもらいたいのです」
そして最後に、
「危険は承知していますが、よろしくお願いします」
「危険は承知か…」
資料を見てあらかた目的は知っていたが担当者から改めて言われた言葉にケルトは虚しくなり呟いた。
「…一つ聞きたい」
その時、ここに来て初めてジンが声を出した。意外にも澄んだその声に担当者は驚いた。
「この見取り図とドローンは、本当に正確か?」
「と、いいますと?」
ジンの疑問の言葉に担当者が首を捻った。
「第16異跡は確かに居住区の可能性がある。だが、調査に携わった探求者の数が通常よりも多い。そして、途中から内部の形が変わっている」
「ああ、それには俺も気づいていたぜ。本当は違うんじゃないかってな」
ジンが言いたい事を理解したケルトが間に入った。
資料には現在判明している異跡内部も書かれていた。
形は円形。居住区に当たる空間は広く開けており、形に添うように円形であった。
ジンが指摘したのは更にその先、中心部に行くにしたがい複雑化している空間である。調査不足で資料に書かれていない部分も多いが、探求者の調査では共通して巨大な搭が建てられている事が判明している。
途中から変わる空間と巨大な搭。確かに、異跡を管理する者と異跡内部を調査する者では感じる違和感は違うものである。その違和感が何かは分からないが、少なくともこの部屋にいるジンとケルトでなければ捉えられない違和感であった。
「だがま、それは前に入った奴が弱かったって事だろ?俺達はプロだ」
ケルトはさも当然の様に言った。
その言葉を聞いたジンは目をつぶりながら顔を歪めた。
「彼らも、俺達と同じプロのはずだ」
ジンの言葉に場の空気が凍え付いた。
「念の為に遮蔽カンを多く用意して欲しい」
「あ、はい」
不意をつかれたジンの言葉に担当者は慌てて応えた。
「他には?」
担当者は探求者である2人に質問がないかを尋ねた。短い沈黙の後、担当者はない事を理解した。
「それではミーティングを終了します。準備が出来次第、異跡入口に待機をお願いします」
担当者の終わりの言葉を聞くやいなや、ジンはすぐに部屋を出た。
「異跡探求者」それは、100年前に突如として発見された超古代技術を保有する建造物を調査する機関である。
発見された建造物は「異跡」と呼ばれる様になり、複数存在している事が後に判明する。
外見からして作りや材質は違うが文化は恐らく似てたのではと考えられているが賛否両論。
現代の技術に比べ、何百年後も先の先端技術があると考えられ期待に膨れ上がった。しかし、期待とは裏腹に内部は強固なロボット、「ドローン」によって守られていた。
当時、最初に入った調査隊は全滅したとされている。
ドローンの存在は異跡発見から数年後、異跡から生還した者から知らされた衝撃的事実であった。更に、現代の技術では外から内部を探るのは不可能であった。
そこで作られた機関が異跡を探求する者、異跡探求者であった。
異跡探求者は探求者と呼ばれる者達が内部を調査、同時に先端技術になりそうな物を持ち出す事を仕事としているが、常に死と隣合わせの異跡内部であるため、探求者、及び異跡探求者は中々成果を上げてはいなかった。
別室でジンは着替えていた。
異跡探求者のマークが入った赤いジャケットを羽織り、ズボンをはき、手には黒い手袋をはいていた。
危険と言う言葉では足りない程の現場から身に付けた全てが丈夫に出来ており、通気性がよく、見た目に反して動きやすい素材で出来ていた。
しかし、これだけでは十分とは言い難い。鋭利な刃物や瓦礫などの破片では中々破れにくいが、異跡内部を巡回するドローンの恐ろしい武器を考えれば探求者の服装なんか意味をなさない。
反面、防御は不十分だが動きやすさだけは合格点であった。
異跡内部ではドローンと激しい戦闘も行われる。防げないのなら速さで補うしかなかった。だから動きやすさが求めらた。
ジンは手袋をはいた手を握ったり開いたりする動作を繰り返した。
「邪魔するぜ」
ちょうどその時、ケルトが入口の幕を開けて入って来た。
しかし、ジンはケルトに見向きもせず手を動かす動作を続けていた。
「無視かよ…」
反応がないジンにケルトはぼやくとそのまま出ようと幕を上げた。
「何の用だ?」
その時、ジンの素っ気ない声にケルトの動きが止まった。
「ただ様子を見に来ただけだ」
ケルトは振り返りながら言った。
「それと、1つ忠告だ。お前もプロならあの中がどんな場所か知っているはずだ?お前の発言は不適切だ!」
ケルトは嫌なものを見る様な顔でジンに言った。
ケルトは探求者としてのプロ意識が高かった。だからミーティング時にジンが異跡で死した探求者に対しての台詞が気に入らなかった。
だが、当のジンはその言葉に言い返すどころかそれに対する反応も示さなかった。
(気に食わねぇ奴だ)
ケルトは心の中で呟くと幕を上げて部屋から出て行った。
一方のジンは表情には出さなかったがケルトの言葉には堪えていた。
探求者には様々な者がおりプロ意識が高い者も存在している事をジンは知っている。言い返すだけ時間の無駄だと取り合わなかったのだ。まして、自分は間違った事を言ったつもりはない。
腰と腕、太ももにホルスターを装備して準備を整えた。
ジンは引き締めた顔を上げた。
そこには年相応の青年の顔はない。あるのは死地へ赴く1人の探求者でしかなかった。
ジンは幕を開け異跡の入口へと向かった。
異跡入口付近には沢山の人達が慌ただしく動いていた。
調査部、医療部、通信部。他にもいるがそれらも含め彼らは後方支援と呼ばれている。
中に入って調査するのがジンの様な探求者と呼ばれる者なら、外で探求者を出来る限りサポートをするのが彼らである。
もっとも、現在のサポートは準備と探求者が帰還した時の対処だけである。
「ジンさん」
後方支援の調査部の1人がジンに声をかけた。
ジンはゆっくりと歩いて近づいた。
「準備と遮蔽カンは全て整えています」
調査部の言葉にジンはテーブルに置かれているアタッシュケースとウエストポーチ、ベルトポーチに目を向けると、アタッシュケースに手をかけ蓋を開けた。
中には7丁の拳銃と4種類の弾倉が3つずつ。そして、3つの使い古された銃身が丁寧に揃えられていた。
探求者が異跡内部を調査する為に使う銃は個人で違いオーダーメイドも少なくない。ちなみにジンの拳銃はオーダーメイドである。
それらの銃は探求者が異跡を訪れる前に紛失や盗難、更には誤射を防ぐために後方支援が責任を持って異跡まで持って行く事となっている。
ジンは慣れた手つきで銃にあらかじめ入っている弾倉を1つずつ取り出すと弾丸が入っているかを確かめ、きちんと定数入っている事を確認するとそれを元に戻し銃を特定のホルスターにしまった。次いで銃身と弾倉は服に備え付けられた装飾に装備した。
ウエストポーチを開けると頼んでいた遮蔽カン5本と補充の弾丸、その他の装備品が入っている事を手に取り確認した。
だが、心の中で遮蔽カンの本数が少ない事をぼやいていた。恐らく、一応は用意していたが異跡の分類から必要ないと思い多くは準備していなかったのだと考えた。
「準備出来たのか?」
「…ああ」
ジンの背後から着替えを終えて銃を装備しに来たケルトが声をかけた。
ジンが静かに応える横でケルトは一度睨み付けるた。
アタッシュケースを開けてライフルと拳銃を手にすると、入っているライフルの弾倉の弾丸を確かめると肩に、ホルスターに拳銃を装備し、ウエストポーチに入っている遮蔽カン及び装備品を確認すると装備した。
その他の装備品も装備した2人はベルトポーチを開けその側に置かれていた拳程の録音機の電源を入れ、ベルトポーチにしまうと装備した。
録音機は調査、及び保険として装備品の1つに含まれている。
まだ映像を録画する機能が存在せず、後方支援が異跡内部の研究で頼りにするのが探求者の情報と録音機の録音だけなのだが、録音機は保険の意味合いが強い。
もし、異跡から脱出出来た探求者が深手を負い話も聞けずに死んでしまったら、探求者からの情報は無くなってしまうのである。そうなると最後に頼るのが録音機に録音された声である。その声により後方支援は異跡内部での情報を予想して組み立てる事が出来る。
2人の準備が整ったのを見た担当者が近づいた。
「2人共、どうか、お気をつけ下さい」
担当者の言葉を聞いたジンとケルトは無言で異跡を見た。
「行くとするか!」
ケルトは自身満々に言い、ジンは無表情無言で異跡に入った。
異跡の中は暗かった。どこの異跡も暗いがここも一層暗く感じた。
恐らく、沢山の探求者が関わり死んだ場所と言うのが中に入った者の気持ちをさらに暗くさせていた。
「たくっ!あいからわずの暗さだ」
ケルトは暗闇にぼやくが、2人の手には銃がしっかりと握られていた。
いつドローンに会うのかわからない。銃など気晴らしにしかならないのだ。
皮肉な事にドローンに銃の弾丸は中々効かないし弾数の制限がない。同じ場所、もしくは弱点の部分に数発入れてやっと動きを止める。
ドローンはそれまで見たこともない光る弾丸でこちらを撃ってくる。
「光線銃」と命名され呼ばれるそれは現代の鉄の弾丸と違い貫通性が非常に高く誤って撃たれると致命傷にもなりかねない。また、高威力の破壊力がある光線銃ではかすっただけでも命を落とす程の破壊力がある。
現代技術では製造不可能である為に負傷者を増やす原因ともなっている。
その事もあり探求者は基本2人以上で組む事になる。
これは少しでも連携を組むことにより生存率を上げる為なのだが、ジンとケルトは今回始めて組んだ。その上、ケルトはジンをあまり良く思ってはいなかった。この2人が異跡を無事に出られるかはわからない所であった。
ジンは簡易式ペンライトを1本折ると進む方へ投げた。投げた先は明るくなり、ドローンがいない事を確めた。
「後ろは任せる」
短く言うとジンは素早く前を走り手前の別れ道の前でしゃがみ進路の確保を確かめた。
前方にドローンの姿はない。腕を上げ安全である事をケルトに知らせた。
「たくっ!」
ケルトは安全を知らせるジンに悪態を付きながらも命を預かる者として後方の安全を確かめながら合流した。
異跡に入ってしまえば気に入らない相手であろうが好き嫌いに関係なく調査をしなければならない。でなければ生きては出られない。
始めから気が合っていない事もあり、2人は声を出して連係をしていなかった。
前方を確めるジンは安全であるなら腕を上げて知らせるだけ。ケルトは異常がない限りは声を上げずにジンと合流するを繰り返していった。
口数がなくなるのは当然であったが、それよりも2人がハンターとして死地を潜り抜けてきた経験の方が強く出ていた。だから自ずと行動で意味が分かっていた。
ジンが前方へ出ようとした時だった。
前に出た体が一瞬にして後ろに引き戻され元の位置に戻した。
この反応にケルトは直ぐに理解した。ドローンが来たのだと。
ジンは前方の様子を見た。
僅かなペンライトの光のお陰もあり暗闇に慣れた目がしっかりと捉えた。宙に浮かぶ小型ドローンがこちらに向かって来るのを。
おそらく警備か偵察の類いであると思われ、異跡ではよく見るドローンであった。もちろん光線銃も備わっており小さくても危険な物には違いない。
2人は静かに身構えた。いつでも撃てる様に。
しかし、ドローンは2人の異に反し少し手前の曲がり角を曲がり姿を消した。
ジンは内心では安堵していたが表情は一層際立っていた。
異跡調査は簡単ではない。脱出までを踏まえて考えなければならない。そうでなければ死を覚悟して調査をする意味がないからだ。
「ここからが本番か!」
ケルトも同じでありその思いを呟いた。そして、しばらく発せられず聞かなかった人の声であった。
◆
そこからはケルトの言葉通りに難航した。
いくら小型のドローンであっても気が許せるものではない。やり過ごす事が出来ればいいのだが、一度会うか見つかれば銃撃戦である。
「くそ!」
ケルトは光線銃から撃たれる光る弾丸から壁を盾にして新な弾倉をライフルに装填していた。
何度目になるか分からない銃撃戦であった。
的は小型ドローン1体であったがここから同じドローンや少し大きいドローンが援軍として現れたら危ない。
現在、ドローンの光線銃の光線を中和、最小限に防ぐ事ができるのは「遮蔽カン」と呼ばれる道具だけである。
暗闇である異跡内部において光線銃の弾丸が赤い光を発する事に着目した後方支援が弾丸の正体が光であることを突き止め苦心の末に開発した道具である。
これにより生存率と進行力は増したが生産数と持ち込める数に限りがあったためここぞという時にしか使えない。
だから早く目の前のドローンを倒して先に進まなければならなかった。
ケルトの弾倉を変える時間を稼いでいたジンは空いている左手で1丁の銃を手に取ると引き金を引き、その隙に素早く右手の銃を放ると違う銃を握った。
狙う場所は決めている。対峙しているドローンが唯一露出している光線銃の銃口に標準を合わせ引き金を引いた。
その瞬間、低く小さい音が耳に響いた時には光線銃の弾丸が壁を撃っていた。
「くっ!」
光線銃から光線が放たれる音を聞いたジンはとっさに身を翻しており、光線銃の標準から外れながら背後にいた同型のドローンに弾丸を撃ち込んだ。
撃ち込まれたドローンは後に小さく弾き飛んだだけであった。
その行動は装填が完了しさっきまで対処途中であったドローンに攻撃を再開しようとしていたケルトを驚かせた。
しかし、対処途中であるドローンが待ってくれる筈もなくすぐさま光線銃の音が響いた。
「しつけえぞ!」
ケルトは対処途中のドローン、ジンは新たに現れたらドローンに弾丸を撃ち続けた。
予想外の事はただある。それでも背後からなら必ず負傷者が出る。そして、必ず撤退か見捨てる筈だったのにそれが出なかった。
(あれを避けるのか!?)
ケルトは背中を預けている気に入らない相手の存在に戸惑った。
噂で多少耳にすることはあったがまさかここまで反射神経がすごいとは思わなかった。
自分よりも年下ながらも年相応に不釣り合いな実力者の高さ。プロとして肩を並べる異常な青年に。
その様にケルトが考えるのをよそにジンは1つの行動を移そうとしていた。
このままではじり貧となり生きて脱出することが出来ない。
相方には悪いが移させてもらう事にした。
ジンは向かい側の通路へと駆け出した。標的が出てきたのを見た2体のドローンは光線銃で撃とうと動く標的に何度も放ったが当たる事はなく通路の壁を盾として再び攻撃を防いだ。
この行動を目の端で捉えたケルトだったが驚く暇などなかった。
「何してやがんだ!」
その声は怒りが込められていた。平然と危険とされる行為を行う事にだ。
しかし、ジンは構わず対処しているドローンに弾丸を打ち続けた。
左手に握る銃は威力の高い弾丸だが連発は出来ない。
だが、ジンはわざと弾丸を光線銃から逸らしてドローンを撃っていた。後へ弾く事でバランスを崩し光線銃の標準を捉えさせにくくしていた。
たいした効果と時間稼ぎにはならないがこれだけで十分だった。用はドローンに撃つ暇を与えさせないだけである。
威力の高い弾丸を何度も食らっていたドローンは突如そのバランスを大きく崩し、光線銃の銃口は後ろへと転がった。
それを見たジンはすぐさま左手に握っていた銃を放り捨てるとジャンプしてドローンをつかみ取った。
このドローンの光線銃は固定されており移動はしない。その為に小型ドローンの銃口が向いてなければそのまま握る事が出来た。それを知っていたからジンは握る事が出来た。
そのまま空中で体を反転させるとケルトが対処しているドローンへと至近距離から投げ付けた。
投げ飛ばされたドローンはそのまま回転してもう1つのドローンの銃口の的に入ってしまった。
ケルトを対象としていたドローンは急に現れたドローンに光線を撃った後だった為に行動を移す事が出来なかった。
放たれた光線に撃ち抜かれたドローンは投げ飛ばされた勢いで壁へとぶつかり、宙に浮くことなく音を立てて床へと落ち機能が停止した。
この隙を逃さないとジンはまだ宙に浮かぶドローンに右手に握る連写タイプの銃の引き金を引いた。
素早く、正確な射撃で銃口へと何度も撃っていた。
弾倉に収まっていた弾丸が丁度なくなった時、ケルトが撃った弾丸が銃口に撃ち込まれた。
宙に浮かぶドローンは浮く力を失い床へと落ち機能を停止した。
2つのドローンが完全に動かないのを見たケルトは大きく息を吐いた。どこも撃たれた所はなく生きている。しかし、ジンは激しい銃撃戦を繰り広げたにも関わらず息を吐かず投げ捨てていた銃を拾い上げた。
(イカれてやがるこいつは…!)
ケルトはジンと言う青年の行動に異常を感じて内心で吐き捨てた。
噂では身体能力や反射神経以上に自身の命に危険があるはずの異跡内でも平然と危険な行為を行う。だが、その行動により救われた探求者は多く死傷者は少ない。率先して危険へと飛び込む。そして、それらの行動をしても命を落とす事はない。
その行為と異跡での生存率の高さから異跡探求者では彼を「《不死身》のジン」と呼んでいる。
こうして実際に共に調査する事となったケルトだがジンを始めから気に入っていなかった。
どの様な事があるか分からない異跡でそんな事は出来ない。まして、ハンターになってまだ数年の青年だ。自身の方がハンターとしての経歴が長い。ジンを未熟と捉えてもおかしくはない。ただ話を大きく膨れ上げただけだと思っていた。
だが、実際に組むとそれ以上に無謀でイカれていた。
この戦闘、ジンがもう1体のドローンの気を引く為に光線に撃たれていたかもしれない行動を起こした。何故あの様な事を平然と出来るのか分からない。
ケルトはさらにジンを気に入らないと思った。
「勝手な事するな!」
ケルトは苛立ちを隠さずにライフルの銃倉に補充の弾丸を入れながら言った。
「あれが最適と思ったからやったまでだ。あそこで固まっていたらまとめて撃たれていた。」
だが、ジンは反省する訳でもなく銃をホルスターにしまいながら行動を取った理由を言った。
実際にそうである。ジンが気を引き付ける為に行った行動がなければ2人は撃たれていた。更に、別の場所から引き付けていたから背後から撃たれる事もなかった。
どこも撃たれた所がないのは事実であったがケルトは我慢できなかった。
「命いくつあるんだお前は?そんなこと繰り返してると、本当に死ぬぞ。」
冷めた目で睨み付けた。その目は何度もハンターが死ぬのを見てきた目であった。
命はあっと言う間になくなってしまう。それが分かっているから無謀を簡単に行うジンが気に入らなかった。
「その心配はしていない。」
ケルトの言葉にジンは決まっていると言う表情で言った。
「俺は、死ぬつもりで探求者になったわけじゃない!」
迷いのない目。ただその一言だけであった。
それからはまた無言で調査が再開した。
時おりドローンと銃撃戦になることはあったが今までの調査記録からドローンの出現場所を知っていた2人は多く出るルートを避けて通っていた為に普通の調査と比べて遭遇する回数は少なかった。平均で見れば。
機能を停止させたドローンは解析の為に回収するのが普通であるが、他の異跡でも同型が存在し、沢山停止させ持ち出されているため重要度は低く2人は回収していなかった。もっとも、今回の目的は内部調査である。
「こりゃひれーなぁー!」
広い空間を片手に投光器に似たライトを持ち歩くケルトは驚嘆して呟いた。
資料で見ていたが予想以上であった。それは、居住区という調査結果からかであったが今までのルートはただの入り口でしかなかった。入り口を抜けた2人に待っていたのは広く、高い建造物が何本も遠くまで建ち並ぶ空間であった。
高い建造物は人が住んでいたのではないかと仮説が立てられている。
何故仮説かと言うと、建造物の内部まで調査をした事がないからである。
これと似た建物は他の異跡にも存在していたが殆どは扉がきつく閉められ入ることが出来ない。加えて窓もガラスにあたる部分が硬く割る事が出来ない。
唯一、異跡に入る為の入口は入口と思われる部分に多くの機材と時間によりこじ開けられている。
だが、その方法では異跡内部にいるドローンが邪魔で機材を持ち込んでの長時間作業が出来ない。だから仮説である。
(中を調べられたらいいんだが)
ジンは建物の壁に触れながら心の中で異跡探求者が思い続けている事を思った。
その思いは最もであり、実際に異跡を作った技術力の高さは目を見張るものである。
異跡の外と内部、内部の空間。そして、門番としてうろつくドローンも含めて現代の技術と過去の技術は天と地程の差が存在している。
過去がどれだけ豊かだったか。何故異跡を作ったのか。何故滅んだのか。その理由は全てが不明である。
現代に生きる自分達が過去の人間に尋ねることも考えを共有する術はない。ただ予想するしかない。
その予想の手掛かりと先人達が残し隠していった痕跡を見つけ出すのが探求者である。
ならば、その痕跡はいつ見つかるのか。先人達の置き土産はドローンだけである。
異跡に入れば殺す為に襲い掛かってくるドローンを壊しても壊してもきりがない。正直に言って意地悪過ぎるのだ。
ジンは足を止めるとライトの明かりをまっすぐと奥へと続く道に従って可能な限り照らした。
可能な限り照らした明かりはそれほど遠くまで照らさなかったが暗闇に慣れていた目には捉えていた。ここに存在する建物とは違い太く、天井まで届くであろう長い搭の様な建造物がある物を。
「あれか」
ケルトもそれを捉えた。
2人が一応奥地として見定めた終着点である。そこから先があるかどうかは分からない。
それでも2人は周りに注意しながら迂回して奥地を目指した。