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合流

「周辺にドローンはいない」

「……みたいだな」

 第16異跡内部の調査を続けているジンとホルスはこれまでの調査で比較的にドローンの出現が少ない場所に着くと周りにドローンがいない事を確かめ、ゆっくりと肩の力を抜いた。

「あと3層か……」

 ホルスはその場に座り込むとウエストポーチから水筒を取り出し、渇いた喉に水を流し込んだ。

 ジンもその場に座り込むといくつか空になっていた弾倉に弾丸の補充を始めた。

 2人とも休憩に入ったのだ。現地点において調査済みである層まで残り少ないが無理は禁物。休める時に休まなければこれから先に何が起こるか分からないからだ。しかし、気を抜いてはいない。あくまでドローンの出現が少ないだけでドローンが絶対に現れないわけではない。現れたらすぐさま対処しなければならない事を2人は分かっている。

 水分補給を終えたホルスも2丁ある内の1丁のライフルに弾丸の補充を始めた。今のところ、ライフルを壊してはいない。

「なあジン、28異跡が爆発したって何があったんだ?」

 唐突に質問をしたホルスにジンは鋭い目線を向けた。何故今その質問をするのかと問い詰めたかったが顔に不機嫌を張り付けただけで素直に口にした。

「ドローンの弾丸の当たり所が悪く爆発したんだ」

 そんなことがあるのかとホルスは驚きの表情を表した。


 光線銃から放たれる弾丸の正体が光である事は知っている。人間に当たると容易に貫く事が出来る危険なものである。だが、爆発させる事が出来るかどうかと聞かれれば否と答える。理由は、異跡内部の壁では光線銃の弾丸で貫く事が出来ないからだ。何故かは不明だが何人かの異跡探求者トレジャーハンターの証言からそれが確認されている。だから、当たり所が悪くて爆発したというのは今までの確認を覆してしまう。

 しかし、異跡探求者は1つ見落としている。光線銃から放たれる光線は異跡の壁を貫く事は出来ないが特殊加工されていない壁等を貫く事が出来ると言う事を。

 異跡内部の壁はドローンの光線による損傷を生じさせない特殊加工がなされている。異跡探求者はこの特殊加工に気づいていない為に光線では壁を貫く事が出来ないと考えている。

 もっとも、第28異跡はダミーであった為にいくつか手を抜いている。ドローンが特殊加工されていない壁に光線を放ったら貫いていた。そして、爆発の原因となったエレベーターだが、ダミーに問わず正規の異跡において壁や床に特殊加工がなされていたが天井にはなされていなかった。特殊加工がなされていなければ光線て容易く貫く事が出来る。

 異跡探求者がこの事実に気づくまでもう少し時間がかかる事である。


 驚きの表情を浮かべていたホルスだが何かを納得したかのようにその表情をスッと引っ込めた。

(まあ、そうゆう事もあるか)

 あっさりと受け入れてしまったホルス。これを口にしてジン以外に誰かいたら突っ込みが飛んでいたかもしれない。ジンの発言は色々と問い詰めなければならないのだが、ここでは情報解析部アナライズはいないし厳しく追及する者もいない。むしろ、ホルスのようにあっさりと受け入れて厳しく追及しない者の方が珍しいのだが。

 そんなホルスでもジンの発言に追及しなければならない事案が1つだけあった。

「……よく無事だったな」

 爆発した第28異跡から生還したジンにどのようにして脱出したのかを含めて呟いた。

「最上階から飛び降りた」

「飛び降りたって、最上階から!?」

 あっさりと言ってのけたジンにホルスは声が高くなるのも気にせずに叫んだ。本当によく無事だったなと思いつつもまあジンだからと納得してしまう。

「それで、サラちゃんとはどうゆう関係なんだ?」

「関係とは何だ?」

 続くホルスの質問に弾倉に弾丸を入れるジンの手が止まった。

「言った通りさ。サラちゃんとはどうゆう関係なんだ?」

「関係はない」

「嘘言うなよ。あれはどう見たって関係ないはずないだろ。サラちゃんが必死になってジンの後を追って来てるんだぞ。普通じゃ考えられないぞ。一体どうしてそうなった」

「知るか!」

 畳み掛けてくるホルスにジンが不機嫌に叫んだ。

「知るかじゃなくて思い出せよ!心当たりくらいあるだろ?知人か?幼馴染みか?恋人か?」

「拾った」

「拾ったぁ!?」

 聞きたい要点は分かるがどうも斜め上をいくような質問にこのままでは永遠に続くと嫌々ながら悟ったジンはある意味で本当の事を言いホルスを再び驚かせた。

 どうもホルスは異跡探求者において大きな問題となる事にはあまり厳しく問い詰めないのだが、人対人では問い詰めるようである。

「どこで?」

「お前がそれを聞いて何になるんだ!」

 明らかに誰の為でもないことと現状においてサラの秘密をまだ秘密にしたいジンは思いっきり叫ぶとそのまま無言を貫いた。そんなジンにホルスは口を開かせようと必死だったが、結局は思いっきり殴られ口を閉じざるをえなかった。


  ◆


 その頃、異跡探求者本部では情報解析部第2班が研究室で第28異跡の解析を行っていた。

 内容は主に爆発と古代人と思われるサラについて。どちらも今回は初めての事であり解析は慎重に行っていた。

「エリシュカ副長!」

 その時、研究室の扉が思いっきり開けられた音が響いた。ある程度疲労から復活して解析を行っていた班員が何かと見ると、情報解析部第4班班長の助手であるミネルバが物凄い剣幕で大声を上げて立っていた。

「どうかしましたか?」

 呼ばれたエリシュカは何事かと思いながらもミネルバの表情に気にせず尋ねた。が、ミネルバはそのまま研究室に入るとエリシュカに近づき机を思いっきり叩いた。

「何故一般人が本部にいたのですか!」

 その問にエリシュカの目が丸くなる。

「完全に監視不足ですよね!それ以前に規定違反!一般人及び親族の異跡探求者施設の入場は禁止となっている!異跡探求者ではない一般人がなぜここにいて、異跡に同行していたの?」

 妙に敬語で話されていないミネルバの質問にエリシュカは静かに聞き、情報解析部第2班の班員はその様子を見続けていた。


 確かに規定では一般人、そして、異跡探求者の親族も異跡探求者の施設にどの様な理由があれど入場が禁止されている。理由は、異跡から得られる技術等の機密事項を外部に漏らさないためである。異跡探求者は異跡の調査を行い、得られた技術を解析し、実用化にこぎつけて開示事を目的としている。外部に技術が漏れ実用化にまでこぎつけられるとそれだけで異跡探求者には痛手なのである。だから一般人はもとより親族にも伝わる事を怖れて入場を禁止しているのである。もちろん、異跡探求者の人間が外部に漏らすという事もあるがそれについては厳しい規定とある人物達により守られている。一部を除いて。

 しかし、例外が存在する。それは、異跡探求者の上層部が任意の人物を本部に入れたい時や本部が置かれているニシアン上層部の関係者及び各国の要人などが訪れる時だ。事前に後ろめたいものがない事を確認して特定の段取りを行う事で入場を特例として認められているのだが、未だに一般人と親族には認められていない。


 エリシュカの口から語られたのは意外なものであった。

「許可ならもらっているわ」

 そう言うと机の引き出しから1枚の紙を出すとミネルバに見せつけた。

 ある意味で第2班にしてみれば当たり前の様な言葉が飛び出たのだが、許可書を見たミネルバにしてみれば予想外だったのだ。違う意味で。

(この人なら少しの我が儘は通じる。だけど、こんなにも早く……)

 それは、特例が承認されるまでの早さであった。本来は特例が承認されるまで短くて3日、長くて1ヶ月はかかる。エリシュカが見せた特例書には発行日と承認日が昨日の日付であったのだ。前もって背後の事前確認がなされていない可能性がある。しかも、承認者が異跡探求者最高責任者の朱印が許可書に押されている。

 ミネルバの表情を読んだエリシュカが次の言葉が出る前に答えた。

「今回は特例中の特例って事よ」

「特例って、そんなの事が!その特例でこっちは大迷惑……」

「ミネルバ!」

 声を荒げて叫ぶミネルバに再びドアから大声が響き渡る。見ると情報解析部第4班レッカ班長がミネルバとは違う厳しい表情で立っていた。

「すみませんなエリシュカ副長」

「お気になさらずに」

 申し訳なさそうに研究室に入るレッカの態度にミネルバは気にくわなそうな表情を浮かべていた。

「ところで、大迷惑と言ってたけど、こちらに来たのはそれですか?」

 一体何が大迷惑なのか分からないエリシュカはレッカに尋ねた。そもそも、ジンを通してサラの存在は他言無用にするようにと言っておたのだ。だからどこからも追及がなかったのだ。それなのに、情報解析部第4班の班長であるレッカがどこからか聞きつけて直々に訪れたのだ。大迷惑と助手であるミネルバが言っている時点で嫌な予感しかしない。

「話が早くて助かる。2班で預かっている一般人が異跡の奥へと入ってしまったんだ」

「何ですって!?」

 レッカの言葉にエリシュカは叫びながら椅子から立ち上がった。もちろん、レッカの言葉を聞いた班員も予想外の事に声が漏れ、立ち上がる者もいた。

「しかも、新たな入り口を開けたとかでそこから……」

「しかも、開けただけでなくそこにあった乗り物の操縦法が分かっていた様で操縦をしたらしいです」

 連絡を受けたレッカにとっても予想外だったのか微妙に詰まった様な話し方をし、補足するように報告書を読むようにミネルバが付け足した。

 どうもミネルバは仕事の説明をする際は敬語で話すようである。

 2人の説明を聞いたエリシュカは力が抜けた様にそのまま椅子に座ると頭を抱えた。

「副長?」

 様子を見守っていたアルファだがエリシュカが座り込んだのを見て近づいて声をかけた。

「ねえ……」

 エリシュカが力なく呟く。

「倒れていい?」

「ダメです」

「寝ていい?」

「絶対ダメです!」

「逃げていい?」

「それこそしたらダメだろ!!」

「ダメです副長!!」

「ダメです!!」

「ダメですよ!!」

 問答を続けるも最後の言葉にはアルファだけでなく班員全員が突っ込んだ。

「あんた達は雷神バラク!?」

「雷神でも悪魔シャイターンでもなんだってなります!」

「逃げるって何ですか、逃げるって!?」

「少しくらい目を背けてもいいでしょ?」

「背けないでください!そもそも、この案件を持ち込んだのは副長じゃないですか!逃げないでください!」

「それじゃ押し付け……」

「押し付ける理由にもなっていないし意味分からない事はしないでください!!」

 どうにも緊張感が感じられないやり取りにレッカはこのままでは続いてしまうのではないかと思い話を戻す為にわざと咳払いをした。

「こちらの用件はまだ終わっていないが?」

「すみません」

 レッカの言葉にエリシュカ含む班員は申し訳なさそうな表情を浮かべた。いくらか本気も混じっていた冗談のやり取りだったとわいえ、用事で訪れたレッカとミネルバを置いて言い過ぎてしまった。現に、レッカの方はそれほど気にはしていないようだが、ミネルバは睨み付けている。しかも、2班の若い班員も心の中でいい年をした大人が何やっているんだよとぼやいていた。

 ちょうどその時、研究室に備え付けられている複数ある電話がベルを鳴らした。電話の近くにいたカイロが受話器を取るとベルは一斉に止み、受話器を持ったカイロは電話をかけてきた相手と通話を始めた。

「それで、彼女の救出は?」

「それも含めこちらで預かっている一般人について尋ねたい事がある」

 レッカの言葉にエリシュカはその表情を睨み付けた。サラが異跡で色々とやった事を聞いた時点で聞かれる事は分かっていた。それをどこまで追及されてどこまで話すか見極めなければならない。あえてサラの名前を出さないのはまだ存在の証明が不確定だからだ。

 レッカも具体的な話をしないところ、聞き出せる事が出来るところは聞き出そうとしている。

「そちらで預かっている一般人は何者ですか?異跡に随分詳しいようでしたが?」

「詳しい事は言えないわ。そもそも、まだ解析の段階で確定しているわけではないけど……」

「副長!」

 カイロが大声でレッカに説明しているエリシュカに叫んだ。説明をしている事は分かってはいるが内容が緊急を要していたからだ。

「4班が言っていた事は本当です!」

 ならお前は信じていなかったのかと問い詰めたくなる言葉を誰かがぐっと押さえながら続きが言いわたされた。

「それと、新しく発見された入口がとうゆうわけか固く閉まったらしいです!」

「何ですって!?」

 その言葉にエリシュカや班員だけでなく情報を持って調整をしに訪れたレッカとミネルバをも驚かせた。

「どうして入口が閉まるのよ!」

「ミネルバ、素に戻っている」

「知るかよ!たった今あっちで確認がされたんだ!」

 予想外の事に戸惑う者達をよそにエリシュカはカイロを通じて指示を出した。

「カイロ、連絡場所から新しく発見された入口がどこにあって、どのくらい距離があるか聞いて!それと、入口がいつ開いていつ閉じたかの確認と入口周辺を誰かが触れたかも!」

「はい」

 エリシュカの指示をそのまま向こうにいる同じ班員に伝えるカイロ。

 サラを迎えに出すにあたり調査部リサーチ数名に第2班の班員2名を送りだしたのだ。まさか、向こうでこの様な騒ぎが起こるとは思ってもいなかったが。

「ダミアン、16異跡が置かれている孤島の地図を出して!」

「はい!」

「ミネルバ、詳細に描かれている16異跡周辺の地図を急いで持って来てくれ!それと、班員を2人ほどこちらに連れて来るんだ!」

「分かりました!」

「他は指示があるまで28異跡の解析をしていて!」

 矢継ぎ早に出される指示に行動を起こす情報解析部の班員達。すでに班など関係なく共通の問題と捕らえていた。

「レッカ班長、この件は2班と4班の合同でよろしいでしょうか?」

「構いません。正直なところ、理由を尋ねたいですがあなた方がそれどころではないのが分かります」

「感謝します」

 合同の解析を取りつける事が出来たエリシュカ。


 大きな机にダミアンが孤島の地図を置くのを見た2人は早足で駆け寄った。

「レッカ班長、そちらで連絡を受けたのは先ほどですか?」

「はい」

「では、どのくらい前ですか?」

「そうですね……15分ほど前ですかね?」

「15分……」

 机に置かれた地図を見ながらエリシュカはレッカに連絡を受けた時間帯を尋ねた。レッカもエリシュカが何を基準にして入口が開閉されていた時間を割りだそうとしているのかすぐに理解していたから素直に答えると同じように考え始めた。

「副長!開いた時間は分からないそうです。閉じたのは今から10分ほど前。ドローンと銃撃戦を行ってからは誰も触れていないらしいです」

 向こうからもたらされた内容をカイロから聞かされた内容にエリシュカは表情を曇らせた。

「それから、距離は約800m」

「殆ど裏側ね」

 そう言うと地図に記しを付けた。

 ちなみに、この数字は直線距離ではなく異跡の側面に沿った場合の数字である。

「レッカ班長!」

「ミネルバ、ちょうどいい所に!」

 4班の研究室に戻っていたミネルバが班員2人を引き連れて研究室へ入って来た。

 レッカはミネルバが抱えている地図を受けとると素早く広げてエリシュカと同じ様に新たな入口と思われる場所に記しを付けた。より細かく記されている地図に2人は記しを付けた所を食い入る様に見た。

「これを見るからには……」

「岩肌ね……」

 エリシュカとレッカは新たな入口が山の岩肌に存在していると考えた。

 第16異跡の一部は山の中にも含まれている事は分かっていた。だが、入口が山の表面にあるとは考えていなかった。そもそも、どうやったら山にある入口をあっさり開ける事が出来るのか分からない。

「エリシュカ副長!」

 その時、ジンが第28異跡で使用していた録音機を解析していたセリカが急いだ様子でエリシュカへと駆け寄った。

 その行動にミネルバはセリカを睨み付けていたが、セリカは気づかずにそのまま話し始めた。

「所々途切れていましたが、エリシュカ副長とジンさんが言った通りでした!」

 セリカの言葉に2班の班員が先程までとは違う驚きを受けて動きを止めた。エリシュカも同じだったがすぐに何かを考え込んでしまった。

 驚きから立て直したアルファがセリカに尋ねた。

「ほ、本当に!?」

「本当です。あと、爆発の原因と28異跡がどの様なものかも分かっています」

 セリカの言葉に2班の班員は受け入れるのに必死であった。

 セリカは2班の中では最も耳が良い。解析も主に録音機に記録された内容を聴く事に費やしている。そのセリカの言葉だ。間違いなはずがない。

「レッカ班長。お先にこちらで預かっている彼女の保護についてお話してもよろしいでしょうか?」

 考え込んでいたエリシュカが何かを決めた様な表面でレッカに尋ねた。

 それにミネルバが反発をした。

「何故ですか?今は新たな入口について話すのが……」

「情報不足の現状で答えを出すのは難しい事よ」

 ミネルバの反論にエリシュカは静かに切り捨てた。

 レッカもエリシュカ同様に現段階では情報不足でちゃんとした結論が出ない事を理解していた。だから尋ねた。

「構いませんが、何故そこまでして保護を優先するのですか?もしかしたらすでにドローンに撃たれてなくなっている可能性もある」

 レッカの言葉は的をついていた。サラが異跡に入って少なからず時間が経っている。探求者ハンターほどの戦闘能力がなければすぐに死んでしまう。言い替えてしまえば戦闘能力がない人間が入ればすでに死んでいると考えるのが普通である。たとえ奇跡を信じても。

 だが、エリシュカは今回に限ってどちらも信じてはいない。

「彼女は恐らく生きていますよ」

 その自信があるとも聞こえる言葉にレッカ含めて4班の班員が驚いた表情を浮かべた。

 レッカは探るようにエリシュカに尋ねた。

「その根拠は?」

 エリシュカはわずかな期待と自身の根拠を信じて話し始めた。

「彼女は技術以上の宝です」

「宝?」

「そう。これまで異跡探求者がどれ程探しても手に入れる事が出来なかったもの。知識です」

 サラのどの様な存在か確信したエリシュカが高らかに言った。


  ◆


 情報解析部第2班研究室でサラについて語られている頃、コロニー内部ではチーンという音が物静かな廊下に響き渡った。そして、廊下の壁の一部が左右に開くと、中からコロニー内部に何とか入り込んでいたサラが顔を出して恐る恐る周りを見渡した。そして、ガーディアンがいない事を確かめると急いでそこから駆け出した。

 ガーディアンに見つからないように注意をしていたのだ。

 サラがガーディアンに見つからずにすんでいる理由。それは、サラの手に握られている端末にある。

「ありました!」

 扉と思われる場所近くの壁に開閉機能が搭載されている端末を見つけたサラはそこを少し触れると、カチリという音と共に端末の一部表面カバーを開けた。そして、手持ちの端末に付属されているコードを引き抜くとコードの端を壁の端末にくぼんでいる所に差し込んだ。すると、端末の画面が光り文字が現れ、次いでイラストが映し出された。

 サラは端末に映し出されたものを真剣な眼差しで見た。

(ここまではあってる。ルートは……次のエレベーターで最下層まで。ガーディアンは……!?)

 端末に映されたそれを見たサラの表情が凍りついた。

 端末にはガーディアンの位置情報が映し出されていたのだが、その内いくつかの表示がサラの近くにいた。その内の1つはすぐ近くまで来ていた。

 サラは急いで壁の端末からコードを抜くとその場から離れようとした。が、ガーディアン・ボールが現れ、サラの姿を捕らえた。

 サラはガーディアンの登場に後退りをした。

「きゃぁぁぁ!!」

 次の瞬間、ガーディアンがサラ目掛けて光線を放った。

 間一髪しゃがんだ事で避けられたが、急いで立ち上がるとその場から走り出した。

 背後からガーディアンが追ってくる恐怖を感じながらなんとしても目的を達成させなければならない。サラは今出しうる限りの力を振り絞り走った。


  * * *


 どこからか聞き覚えのある悲鳴の声にジンとホルスは調査の足を止めた。

「……なあ、今の悲鳴って……」

 分かっている。分かっているのだがそう呟かざるをえないホルスは振り絞って声に出した。

 だが、ジンから帰って来る答えは期待していない。いや、期待すら出来ないしさっきのセリフもジンの顔を見て話したわけではない。顔を見なくてもジンの様子が分かるからだ。何故なら、ジンから怒気が感じられるのだ。まだ殺気までいっていない事がありがたい。殺気が立っていたらホルスが何かいう前にジンが何かを言っていたはずである。

 そして、この状況で言われる言葉は限られている。

「何故あいつがここにいるんだ!!」

「おおい、待てよジン!?」

 大声で叫んだジンはホルスを置いて声の主がいるであろう元へ向けて走り出した。

 置いていかれたホルスは急いでジンの後を追いかけた。


 サラは必死にガーディアンから逃げていた。

 何故かダミーであったコロニーと違い長く走ってもいないのにすぐに息が切れてしまう。疲れが貯まってしまう。限界が近かった。

「きゃ!!」

 その時、走っていたサラの足がもつれ前のめりになった。背後から追うガーディアンはタイミングを見計らってか、サラに向けて光線を放った。


 サラの悲鳴を聞いて駆けつけたジンは倒れかけているサラを見つけると腕を掴み強引に引っ張りあげた。

 ドローンの光線は的がいなくなった事で空振りに終わり、変わりに銃の弾丸がドローンに命中した事で機能を停止してその場に落ちた。

 ジンは銃を握っている左手を下ろすと、何とか助ける事が出来たサラを睨み付けた。

 同時に、ジンの後を追いかけていたホルスもその場に到着した。

「ジンさん、あの、ありがとうござ……」

「何故ここにいるんだ?」

 お礼を言おうとしたサラだがジンの鋭い声に言葉を失った。

「言われたはずだ。ドローンが殺しにかかるから入るなと。お前もそれを分かっているはずなのに何故来た!!」

「こら!」

 怖い顔でサラを問い詰めるジンにホルスがライフルで軽く頭を叩いた。

「ジンがサラちゃん心配するのは分かるが、少し問い詰め過ぎじゃないか?」

 ホルスに言われるもジンはサラを睨み付けたままであった。

 その様に言ったホルスだが実際は驚いていた。まさかサラが異跡内部に入り込んで今まで無事である事が正直に言って信じられないのだ。そして、信じられない事がもう一つ。

「それよりも、何で俺達よりも先にいるんだ?」

 2人の調査ルートの先にサラがいたのだ。後を付いて来たのでは難しい。何らかの方法で2人よりも前にいたとしか考えられない。

「それは……」

 その質問にサラが答えようとした時だった。ジンとホルスに緊張感が走った。

 突然2人の様子が変わった事に気がついたサラだが声を発する前にジンにより掴まれていた腕ごと引き寄せらた。そして、壁際に隠れたその時、光線が床に当たる音が響いた。

「ホルス!」

「分かっている!」

 ジンの言葉に違う壁際に隠れていたホルスがライフルを手に握ると撃ってきたドローンに素早く狙いを付けて発泡した。

 ガシャーンという音が響いた後に何かが落ちる音も響いた。そして、また1発と銃声が響く。

 ジンは周辺にドローンがいないかを確かめていた。左手には銃が握られたまま、目視では今のところドローンの姿はない。

 サラは壁に付けられている端末を探していた。腕をしっかりと捕まれている為に大きな動きは出来ない。だが、幸いにして端末が近くにあった為に急いでコードを差し込み操作を始めた。

「右側からボール3体が接近中です!」

「右側って後か!?てか、ボールって!?それ何だ!?」

 サラの突然の言葉に前方のドローン全てを撃ち終えたホルスは自身の背後を見たがすぐさまサラの発言や手に何かを持っていた事に気づいて突っ込んだ。

 ジンはサラの特異性を知っている為に反応が薄い。

「えっ!?左からボール5体接近!どうして急に?」

 ドローンの接近を伝えるサラの言葉にジンとホルスは顔を見合わせるとそれぞれドローンの襲撃に備えて銃とライフルを構えた。

 そして、サラがどの様にして入ったのか、これからどうするのか決める為にこの場からの撤退を考えていた。

「ドローンがいない場所は分かるか?」

「すれ違わなければ前方をまっすぐ。2つ目の角を左に曲がれば……」

「すれ違うと考えた方がいいかもな」

 サラの言葉にホルスは呟くと指示を出した。

「俺が先に行く。サラちゃんは真ん中。ジンは殿を頼む」

 そう言うと通路へ駆け出した。次いでサラ、ジンと後に続いて駆け出した。


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