魔王
玉座に深く腰掛け、重い冠を外したとき、ようやく私は一人の男に戻る。
外では、勇者一行が私の首を狙って、血気に逸った声を上げている。
彼らにとって、私は「諸悪の根源」であり、打ち倒すべき「絶対的な悪」だ。
だが、彼らは知る由もない。
この魔王という椅子が、かつては彼らと同じ「正義の騎士」が座っていた場所だということを。
かつて、私も人々のために剣を振るった。
飢えを救い、盗賊を追い払い、秩序を守った。その時、人々は私を聖者と呼び、崇めた。だが、平和が長く続くと、人々は私の持つ「強すぎる力」に怯え始めた。
「彼がいれば安全だが、もし彼が牙を剥いたら、誰が止めるのか?」
その疑念は、やがて毒のように広がり、私はいつしか「正義の味方」から「管理されるべき怪物」へと格下げされた。
守っていたはずの手で、守るべき人々から石を投げられたとき、私は悟った。
この世界には、常に「憎むべき対象」が必要なのだ。
誰かを悪に仕立て上げなければ、彼らは自分たちが善人であることを証明できない。
だから私は、彼らの望む通りの「魔王」になった。
彼らが一致団結し、互いを信じ、輝かしい正義を語るための、巨大な標的。
私が暴君であればあるほど、彼らは手を取り合い、清らかな勇者を育むことができる。
扉が撥ね退けられ、光の中に若い勇者が立つ。
その真っ直ぐな、一点の曇りもない瞳。かつての私と同じ、救いようのないほど純粋な「正義」がそこにある。
「お前を倒し、世界を救う!」
勇者の叫びを聞きながら、私は静かに立ち上がる。
可哀想に。お前が私を討ち果たしたその瞬間から、今度はお前が「次の魔王」になるためのカウントダウンが始まるのだとも知らずに。
さあ、剣を抜け。
私の死という「正義」を、この無慈悲な世界に差し出してやろう。




