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 白い稲妻   作者: THIS
2/4

日常

さて・・白い稲妻の正体はだれでしょうか?



 

 時を止める事は決して出来ない。いくら止めようとしてもそれは砂時計の砂のようにさらさらと流れ去っていく。そして、時を止める事が出来ないから、この世のものは絶えず変化していく。

 

 変わらないものは決してなく、それを止める事は誰にも出来ない。

 

 それは何事にも捻じ曲げられない。


 

 眩い朝日。それが忠司の瞼に刺さるように照らしてくる。


「ただいま・・・。」


 苦痛にも思える朝日から顔を庇いながら、忠司は家に帰る。


「あら?遅かったのね。」


 それを出迎えたのは、エプロンをつけた女性である。ウエーブのかかったセミロングと穏やかな陽だまりのような雰囲気を持っていた。


 彼女の名前は清音。忠司の娘で今は大学に通っている。


「ああ・・。事件の後始末に時間がかかった。」


 疲れた様子の忠司は少しふらつきながらリビングへと向かう。重く、引きずるような足取りの父を清音は苦笑しながら眺める。


「お帰りなさい。父さん。」


 そこには先に朝食を食べている息子――慶がいた。顔立ちは整っているが、割とどこにでもいるようなおと

なしい高校一年生。誰よりも普通が似合う少年であった。


 しかし、慶は朝が弱く、寝起きが悪いので朝は比較的口数は少ない。朝食は彼にとってはエネルギー補充

というよりは、噛むことによって目を覚ますことに重きを置いている。


「・・・さっそくニュースでやっているか。」


 慶の視線の先にあるテレビのニュースに顔をしかめる忠司。そんな彼に清音は味噌汁を差し出す。忠司はそれを飲みながらニュースを見る。


 先の銀行立てこもり事件は裏に銀行を爆破させ、それで混乱している隙に逃走するという恐るべき計画があった。もしも、それが成功していたらかなりの死傷者が出ていた。


 だが・・その事件はある存在によって未然にも防がれた。


 謎のヒーロー「白い稲妻」の手によって・・・。


「・・・まったく、またやられたよ。」


 救出された人からの証言では、幽霊のようにその場に現れ、銃弾を素手で掴み取った。全身から電撃を放

射させた。目にも留まらぬ動きを見せた。縄を手刀で切った。そして、いつの間にかいなくなったことである。


 信じられない事かもしれないが、この中のいくつかは現場検証で実際にあったことが確認されている。


 この事件の後、忠司は銀行各地に仕掛けられた爆弾の処理など、事件の事後処理をするために徹夜する羽目になったのだ。


「にわかに、信じられないわね。」


「・・・そう・・だね。」


 何故か歯切れ悪そうに応える慶。


 清音がそれを横目で微笑みながら、朝食の味噌汁とご飯を置く。寝不足などで疲れているがお腹は空いているらしく、忠司はそれを次々と口にしていく。

 


やがて朝のニュースは芸能関係へと変わる。


「・・・・。」


 テレビに映る一人の歌手の姿を目にした慶が食事の手を止める。


 オリコンチャート一位「NATUME」と出ている彼女。


 大人びたファッションを纏い、美人だが、まだどこかにあどけなさの残る顔立ちをしていた。自然と惹か

れてしまう美声、そして心に深く響いていく歌唱力が彼女にはあった。


 歌っているのは、「タンポポ」と言うタイトルの春を題材にした歌。痛いくらい寒々とした冬を乗り切り、春を喜び咲き誇る歌。それを恋愛に例えて彼女は歌っていた。苦難を乗り越えた者達だけが結べる絆。


 慶はテレビで歌っている彼女の姿に見惚れ、そして彼女の歌に聞き入っていた。


「棗ちゃん、ホントに綺麗になったわね。」


 清音はそんな慶の様子に苦笑していた。


「・・・うん。」


 その言葉に、何故か慶は少し寂しさの感じる笑みを口元に浮かべていた。眩しい彼女を見たいけど、見ているのがすこし辛いような、そんな目を彼はしていた。


「ねえ。もうそろそろ学校にいかなくてもいいの?」


 呆けている慶に清音は一発で現実に引き戻すキーワードを口にしてあげた。


「あっ、そうだね。」


 テレビの画面に映っている時間を目にした慶に急いで残っている朝食を口にする。先ほどまで寝ぼけなが

ら、ゆっくりと食べていたのとは断然違う。瞬く間に朝食を食べ終わると、慶は鞄を手にリビングを後にしていく。


「行ってきます!」


 慌てて玄関に向かう慶の後姿を忠司はじっと見ていた。父親も彼の態度に気づいていた。


「・・・あいつももうそんな歳になったのだな。」


 忠司の口から自然と漏れたのは、自分の息子の微笑ましい変化。


「そうよね。結構見ているほうからしたら、もどかしいくらいだわ。」


 そんな父よりもかなり早くに気付いていた清音は少し澄ました顔で応えていた。




 窓辺から朝日が差し込む中、編集長はとある新聞をじっと見ていた。


 それは月をバックにビルの合間を飛び越えていく白い稲妻を捉えた写真。凄まじいスピードで飛んでいる

事を後ろに靡くマフラーが教えてくれる。一面とはいかないが、それでも新聞の一覧を立派に飾っていた。


「・・・よく撮れたものだな。」


 机の前にいるのはその写真を取った男――山本祐司であった。


 祐司は生体兵器関連の事件、特に白い稲妻に関わりのある事件を追っていた。


「それはもう。彼の逃走経路も幾らか検討はついていますので。」


 白い稲妻。圧倒的な戦闘力を持ち、電撃を放射することから生体兵器であると推測されている事以外は何

もわかっていない謎の存在である。その名は全身を覆う白いラバースーツに稲妻のごとき彼の動きと戦い方から警察関係者がつけたものだという。


 その行動目的も不明。身長、体重などの身体のデータも何故か取れなく、全くといっていいほど謎であった。だが、彼の行動は多くの人を助けていることは事実で、彼は謎のヒーローとして世間をにぎわせてい

た。


「それで、今後も彼の取材を続けていくつもりなのか?」


「もちろんです。」


 編集長の言葉に力強く即答する祐司。


「彼の取材・・是非、今後も私に任せてください!」


 編集長の机を思わず叩きつけてしまっていることなど気付かない祐司。だが・・・その行動は日常茶飯事


なので、周りはそれほど驚かなかった。




「おっ、おはようございます!」


 居眠りしていた部下の一人が忠司に気付き、椅子から飛び跳ねるように飛び起きる。


「・・・もうおはようといえる時間じゃないだろう。」


 苦笑しながらも、忠司は席につく。徹夜明けで一端家に帰り、仮眠をとってからの出勤である。日はすで

に上がりきっている。


 彼の所属している警察庁の刑事課でも、昨日事件の疲れが残っている者が多く、先ほどの彼のように居眠りをしているものさえいた。


 そんな者達にあくびをかみ殺しながら、苦笑する忠司。


 そんな彼に部下の一人がコーヒーを持ってきてくれた。忠司は軽く礼を言いつつ、それを口にする。コー

ヒー特有の苦味と覚醒作用のあるカフェインが眠気をごまかしてくれる。


「そう言えば、高野警視聞きましたか?新しく警察省内に対生体兵器犯罪の対策部署が出来るという話を?」


「ああ・・・。話には聞いている。」


 多発する生体兵器や超能力者による犯罪。それは一般人が起こす犯罪とは比較にならないほどの被害を出

している。そのために、その対策部署の設立が持ち上がってきたのだ。


「それが、いよいよこの庁内に試験的に導入されるみたいですよ。」


「・・・なんだと?」


「うわさでは、生体兵器が何体かやってくるみたいです。」


 都内で多く起こっている生体兵器、および超能力者の犯罪。その事件の多くに関わっている謎の生体兵器がいる。


「白い稲妻のおかげというわけか・・。」


 生体兵器や超能力者の犯罪の解決に、彼は多大な貢献をしている。しかし、正体も目的もしれない謎の存在に頼っているわけにはいかない。そのために、警察内でも自力で迅速に解決するため、そして万が一の時

には高い戦闘能力を持つと思われる白い稲妻に対抗するための戦力として、この部署を立ち上げる案が持ち上がっていたのだ。


「その隊長となる人が明日来るみたいです。生体兵器らしいですけど・・・それなりに優秀だと聞いていますよ。」


「それはまあ・・楽しみだな。こっちも色々とお世話になりそうだし、挨拶くらいはしておくか。」


 忠司はそっけなく応えてコーヒーを再び口にする。


 その時の忠志は、思いもしなかっただろう。まさかその部署とその隊長が自分に関わりのある人で、後の事件で色々と深く関わってくるなどとは。




 授業終了のチャイムが鳴り、先生が授業の終わりを告げる。待ちに待った昼休みの到来に、教室はすぐににぎやかになる。各々席に立ち、たわいのない会話を始める。


 だが、その中で慶はただ一人席に着き、黙々とノートにペンを走らせていた。


「おーい。慶、まだノート書いているか?」


 

 そんな慶に話しかけてくる一人の少年。狼を思わせる堀の深い顔立ち。肩まで届く位の長い髪を後ろで束ね、どことなくワイルドな雰囲気を出している。しかし、その顔に浮かべる表情は人懐っこく、どことなくお調子者の雰囲気をかもし出している。


「猛、ごめん。もうすぐ終わるから。」


 慶は自分のノートを見ながら、もう一つのノートに写している。几帳面な彼の性格を反映しているのか、

写している内容は事細かで、なおかつわかりやすく整理して、しかも驚くほど早い速度で書かれている。


「本当にけなげな奴だな・・・。」


 少年-―猛は慶が誰のためにノートを写しているのか良く知っていた。


「まったくだ。」


 猛の隣には、髪を短く切った少年――健二が立っていた。少し背は低いが顔立ちはどことなく大人びている。性格も見た目に違わず、色々としっかりとしており、学級委員と生徒会の役員を務めている。


「愛しの彼女のためか。本当に泣けるね。」


「いっ・・愛しのって・・。」


 猛の発言に顔を真っ赤にさせる慶。とっさに言葉を口にしようとするが、舌がもつれるのか、まったく言葉にならない。


「何も言うな。俺達は良く知っている。お前の想いは誰よりもな。」


「正確には、このクラス全員が知っていることだが。」


 面白そうに慶をからかう猛とそれに突っ込みをいれる健二。


 しかし、その突っ込みはさらに慶の真っ赤な顔を赤らめるだけであった。


 調子に乗って慶の肩に腕を乗せる猛。


「まあまあ、相談ならいつでも乗ってやるぞ。色々と・・・・ながっ!?」


 その彼の側頭部に見事な上段回し蹴りが決まる。


「・・・・・。」


 崩れ落ちていく猛。だが、慶も健二もその光景を見ても特別に驚くことはしなかった。


 ただ・・・「またか」といわんばかりのため息をつくだけであった。


「まったく、馬鹿な事をしているのよ!」


 そして、その蹴りを放った女子が仁王立ちで崩れ落ちた猛を見下ろしていた。


 活発さを意識したショートカットの髪、そしておてんばという言葉すらも優しいくらいの過激な迫力が彼

女――若菜にはあった。


「それはこっちの台詞だ!」


 ダウンから直ぐに復活した猛。常人を遥かに超えた頑丈さである。


「何でお前はいちいち俺を止めるのに蹴りなんか使うんだよ!しかも手加減なしの半端じゃないのをな!あ

んなもん、いちいち食らっていたらこっちの首がいかれてしまうわ!」


「あら?あんたは無駄に打たれ強いから、これくらいがちょうどいいと思ったんだけど?」


 ちなみに若菜は少林寺拳法部に所属しており、その蹴りの破壊力と精度は一年にして男女あわせて部内で一番だといわれている。


「まったく、この暴力女!お前のあいさつは蹴りだけか!?」

 なんですって!?だいたいあんたわね・・・・!」

 

そして、若菜と猛は派手な口げんかを始める。しかし、クラスの皆はそんな二人の口論など気にも留めていない。


「何度も良く飽きませんよね。」


 そんな二人をよそに一人の女子が微笑ましい笑顔で歩いてくる。長い黒髪に、陽だまりの下にいるかのような穏やかな笑顔が似合う彼女――のどかはさらりと言う。


「二人は放っておいてご飯にしませんか?夫婦喧嘩は犬も食わないといいますから。」


『誰が夫婦喧嘩だ!』


 のどかの発言に、異口同音で反論する猛と若菜。その息のぴったりとした仕草に周囲からは失笑が漏れ

る。


「まったく、あんた達も良くやるわね。」


 笑いを堪えながら話しかけてくるのは、眼鏡をつけた少女――スミレであった。ポニーテールで大人びた背

の高い彼女。ざっくばらんな発言が目立つが、皆からは頼れる姉御として慕われる。もっとも、彼女からし

たら、同い年なのに姉御は止めて欲しいらしいが。


「それば僕も同感。」


「あんたも人のことは言えないけどね。結構良く書けているじゃないの。さすが・・愛がこもっていると違

うわ。」


「すっ・・スミレさんまで・・・。」


 慶は顔を赤らめながら慌ててノートを閉じる。


「まあ・・色々と一区切りついたみたいですから、お昼にしましょうよ。」


 微笑むのどかの言葉に、猛と若菜は互いにそっぽを向く。


 そんな彼らを見て、スミレと健二は視線を交わし、苦笑しながら肩を竦める。


 そんな光景に、慶は楽しそうに机を動かし始める。


 それは慶にとっては、かけがえのない一時であった。




 大学の帰り道。清音の手には夕食の買い物の食材が入ったバッグ。大学の帰りに買う習慣がついていたので、ビニール袋の要らない買い物バッグをいつも持っていくようにしていたのだ。


「・・・よし、こんなものでいいかな?」


 彼女が家事をするようになってからもう五年になろうとしている。亡くなった母の変わりに忙しい父とまだどこか頼りない弟を支えていた。


 帰り道に腕を組み、肩を寄せ合って歩くカップルが目に入ってくる。


 清音は大学の友達から言われた言葉が脳裏によみがえる。


――――あんた・・・どうして、彼氏作らないの?


 大学に通い始めてから二年目。彼女の知り合い中では付き合い始めているものもチラホラ現れてきた。


 美人でおしとやかな清音はかなり多くの男から交際を申し込まれていた。だが、清音はそれをすべて断っ

てしまっている。友達にその理由を不意に聞かれてしまったのだ。


「どうして・・・って言われてもね。」


 清音はため息混じりにつぶやく。


 恋愛に興味がないというわけではない。しかし、中々出来ない理由として、彼女にはそれにたる相手がま

だ見つからなかったのだ。


 少しばかり理想が高いのがある。彼女の父である忠司は立派な父親で、そして優秀な刑事でもあった。異性を見るときどうしてもその忠司を基準に見てしまうところがあったのだ。忠司と並ぶくらいの男性が中々いないのだ。


 そして、実は彼女には誰にも言えない交際を断る理由がもう一つあったのだ。


――――これじゃあ・・ねえ。


 その理由にため息をつく清音の目に一人の子供の姿を捉える。


「・・・あっ?」


 その子供は転がるボールを追いかけて、道路に飛び出してきたのだ。その子供にむかって一台の車が突っ込んでくる。子供はその車にまだ気付いていない。


「・・・!!」

 

 考えるよりも先に清音の足は動き出していた。買い物バックを放り出し、高鳴る心臓の鼓動がゆっくりと聞こえる。一歩、また一歩、アスファルトを蹴るように足をひたすら前に出す。側にたどり着くと、その子供を突き飛ばすようにそこに飛び込んで行った。

 

 そして、そこに割り込む影。


「・・・・!?」


 それは信じられない速度で道を駆け、すれ違い様に清音と子供を両腕で掬い取るように抱えていったのだ。

 

 車が清音の髪を掠めるように通り過ぎ、そして止まる。


「・・・・ふう。危なかった。」

 

 清音と子供を抱きかかえた男は二人の無事を確かめ、緊張を解いていく。

 

 短く整えた髪。そして精悍な顔をした青年であった。歳の頃は二十代半ばくらいだろうか。スーツの上に黒いロングコートを羽織った長身痩躯の男。だが、子供と女性とはいえ、それぞれ片手で軽々抱えるほどの力を彼は持っていた。


 男は二人を下ろすとしゃがんで子供と目線を合わせていった。


「道を渡る時はちゃんと左右を確認しろよ。」


 その笑顔は無邪気なものであった。突然のことに戸惑い、泣きそうになっていた子供がそれを見て笑顔を取り戻す。


「よし。笑ったな。その笑顔のままで遊んで来い。友達も待っているぞ。」


 そして、男は子供が追いかけていたボールを手渡してやる。子供はそれを手にして公園へと戻っていく。男は手を振りながらそれを見送る。


 そして男の視線は清音に移る。


「ほら・・。忘れ物だ。」


「あっ・・・・。」


 男の手には清音の買い物バッグ。それは子供を助けようとして放り出したものだ。


「卵も無事だ。安心しろよ。」


「はっ・・はい・・。」


 予想もしていなかった男の行為に驚きながらも買い物バッグを受け取る清音。


 驚く清音を見て今度は穏やかな笑みを男は浮かべる。


「じゃあな。あんまり無茶はするなよ。」


 そして男は何事もなかったかのようにその場から去っていく。


 清音は去り行くその背中を見えなくなるまでじっと、眺めていた。


 彼女の目にはその背が不思議な位大きく、そして頼もしく見えてしまった。



 続いて続きを投稿してみました!!ここからあと一話連続で投稿する予定です。

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