カミングアウト
ホルスは進行方向の安全を確認するために先行していた。1つ目の角に着くと直前で足を止めてドローンがいないか確認を始めた。
今のところ、周囲にドローンはいない。だが、十字の通路に違和感がある。進行方向の通路はホルスがいる通路と同じ幅だが、目の前の通路は妙に幅が広い。
「はぁ…はぁ…」
ホルスを追うのに必死だったサラが遅れて到着すると肩を上げて呼吸を整える。殆ど全力で走っていた為に息が切れ切れである。
その後を走っていたジンは、今のサラが走るスピードが遅い事と疲れて息を上げているのに走っている時に気づいて、府に落ちず尋ねた。
「お前、あの時は俺の後を付いて来れたはずだが?」
「わ、分かりません…どうしてかは分かりませんが、今は追い付けないんです……」
尋ねられた内容にサラは息を切らしながら必死に話す。
それを聞いたジンは第28異跡と第16異跡において、サラの変化の違いは何かと考え込んでしまった。
「ドローンはいない。だけど、気を付けろよ」
ホルスは2人に伝えた。最後の言葉はサラに向けて言われた言葉である。
ジンはホルスの言葉に気づいて考えを止めた。
ホルスは向かいの通路へと向かう為に妙に幅が広い通路を走り、何事もないように渡り終えると改めてドローンがいないか確かめ、来いと合図を送る。
「行け」
合図を受け取ったジンはサラを先に行かせようと声をかけた。背後からドローンが襲ってくる可能性があるのだ。それに、ジンは殿である。だからサラを先に行かせる事にしたのだ。
サラはジンの言葉に表情を伺った。表情一つ変えなかった。
サラは深呼吸するとホルスがいる向かいに駆け出した。出来るだけ早く渡ろうと走った。
後少し。その時、ジンの目の端が何かを捉えた。
「走れ!」
ジンが大声で叫んだ。ホルスも何かに気づいてライフルを構えた。サラは何が起きたのか分からず足を止めようとした。一瞬の停止。それが、探求者にとってはいつ起きてもおかしくない事だが、今はまだ起きてはならない最悪の引き金を引いた。
ジンは足を止めようとするサラを見て顔をしかめた。
「くっ!」
そして、サラを助ける為に通路から飛び出した。
足を止めようとしたサラが目にした物。それは、小型のドローンであった。
確かに止まっては行けない。走らなければならない。すでにドローンは光線を放とうとしている。止めようとした足を前に出す。
その時、ジンがサラを思いっきり突き飛ばした。
瞬間、ホルスがライフルの引き金を引き銃声が上がったのとドローンが光線を放ったのが同じタイミングであった。
「ぐあっ!」
サラを突き飛ばした腕に光線が命中してジンが悲鳴を上げるのとドローンに弾丸が命中する音が同時に響いた。
そして、ジンとサラはホルスがいる通路へと転がり込んだ。
「ジン!」
ドローンが落ちた音を聞きながらホルスは光線に撃ち抜かれて呻いているジンに駆け寄った。
「くっ……そ……!」
貫かれた痛みを声に出して吐き捨てるジン。
ドローンを捉えた瞬間、光線を撃つと分かっていた。ここでサラが撃たれるのはまずい。自身が負傷する覚悟でジンはサラを突き飛ばしたのだ。上手くいけばかすり傷程度かホルスが撃ち落とすと考えて。
だが、ここに来てサラを突き飛ばした左手に痛みが生じた。第28異跡の時に負傷した怪我が想定していなかった力に悲鳴を上げた。痛みに一瞬、突き飛ばす力が緩んだ。そして、ドローンが的にしていた位置にジンの腕が入った瞬間に光線が放たれた。光線は見事にジンの腕に命中したのだ。
ジンによって突き飛ばされたサラはその傷を見て声を失った。
綺麗に貫かれていて僅に流血している。呻くならまだ分かるが本来ならのたうち回っていてもおかしくない。
「綺麗に貫かれているな」
ホルスは慣れた動作でウエストポーチから紐と布を取り出すと手際よく応急措置を始めた。だが、表情は冷静とは言えない。
「間に合わなくてすまない」
「撃たれる、覚悟は……していた……」
ドローンを撃ち落とすのが遅れて負傷させてしまった事を謝罪するホルスジンはに痛みを堪えながら呟く。
その言葉にサラは申し訳なくなり表情を曇らせる。
危険な事は分かっていた。何とかしなければならないと考えた。自分がコロニーの事を最も知っているから。だが、自身が起こした行動に巻き込まれて負傷したジンを見た時、頭から血が引くように感じ、目の前が真っ白になった。
何が分かっているだ。何をしなければならないだ。何を知っているだ。ジンが負傷した事で自身がやっている愚かさを悟った。どこかで感じた感覚。どこで感じたか思い出せない。
会ってまだ日も浅い。目の前で負傷している無表情で無愛想だけど、命が危険にさらされているのに自ら飛び込んで行く青年がこれ以上大怪我を負うのは見たくない。
ホルスはジンの言葉に開けれて溜め息をついた。
「だからなぁ…自分の命は大切にしろって……っても、俺も人の事言えないがな」
否定したいが否定できずうやむやに言いながら血止めのために傷から少し離れた場所で縛っていた紐を更に強く縛ると、ジンが僅に顔をしかめた。応急措置をしながらホルスはジンも分かっていることを口に出した。
「だがこれは……切断するかもしれないな」
「だろうな」
傷から治療法を口に出したホルスの言葉にジンは受け入れるように呟いた。
だが、冷静な2人とは違いサラの表情は青くなっていた。
「待ってください!切断ってどうゆう事ですか!?」
「言った通りさ。かすり傷位なら縫えば調査に復帰出来る。だけど、貫かれたら縫えばいいって話じゃないみたいでな。しかも、焼けている。そうなれば、最良の手が切断らしい。そうなると、復帰は難しいんだ。」
ホルスの説明にサラは現在は技術だけでなく医学も衰退していると悟った。
ところで、何故今になってサラが医学も衰退していると気づいたかと言うと、ジンが村で治療をしていた時、それも応急措置と考えていた。しかも、異跡探求者本部で行われた精密検査も設備が不足しているからと考えていた。だから気づかなかったのだ。
「しばらくは動かすな」
応急措置を施したホルスの言葉を聞きながらジンは苦しそうな表情のまま背中を壁に預けた。
光線によって貫かれた腕の負傷部分は布でくるまれていて紐できつく縛られていた。
「とにかく、早くここから出ないとまずいな……」
声に出して考え込むホルス。考える場所には中途半端で安全確認していない為に安全から程遠い。しかも、負傷者1名に一般人1人。早く決めなければならなかった。
サラは今の自分に何が出来るのか考えた。そして、それを口に出した。
「ホルスさん、ここの技術を使えばジンさんの怪我を治す事が出来ます」
「……本当に!?ってそうだよな、異跡だからな……」
サラの突然の言葉に驚いてホルスは目を丸くした。が、異跡だからと思い出してガッカリする。
異跡内部にその技術があってもおかしくはない。だが、それはもっと先。その頃にはジンの治療なんて間に合ってもいない。
「はい。ですから…だから……お願いします!力をお貸しください!!」
「はいぃぃ!?」
突然頭を下げたサラにホルスは一体何度目になるか分からない驚きの声を上げた。
「コロニーを正常に起動する事が出来ればジンさんを治療する事が出来るのです!ですから……」
「ちょっと待った!待った!コロニーって異跡の事でいいのか?そもそも、何でコロニーって呼んでいるんだ?しかも、異跡を正常にして治療って、どうしてそんな事を言うんだ!?」
どこか慌てて話すサラに落ち着く様に促すも、ホルスもサラの口から出た単語を消化するのに精一杯で、しかも、最後にいたっては半信半疑である。
「うるさいぞ!」
徐々に声が大きくなっている2人にジンが突っ込んだ。そして、サラに真顔で質問をした。
「何故治療出来ると言える?」
「このコロニーは恐らく娯楽施設です。それも、居住性を兼ねた。そうすると、医療施設があってもおかしくはありません」
ジンの言葉に答えるサラ。そして、あっさりと答えてしまったサラにホルスは呆れる前にどうしてその様なを言うのか分からず頭を抱えていた。
しかし、ホルスとは反対にジンはその説明を受け入れていた。
「28異跡と同じダミーという事はないのか?」
「コロニーの外壁と内部に手抜きはありません。ダミーの可能性殆どありません」
サラの口からダミーの可能性は低いと聞かされ一呼吸置く。
ダミーでないとすると恐らくアレがある。
「確か、メインコントロールルームか?それがここにあるのか?」
「はい」
ジンが思い出しながら呟いた言葉に頷くサラ。
タイミングを見計らってホルスが突っ込んだ。
「ちょっと待った!2人だけで話を進めるな!全く分からないんだけど!俺にも分かるように説明!!」
「つまりだな……」
一気に突っ込んだホルスにジンはある意味で衝撃の宣告をした。
「この異跡に徘徊するドローンを手懐けるついでに異跡ごと乗っとると言っているんだ」
「……は?」
ジンにしては珍しく多少荒っぽく、大袈裟に言ったが中身は間違っていない。
それを聞いたホルスが目を丸くする。どことなく目が泳いでいる。恐らくは半信半疑なのであろう。
まあ、気持ちは分かる。28異跡においての自分の立場を少し思い出したジンは更なる説明が必要だと更に追い討ちをかける。
「どうゆう訳か今のドローンは人を殺すのに躊躇がないらしい。ドローンを手懐けるには異跡の最上階にあるメインコントロールルームと言う場所から操作が必要らしい」
「らしいって待った!何でそんな事が分かるんだ!?」
ホルスの追求にジンはサラに指を指した。
「あいつが言ったからだ」
指を指されたサラは困った表情を浮かべた。ジンに説明した本人なのに、いざその様に言われるとどの様な表情でいればいいのか分からないらしい。
それを見たホルスは呆れながら呟いた。
「いやいやいやいや、サラちゃん一般人だろ?しかも、異跡探求者の関係者でもないんだろ……多分……。それに言ったって……」
「あいつが28異跡で眠っていた古代人と聞いてもか?」
「へ……」
ジンの最終宣告を今度は泳がずに目を丸くした。
僅にホルスの口が震える。
「待ったジン!流石にこの状況でこうゆう冗談は言わないだろジンは?」
ジンと言う人柄を知るホルスは冗談を口にした本人の真意を確かめる様に見入る。目の前の現実から逃避をしようと必死であった。それくらいに衝撃が強かった。
だか、ジンはうんともすんとも言わない。首を縦にも横にも振らない。全くの無言である。
ホルスは無意識にサラを見た。サラはどうすればいいのか分からずその顔は少し驚いた表情であった。
「……本当に?」
絞り出したホルスの言葉にサラは静かに頷いた。
正直言って、古代人という言葉は気持ちのいいものではない。だが、周りが古代人と認識している様なもので半分は言葉に流されてしまい、そうなのかもしれないなという意識もあって諦めている。
「何だそれえぇぇぇぇぇぇ!!」
衝撃の告白にホルスの驚きの声が周りにこれでもかというくらいに響き渡った。
その直後、ホルスの叫び声を聞いてか、もしくは偶然か、どう見てもタイミングがよすぎるという感じに小型のドローン1体が現れ、3人は慌てて逃げ出した。何とか安全圏に避難すると、追ってきたドローンに向けてホルスがライフルで撃ち落とした。
それから、ジンがホルスに叫びすぎだ、うるさいからと言われて地味にへこんだホルスであった。
* * *
それから少しして立ち直ったホルスはジンから第28異跡であった事を聞かされ一種の頭痛を感じて頭を抱えていた。
現代の常識を軽々と越える内容に時間をかけて異跡技術の断片をゆっくりと理解して解消したかったと思う。いざ蓋を開ければ異跡探求者が調べた以上の内容である。だが、これでもほんの一部にも満たないと言う古代人サラの言葉を受けて更に頭が痛くなる。断片と思っていたものが断片ではないと言う告白にどこの罰ゲーム、もしくは死刑宣告かと突っ込みたくなる様な濃密な内容に疲れを感じながら。
だが、疑問に思っていた事が一つ一つ解決していった。そして、別の疑問も解決した。
「ジンの反応が妙だったのはそうゆう事だったのか」
「妙とは何だ?」
「サラちゃんの話を理解して受け入れている理由が」
ホルスの言葉に睨み付けていたジンだが肩を落とした。
「異跡の技術を目の当たりにしてしまえばいちいち驚いていられない事が分かったからな。俺達が調査で触れていた技術は一端にも過ぎない。慣れていくしかないと考えさせられた」
「慣れなのか?」
ジンからのカミングアウトを受けてコメントに困るホルス。
本当にジンのリアクションの薄さは1人で散々に異跡の技術に触れてしまった為に驚き疲れているのた。僅かな触れでしかないのだがここまで驚いて疲れてしまった理由は、過去と現代の技術差、文明差、便利差があまりにもかけ離れてしまっているからだ。全てを人の手で、出来る事は自分でやるという現代において殆ど手を出さずにやってしまう異跡の技術に慣れていない。こうなってしまっては現代の常識というものは役にはたたない。
異跡の技術全てに驚いていては何も出来ない。驚く事がないとは言えこれでは身が持たない。だから慣れていくしかない。ジンが第28異跡から脱出してから考えさせられた1つである。
「……そんな気がしてきた……」
ジンのカミングアウトに考えさせられたホルスは疲れた表情で改めて同意した。
そんな2人を不思議そうに見るサラをよそにジンとホルスはこれからの予定について話始めた。
「それで、最上階に行けばドローンを何とか出来るんだよな?」
確認をとるホルスにジンは一つ頷く。ホルスは溜め息をつくと頭を掻いた。
「俺としてはジンの腕が治るのは嬉しいが難しすぎる。そりゃ、パートナーになるジンをここで見捨てる事は……」
「パートナー?」
どちらかと言うと反対の姿勢を見せるホルスの言葉に一部興味を持ったサラが食いついた。
それとは別にジンがまたかと呆れた表情を浮かべていた。
「パートナーってのは2人以上の探求者が組んで探索する事だ」
「常にですか?」
「ああ。常に行動を共にして生存率を上げる。俺のパートナー志望はジンなんだが……」
「断る」
「……拒否されているんだ」
ガックリと肩を落とすホルス。それを見たサラがジンに尋ねた。
「どうしてホルスさんと組まないのですか?」
「誰とも組まないと決めているからだ」
「答えになっていません」
具体的な解答でない事にサラがきつい表情を向ける。
話が脱線しているのを感じたジンは話を戻した。
「最上階に行くのも難しいと言うが、ここから出る方が難しいと思うが」
「そりゃそうなんだけど……」
そう言って、ホルスはある事に気がついた。
「そう言えば、サラちゃんはどうやって異跡に入って俺達よりも早くにここについたんだ?」
思い出したと言わんばかりにホルスは早口で尋ねる。
「格納庫から入りました」
「ちょっと待った!入口からじゃないのか?」
「あれは入口ではありません」
「はぁ!?」
思いもよらない言葉に驚きの声を上げるジンとホルス。
「そもそも、適当な通路の場所に入口はないと思います」
そうなのか?と言う表情でホルスはジンに顔を向けた。ジンは顔を剥けて聞くなというポーズをとった。
「入口はお2人が入った場所より上に位置しています。高低差があって気づかなかっただけと思います」
「まあ、そこは仕方ないと割りきるしかないさ。どうして高低差があるかは情報解析部が考える事だから……」
「それは、ここが人工島だからです」
「人工、島?」
サラの言葉に今度は顔を見合わせるジンとホルス。
「言葉からして人が手を加えた島か?」
「その捉え方で間違いありませんが、もっと正確にこの島は、一から埋め立てをして島を作ったのです」
「……」
考えもしなかったカミングアウトに言葉につまるジンとホルス。
「……島って、作れるの?」
「はい。鉄筋の土台だけでも島と言えますが、ここは海底深くに土台を設置して、不必要な土石類、それから瓦礫やゴミ類から形成されているはずです」
とんでもない事を言ってのけるサラに頭が痛くなるジンとホルス。まさか、島まで作っているとは思ってもなかった。サラ本人はそのつもりで言っているわけではないのが更に頭を痛める。
ジンは多少慣れてしまった為にすぐに解消して立ち直ったが、ホルスはジンほど慣れてはいない為に解消するのに手こずっていた。
「今が本当に1000年後なら、長い年月によって海水に浸食されていてもおかしくはありません」
浸食と言う言葉に妙に納得してしまうジンとホルス。
浸食なら分かる。岩などが雨風によって長い年月さらされて削れる事だ。それが島にもあるのかと一瞬考えるも、幾つもの島からなるニシアンには岸壁がある。そこが波によって削られて空洞などが生まれているのだから同じなのだと納得してしまう。
「あれ?本当にって事は、もしかしたら1000年後じゃないかもしれないって考えてる?」
「はい。1000年にしては浸食が少ない気がします」
「どうゆう事だ?」
意味が分からず尋ねる。
「もっと浸食していてもおかしくないのです。もしくは、この島自体が無くなっていても不思議ではありません」
とんでもない発言に言葉を失うホルス。これほどの建造物が無くなっているとは考えられない。
それとは別に、1000年という月日がサラの心に深々と突き刺さっていた。
「正直に言いますと、1000年経っているという実感を感じないのです。周りの人達は私を古代人と言っていますが気持ちのいいものではありません。」
赤裸々に告白して感傷に浸り黙り込むサラにこれは気を悪くしてしまったかと考え込むホルス。
だが、異跡が今から1000年前の建造物である事は現代の常識であるために覆らない限り否定はしにくい。実際にサラの正体を知る者、半信半疑の者達はサラを古代人と認識している根拠がそれである。サラ本人にはいい気分でない事に気づかなかった。
「感傷に浸っているところ悪いが話が脱線しすぎだ」
そんな2人に気を使わせると言う言葉を無視してジンが話の修正に入る。
どうもホルスに任せると話が脱線すると考えたジンは話の主導権を握る為に介入した。
「格納庫からどうやってここまで来た?」
「エレベーターで来ました」
「エレベェ……」
「エレベーター。人が入ると昇降する箱だ」
分からないと単語の一部を呟いたホルスに説明するジン。あれなら確かに先にサラが着く事が出来ると納得する。
「入るだけで昇降するのか!?……息詰まらないか?」
突っ込む所はそこかと反応に困るジンとサラ。
サラは慣れているために考えてもいない。ジンは初めて乗った時にその様に考える暇がなかった。
反応に困った為に無視する事にした。
「格納庫から入ったと言う事は、そこにも入口があるんだな?ここからどの程度離れている。それと出入りは出来るか?」
「ここから7階下です。ですが、入口は閉じていると思います」
「何で!?」
閉じていると言う言葉に反応するホルス。もちろんジンも驚いた表情を浮かべている。
「手動もしくは予定の行程を入力しなけれは20分程で閉じてしまうんです。」
思ったよりも短い時間に沈黙してしまう2人。しかも、ホルスにとってはもう一つの意味で頭を悩ませた。
ホルスはサラが入って来た入口を使って出ようと考えていた。それが、閉じていると聞かされて挫折した。ジンとホルスが入って来たルートはサラを守りながらでは難しい。どのみち詰んでいたのだ。
ホルスは長いため息をついた。
(最上階に行くしかないのか……)
そう考えて一呼吸すると決意を固めた。
「ようやく決めたか」
「おう、最上階行って異跡を乗っとる!」
初めから最上階に行く事を決めていたジンの確認にホルスは宣告するように頷く。
「ジンは初めから最上階に行く事決めてたみたいだな」
「28異跡で行ったからな。だが、行くのは簡単だったがメインコントロールルームを探すのに苦労した」
ジンが初めから決めていた理由を尋ねたホルス。その内容に顔が引いた。
そこにサラが口を挟んだ。
「それですが、メインコントロールルームの場所は分かっています」
「本当に!?」
思いもよらない言葉にホルスが食いついた。ジンも声に出していないが朗報に驚いている。
「その前に最下層にある原動室に行きたいのです」
「原動室?」
初めて聞く言葉にジンが呟く。
「コロニーのエネルギーを製造する部屋です。そこの機器を再稼働したいのです」
「ちょっと待った!」
思いもよらない発言にホルスが止めに入る。
「再稼働って事は動かすって事だよな?どうして?」
「保険です」
ホルスの質問に答えるサラ。そして、その意味する事を説明する。
「コロニーのエネルギー需要ほ恐らく最低限にまで抑えられているはずです」
「人がいなくなったからか?」
「はい。エネルギーを使う機会が少なくなった。だからエネルギー製造と需要を最低限にしているのです。」
「だから暗いのか?」
説明を聞いたホルスが異跡が暗い理由を悟った。
もしエネルギーの製造がフル活動なら異跡内部は明るくなり、ドローンも見つけやすかっただろう。
「それと保険がどうゆう関係だ?」
だが指し示す理由を言っていない。ジンがサラに急かした。
「もしかしたら、今製造しているエネルギー量ではメインコントロールルームから正常に操作出来するどころか、起動する事も出来ないかもしれないのです」
「なっ!?」
思いもよらない言葉に言葉を失う。
「そんな事あるのか?」
「ですから保険です。緊急原動機もありますが、そちらが仮に何らかの理由で動かなかった事を考えると……」
「現在確実に稼働している原動機をきちんと動かした方がいいと言う事か」
「はい」
結論を述べたジンにサラが頷く。
思った以上に厄介なのではと考えたホルスはもう後戻りは出来ないと自分に言い聞かせる。
「出来るのか?」
「出来なければ言いません」
ジンの言葉に強く述べたサラ。
メインコントロールルームを開けられるかと聞いた時はあやふやだったが、今度は確実に出来ると述べたのを聞いたジンは安心したが、同時に前回と今回の反応が違う事に気づいて違和感を感じていた。
「それじゃ、ここからその原動室はどうやって行くんだ?」
ホルスの言葉にサラは端末に記録されていた地図を思い出しながら話した。
「このまま真っ直ぐ進みます。そして左に曲がって……」
そこまで聞いてジンが止めに入る。
「待て。もしかして、初めからそこに行くつもりで誘導していたんじゃないのか?」
合流してから避難するルートと同じである事に気がついたジンの言葉にそう言えばと思い出したホルス。2人の視線がサラに向けられる。
「……はい」
沈黙の後にサラが頷いた。
まさか最初から誘導されていたと気づかなかったジンとホルスはそのショックから何度目になるか分からない頭の痛みを感じた。
ダメだ……サラとホルスが組むと話が脱線する……
今回、ジンに施された応急措置は緊縛止血法という方法で、大出血や切断などに行う応急措置です。この方法、正しく行わなければ血管を潰したり神経を切ったりするので安易にしないでください。
止血の応急措置は直接圧迫法と間接圧迫止血法が有名ですね。
直接圧迫法は患部にガーゼや布を当てて圧迫する方法。
間接圧迫止血法は患部を抑えた上で動脈を抑えて止血する方法です。
ちなみに、緊縛止血法はビニール紐や細い紐でやると血管や神経を痛めるのでやめてください。もちろん、ジンに施された応急措置に使った紐は細くありません。