12-その先へ
「ふーん、バットエンドってそういう意味だったんだ」
マーガレットは自室のベットに寝そべると、ずっと疑問に思っていたバットエンドの意味を噛み締めていた。
「怒りませんの?」
明日香は姿が見えていないにも関わらず、マーガレットを正面から律儀に見据えた。その表情はどこか不安そうである。
「そんな事で怒らないよ。だってもうエクリプスの知ってるゲームとも話が変わっちゃってるんでしょ?だったらこの先、私が孤独な人生を送るかなんて分からないじゃん」
「ポジティブ思考もそこまでいけば大したものですわ。ともかく、私が隠してきたことは全部話しました。後は煮るなり焼くなり好きになさい」
「だから怒ってないって!それより、アリエンヌさんのことは本当なの?」
「………。」
イカロスを倒したマーガレットは、倒壊寸前の『イカロスの塔』から気絶したアリエンヌを連れて脱出した。残してきた3人が気がかりではあったが、探しに行く余裕もなかったので、仕方なくといったところだ。
その時、アリエンヌの首元に不思議な石が埋め込まれているのに気がついた。思わず「嘘………」と呟いてしまったその石の正体を、明日香はゲームを通して知っている。
「そう、あれは魔族の証です」
「魔族っておとぎ話の存在じゃなかったんだ」
「残念ながら。本来なら、アリエンヌにあれが埋め込まれているはずがないのですけど………」
こんな時、側に理沙がいないことが悔やまれる。気絶したアリエンヌを学園の関係者に引き渡す時に、レイ・フラッシュもついでに手放していた。
名残惜しくないと言えば嘘になるが、マーガレットにこれ以上の負担を強いる訳にもいかない。また会える事を信じて、一時の別れを受け入れた。
「よくない事なんだよね?」
「………私には分かりません。アリエンヌを完全な魔族にさせないため、今まで策を練ってきましたけど、証がすでにある以上、いずれ廃れる定めに彼女はあります」
「なら助けなきゃ!」
「!?」
明日香は面食らう。予想外の提案に理解が追いついていないのだ。確かにこれから彼女助ける手立てはあるかもしれない。だがその方法はゲームの中には無かった。
少なくともあの証がついてしまったアリエンヌは、どのルートでも最後に暴走してしまう。それをルートごとの攻略キャラと倒すのがお約束なのだ。
「無理です」
「へえ、エクリプスにしては珍しく弱気な発言だね。私なら絶対に諦めないけどな」
「な!?」
分かりやすい煽り文句。普段の明日香なら軽く流していただろうが、先の特別授業での失態が尾を引いていた彼女には効果抜群だった。
「あなたは何にも分かっていませんわ!ゲームでアリエンヌがやられる度に、私がどれだけ苦悩したことか。試せることは全て試しましたし、願いの絵馬まで使いました。これ以上私に、何ができるというの………」
「でもそれって、ゲームの話なんでしょ?」
「!!?」
頭をハンマーで殴られたような衝撃を、明日香は感じずにはいられない。マーガレットの言うとおり、これまで試したことは全てゲームに則ったやり方だ。
でも実際はどうだろう。ゲームの通りだったことの方が少ない気さえしている。
「ふふ、私は重大な事を見落としていました。私の行動は確かに物語影響を与える事ができている。初めは物語を準えない事が嫌でしたけど、裏を返せば私の行動によっては何だって可能になるということ!何でそんな簡単なことに気がつかなかったのかしら」
再び希望を見出した明日香の表情は明るい。
「ようやく前向きになってくれた」
「おバカな人。私がその気になったということは、これからもあなたをこき使うということですわ」
「望むところよ。何たって私は魔剣エクリプスの剣士だもの。ちょっとやそっとじゃへこたれない!」
「ほんと、あなたのそういうところが………私は大っ嫌いですわ」
辛辣な物言いをマーガレットは華麗にスルーする。姿は見えなくとも、エクリプスが笑っているような気がしたからだ。
こうして、一本と一人の物語は続くのだった。