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異世界帰りのおばさん、猫を飼う。2

作者: 猫野沙子
掲載日:2026/07/05

異世界帰りのおばさん・ひとみは謎の白猫の瑠璃と暮らしています。そんなひとみが、本物の猫を飼うことに。ひとみと瑠璃と子猫のほのぼのなお話です。



最初のお話は下記リンクからお読みいただけます。

異世界帰りのおばさん、猫を飼う。

https://ncode.syosetu.com/n3214mg/

 ひとみが会社に出勤すると、子猫の鳴き声が聞こえた。少し早足で事務室に入ると、床に段ボールが鎮座しており、その前に困った顔の若手の男の子が立っていた。

「おはよう。どうしたの?」

 ひとみはそわそわ落ち着かない気持ちを堪えて、何でもないように声をかけた。

「おはようございます!いや、何か、野良猫の子猫が家に迷い込んじゃって。一晩知らないふりしてたんですけど、母猫来なくて」

 ひとみは段ボールを覗き込んだ。黒色の子猫が鳴き声を上げている。

「お腹空いてるみたいね」

「分かるんすか?」

「え?うん。この鳴き方はお腹空いてるね」

「まだ店開いてないすよね?」

「そうね」

「ところで、ひとみさん、この猫飼いません?」

「え?」

「絶対猫好きっすよね?」

ひとみは、段ボールの中の子猫を見て、若手のニヤついた顔を見た。そして、ある種の敗北感を味わいながらも、自分の顔がニヤける顔を押さえきれずに子猫を飼うことにした。


 ひとまず、ひとみは上司の許可をもらって会社から一番近いホームセンターで猫を飼うのに必要なものを必要最低限買って来た。

 会社に帰ると、段ボールの周りには、猫を押し付けられる心配がなくなった事もあり、会社の上司や同僚が子猫を堪能しているところだった。

 ひとみは脱力しつつ、手慣れた様子で猫缶をあけて、お皿に出してやると、子猫を片手で保持しながら、スプーンで餌をすくって顔の前に持っていってあげた。

 子猫は食べ物だと分かると、顔から突っ込む勢いで餌を食べた。

「よっぽどお腹空いてたのね」

「うわあ、可愛い」

ほのぼのした空気の中、前足を空中でふみふみさせながらご飯を食べるしぐさで、周囲をメロメロにした子猫は、猫缶を完食すると満足げにペロペロとぎこちなく毛づくろいをした。

「とりあえず、ご飯食べたし大丈夫そうね」

「可愛いっすねぇ」

「あなたが飼ってもよかったのよ?」

「うち、親父がダメなんすよ」

「そうなの」

 ひとみはペットボトルにお湯を入れてタオルで巻いて、簡易湯たんぽを作って段ボールに入れてあげた。

「なんで湯たんぽなんすか?」

「子猫って体温調節がまだうまくできないのよ。これは母猫の体温の代わり。抱っこしたまま仕事するわけにいかないし」

若手はうんうん頷いて納得した。


 会社から帰る時は、若手が子猫が入った段ボールを持ってくれて、ひとみの車に積んでくれた。

「ありがとう。助かったわ」

「いえいえ。お前、元気に暮らせよ」

子猫をひと撫でして、若手は会社に戻った。まだ仕事があるらしい。

 ひとみは車を走らせながら、

(瑠璃、どんな反応をするかしら?)

と、家で待つ謎の白猫の瑠璃を思いつつ、少々不安な気持ちで子猫を家に連れ帰った。



 ひとみは玄関のカギを開けて、ちょっと深呼吸してから、子猫が入った段ボールを抱えてドアを開けた。ドアを開けた先には、いつも通り瑠璃が待っていた。

「ただいま、瑠璃。実はね……」

ひとみは抱えた段ボールを瑠璃の前に置いた。瑠璃は体長が1メートル程あるため、座っていても段ボールの中をのぞき込むのに支障はなかった。

 ひとみが固唾を飲んで見守っていると、瑠璃は子猫に顔を近づけて匂いを嗅いでいるようだ。

「ニー」

と小さく子猫が鳴いた。瑠璃は顔を上げてコチラを半眼で見て、小さく鼻を鳴らすと、もう一度子猫に顔を近づけて、ぺろりと子猫を舐めた。瑠璃は子猫を受け入れたようだと、ひとみはホッとした。

「会社の子がね、今朝、この子猫()を持ってきたの。うちで飼うことにしたから、よろしくね」

 ひとみは瑠璃の頭を撫でながら、経緯を話した。瑠璃が本当はどんな存在なのかひとみには分からない。けれど、ひとみが話す言葉を理解しているのは何となく分かる。だから、ひとみは猫に話しかけると言うよりも”同居人”に話しかけるように話すのだ。

「じゃあ、リビングに行こう」

 ひとみは再び段ボールを抱えて瑠璃と一緒にリビングに入ると、ソファの側に段ボールを置いた。瑠璃はソファに悠然と寝そべる。

「子猫のもの買ってきたから、車から降ろしてくるわ。子猫、ちょっと見ててね」

「ニャ」

 瑠璃はソファの上から段ボールを覗き込んで、子猫を見ている。子猫は瑠璃が気になるようで「ニーッ、ニーッ」と上を見て鳴いている。ひとみはもう尊くて、顔をニヤけさせながら、車から荷物を降ろしたのだった。


 ひとみはようやく自分の夕食を済ませると、瑠璃に、

「この()の名前を決めましょう」

と言って、段ボールを覗き込んだ。段ボールには小さな箱に猫砂を入れたトイレと、ペット用の毛布が入れられている。

 子猫は長毛種で、子猫特有のふわっとした毛並みだ。ご飯を食べて、朝よりだいぶ元気になった。今も箱の外が気になるのか、段ボールの縁に手をかけようと頑張っている。

 瑠璃は、今夜はソファから離れずに段ボールを気にしていた。ひとみが子猫を段ボールから出すと、瑠璃は落ち着かなそうに尻尾を揺らしている。

「ほら、可愛いでしょう?」

 ひとみが瑠璃の傍らに子猫を置いてやると、子猫は瑠璃の匂いを嗅いで、瑠璃のお腹をふみふみし始めた。

「ふふっ。瑠璃、随分懐かれたわね」

ひとみはそう言って子猫を瑠璃に任せて、いくつかの子猫の名前候補をメモ用紙に1枚ずつ書いた。



 瑠璃の前に並べてみせる。

「どれがいいと思う?」

 瑠璃はいつの間にか瑠璃の尻尾に興味津々な子猫の顔をちらりと見た。子猫の目の色はキトンブルーからだいぶ変化していて、多分、金色になるだろうと言う色合いだった。

 瑠璃はじっとひとみの顔を見て、前足を”朧”と書いた紙に乗せた。ひとみは瑠璃に頷いて見せると、子猫を抱き上げて、子猫に目を合わせると、

「君は今日から”朧”よ。略称はおーちゃんね。こっちは瑠璃。るーちゃんよ。私はひとみ。おーちゃん、これからよろしくね」

”朧”と呼ばれた子猫は、名付けられた事も、”家族”に紹介されたこともよく分からないまま、遊びたいともがいていた。



 ひとみは朧を連れ帰った次の日、半休をとって朧を動物病院に連れて行った。”鑑定”で結膜炎と栄養不良と出たが、野良猫の子だから想定内だ。もしかしたら”回復魔法”で治るかもしれないが、動物病院で診てもらった方がひとみ的には安心だった。


 動物病院から朧の目薬を貰って家に帰ると、瑠璃がいつものように玄関で待っていた。何処となくそわそわしている様に見えた。

「瑠璃、朧はまだ小さいし、病院でも今日は痛いことされてないから平気そうだったわ。じゃあ、私が会社行ってる間、朧の事頼むわね。行ってきます」

 ひとみ会社に向かいつつ、瑠璃は映らない可能性が高いけれど、ひとみがいない間の朧を見るためにペットカメラを買おうと思った。



 ひとみはネット注文したペットカメラが届いたので、早速設置してスマホで映像を確認してみる。

「おお、結構きれいに映るのねえ。あ、やっぱりるーちゃんは映らないわね。おーちゃんは……大丈夫ね!ま、おーちゃんは普通の猫だしね」

 瑠璃とおぼしき白く発光する物体は時折映るものの、瑠璃の姿は映らない。その代わり、朧がちょこまかと動く姿がきれいに映っているので大満足だ。

 瑠璃の顔の前にスマホを差し出すと、瑠璃は不思議そうな顔をして首を傾げて、ひとみを見た。

「ほら、あれよ。ペットカメラ。リアルタイムで映ってるのよ」

ふふふ、と瞳は笑いながら瑠璃に教えて、

「防犯にもなるしね。四六時中見てるわけじゃないから、気にしないで」

と言って、瑠璃の頭を撫でてやると、今度は朧と猫じゃらしで遊び始めたのだった。


 瑠璃はひとみが朧と遊ぶのを、キャットウォークの上から見下ろしていた。朧は身体能力が高い方ではない。ひとみは手加減しつつ、朧が追いかけて捕まえられるように調整しながら遊んでいるのをじっと見ていた。やがて、朧が寝落ちすると、ひとみはニコニコしながら朧を優しく撫でるのを見て、そっと下に降りたのだった。



 ある日の休日。瑠璃と朧が窓辺で仲良く寝ている。朧が来てからひと月ほど経っていた。

 朧は日々順調に体重が増え、毛艶も良くなった。結膜炎も治り、健康である。ワクチンも打ってもらい、来週は2回目のワクチン接種だ。

 ひとみはスケッチブックに、瑠璃と朧の線描画を描いていた。ひとみに絵心はないが、”CADオペ”スキルを使えばリアルな線描画が描けるのだ。せっかくのスキルを無駄遣いしてる気もしなくはないが、瑠璃の姿を残す方法として、ひとみはよく描いている。

(また画集作っちゃおうかな)

 ひとみは一度、画集を自費で作った。それを友人が売ってくれて、案外好評だった。注文しすぎたと思った50冊は売り切れて、また追加発注したのだ。

 ひとみはすやすや寝ている2匹をほほえましく見て、描き終わったスケッチブックをそっと閉じたのだった。



 我はふと、ひとみがそっと部屋を出る気配で目が覚めた。我の傍らには朧が腹を見せてぐっすり寝ている。

 また我の絵姿でも描いていたのだろう。もしかしたら、朧も描いているかもしれぬ。朧の緩やかに上下する腹に、我が鼻を擦り付けると、朧は煩わしそうにくるりと丸まった。

 

 朧はひとみが前触れなく連れてきた猫だ。まだ幼い。それゆえ、我の神威に馴染んでしまうかもしれぬ。それが良いか悪いかは、まだ我にも分からぬ。

 ただ、今は幼きこの朧がひとみが望むように、我もまた朧が健やかに育てばよいと考えている。


 

 



最後まで読んでくださり、ありがとうございます。



ご興味があれば、ひとみの異世界物語は下記リンクからからお読みいただけます。


おばさん、異世界召喚に巻き込まれる。

https://ncode.syosetu.com/n9795mf/


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