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お泊まり大歓迎


「あ、戻ってきた」

「わかりやすく落ち込んでやがる。ダメだったか」

「フェリツェ」


 マリスとディックが打ち込み稽古から戻ってきた頃、フェリツェも肩を落としながら帰ってきた。

 俺は肩に疲れ果てたアウモを抱き上げ、お昼寝できるように背中を軽くトントンと叩く。

 ぷすすぅ、ぷすすぅ、という寝息が聴こえてきた頃、ようやく俺たちの前にフェリツェが辿り着いた。


「どうだった?」

「今からお金を用意するから、ベッドを買いに行くのは明日にしろ、と」

「「むしろガチ」」

「うん……。いや、最初は木工職人を呼び出すとか言い出したから、自分たちが使わせていただいているものなので、ってお断りして、なんとか騎士団の経費からお金を出すって話に落ち着けたっていうか」

「ああ、貴族はそうやって家具を発注するからな……そっちかぁ」


 とディックが俺の顔を見上げる。

 今日のデートは無理そうだな、と言いたげに眉尻を下げていた。

 気を遣ってくれたのに、申し訳ない。


「それで、あの……副団長が、今夜はエリウスの家に泊めてもらえって……」

「へぁ!?」


 しかし、次の瞬間の発言に変な声が出た。

 お、俺の家!? ……俺家ぇ!?

 

「ごめん、やっぱり無理だよな! ベッドは真っ二つだけど、なんとか補強して寝るから!」

「いや、大丈夫! なにも問題ないよ! むしろぜひそうしよう! すぐに家の者に連絡して準備させるから! 待ってて、絶対今夜うちに泊まって! 大丈夫だから! 食事も用意するから! なにか食べたいものがあったら言って! あ、アウモの食べるものも用意させるし! なんならそのままずっとうちに住んでもらってもいいし……!」

「いやいや、さすがにそこまで面倒を見てもらいたくはない!」

 

 スパッとお断りされて「ですよね」とちょっと落ち込んだ。

 一秒も考えてくれなかったかぁ……。

 いや、わかっていたことだ。フェリツェは自立した大人の男だ。

 孤児院から出たら、自立して生活する――そのために孤児院にいるうちに自活のために手に職をつけるための努力をするのだ。

 文字の読み書きを後回しにするのは、そういう理由。

 フェリツェは孤児院にお金を出してくれているのが国だから、国への恩返しも兼ねて社会貢献できる騎士団に入団したと言っていた。

 騎士団なら衣食住が保証されているのも大きい。

 わかっていた。

 アウモのことはフェリツェの手に負えないが、きっと生活については俺を絶対頼らないだろうなって。

 そんなところが堪らなくかっこよくて、尊敬している。

 まあ、でもベッドが届くまで宿を提供するのはまったく問題ない。

 どうぞ気兼ねなく我が家を使ってほしい。

 ゲストルームは三つもあるし、アウモが暴れても…………いや、アウモが壊すとちょっと……まずい値段のものが多いな?

 まずい、アウモも泊まるゲストルームの調度品や家具は移動してもらおう。


「っていうか、迷惑だろうし本当に気にしなくていいよ? 副団長もなんだかニヤニヤ笑いながら含みのある言い方で提案してきて……怪しい」

「そ、それは……」

 

 まさか普段から一緒にいるマリスとディック以外にも――副団長にも俺がフェリツェを好きだとバレている……!?

 ま、まさか、まさかだよね!?


「じゃあ、今夜はエリウスの屋敷に泊めてもらって明日は朝からエリウスとデートか。いいんじゃないか? アウモは人混みにまだ慣れていないだろうから、騎士団に預けに来いよ」

「「デッ……!?」」

「あ、わり。ベッドを買いに行くんだったな。でもせっかくだから、他にも必要なものをリストアップしておいた方がいいんじゃないか?」


 ディックに提案されて、フェリツェと視線を交わす。

 デート、という単語にフェリツェと共にドギマギしてしまったけれど、確かに……アウモの世話をするのに必要なものがある。

 それは主に食器。

 アウモが力任せに踏みつけて木皿が割れたりして、元々そんなに多くなかった数が減ってしまった。

 次に絨毯。

 アウモが走り回るので床が傷だらけになっている。

 まあ、塔は元々床も傷んでいたから傷が増えるのは……とも思うのだが、石の床にアウモが滑って転んで余計に暴れることがあった。

 大きめの絨毯を敷いて床の傷を減らし、アウモが転ばないようにしたい。

 なので安めの厚手の布の絨毯がほしかった。

 そして手拭い布。

 これは単純にアウモが汚すのを掃除するための布が、圧倒的に足りない。

 排泄は外でやる、という強いこだわりがあるらしく、扉を壊す勢いで出たがる。

 なので、外に穴を掘っておいて、そこに排泄させていた。

 ここで驚いたのだが妖精竜の排泄物は高濃度の魔石。

 踏ん張って、出たのが魔力の結晶で初めて見た時は俺もフェリツェも硬直した。

 なお、それは集めて魔導師団に調査をお願いしている。

 これにより普通の汚物を排泄する魔物のドラゴンと、妖精竜とその眷属の違いが明確となった。

 だがやはり外でやる、という強い意志により体が汚れてしまう。

 お風呂に入れてフェリツェが体を洗ってやると、それはもう……暴れる。

 フェリツェの体を引っ掻いたり、爪で傷ができたりはしないらしいのだが濡れたまま飛び出したりして部屋は思い出すも無惨な姿に……。

 なので、手拭い布がとにかく大量に、ほしい。

 あとはアウモの食べるもの、だろうか。

 いろいろな果物を試したが、アウモのお気に召すものがない。

 食べたものが魔力の物質化したもの――魔石だったことから、もしかしたら魔石を好むのでは……と、魔導師団長の言である。

 それを試してみたいので、魔石を買ってきて食べさせてみようか、という話があった。



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