ゴブリン
おいらは、ただのゴブリンだ。
器量は悪いし、背はちんちくりん。人間さまから見りゃ「薄汚い化け物」の一言で片付けられちまう、吹けば飛ぶような端役だよ。
でもよ、この暗い城の隅っこで、旦那……いや、「魔王陛下」の背中をずっと見てきた。
あの方が、人間たちの言うような「血も涙もない怪物」だって? 笑わせんじゃねえ。
あの方はね、もともと人間だったんだ。それも、お天道様みたいに眩しい、立派な騎士様だった。
だけどよ、人間ってのは勝手なもんだ。腹が減ってりゃ「助けてくれ」と泣きつき、腹が膨れりゃ「あいつの力が怖え」と石を投げる。挙句の果てに、あの方の優しさを「弱み」だと思って、汚い罪を全部なすりつけやがった。
行き場をなくしたあの方を拾ったのは、おいらたち「はみ出し者」の方だったのさ。
あの方は、おいらたちのために「魔王」っていう、一番嫌われなきゃならない役を引き受けたんだ。
「お前たちが安心して暮らせる場所を作るには、私が世界中の憎しみを背負うのが一番手っ取り早い」
そう言って笑った顔は、今でも忘れられねえ。
あの方が暴君を演じれば演じるほど、人間たちは団結しやがる。
あちら側じゃ、今頃「勇者」ってガキを担ぎ上げて、正義の軍団だなんだって気勢を上げてるらしい。あいつら、自分たちがどれだけ残酷なことをしてるか、これっぽっちも気づいちゃいねえんだ。
人間さまにとっちゃ、平和を取り戻すのが正義なんだろう。
だけど、おいらにとっちゃ、雨風を凌げるこの城を守ってくれた旦那こそが、たった一つの正義なんだよ。
……あ、いけねえ。入り口の方が騒がしくなってきた。
あのピカピカの鎧を着た勇者様のお出ましだ。あいつ、正義の顔して、この世で一番優しい男を殺しに来やがった。
旦那は、奥の部屋で静かに待ってる。
おいらは逃げねえよ。
剣なんて使えねえし、魔法も打てねえ。だけど、せめてこのボロ布みたいな体で、あいつの行く手を一瞬でも邪魔してやるんだ。
あいつらに「正義」があるってんなら、おいらにだって、譲れねえ「筋」ってもんがある。
悪党の部下が、最後にちょっとだけ意地を見せる。
……それも、物語の隅っこには、あってもいいだろ?




