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本物の竜?


 そうと決まればと、騒ぎ続けるアウモを連れて南の森の塔に移動した。

 森を見渡せる塔は、ここから一キロほど先の森の中に小城ができるまでは要塞の役割を担っていた場所だ。

 螺旋階段を登ることなく入り口からすぐ横の管理人室に入る。

 上の方は騎士の詰め所や仮眠室、倉庫があるけれど、生活するのにわざわざ階段を登る必要はない。

 管理人室の中は寮部屋と同じく簡易キッチンもあるし、なんなら寮部屋より広くて、左の壁には風呂トイレ。

 隣室は寝室。

 しかも一部屋分のクローゼットつき。

 こんな見張り用の塔になんでこんなでかいクローゼットが必要なんだよ、と思うけれど、まあ騎士団の上の方の人たちは普通に伯爵家や侯爵家のお偉方。

 万が一、なんかの間違いでそんなお偉方がここに泊まることになるのを想定して、管理人室は豪華に造られているらしい。

 こんな俺がこんな広い部屋に住んでいいのかなあ、と恐縮してしまうが、そんなことを気にしている場合ではなかった。

 パウパウ騒ぐアウモを見たセラフに「ご飯あげた?」と聞かれてハッとする。

 まだなら、とセラフから貰った「これを食べさせておけば大丈夫」と太鼓判を押されたモウモという果物を切って木皿に盛って口に運ぶと、アウモは匂いに反応してむしゃぶりついた。

 ものすごい食いつき。

 はあ、お腹空いてたんだな。

 

「フェリツェ、どう? 食べた?」

「あ、セラフ。ありがとう。食べてくれたよ~」

「それはよかった。……んだけど……ちょっとその子、よく見せてくれる?」

「うん?」

 

 がつがつとモウモの実を食べるアウモをまじまじと眺めると、セラフの表情はどんどん険しくなっていく。

 え? なに? アウモってなにかおかしいの?

 

「この子……本物の竜じゃない?」

「なに言ってんの?」

「いや、言葉がおかしい自覚はあるけれど、竜種って自然を司る四体の妖精竜とその眷属のみ。魔物のドラゴンは基本すべて進化したトカゲ。でもこの子には竜角(りゅうかく)と五本の指がある。ほら、これ」

「おんん?」

 

 セラフに指差された部分を見る。

 頭の頂点部分に小さな角が二本、あるな?

 

「これが竜角。進化したトカゲ――俺のシャララみたいな“ドラゴン”に角はない。あと、指の数。トカゲドラゴンと正真正銘のドラゴンはこの頭の(ツノ)と、五本目の指の有無が判別基準。つまりこの子、妖精竜の眷属なのかも……」

「え、あ、え、ええと……それって、えーと……なにか、まずいの?」

『パアウウ』

「あ、食べ終わった?」

『パアゥウウウ!』

 

 ニコー! っと笑って大口を開けて鳴くから、まるで意思疎通できているみたいで可愛い。

 果汁まみれの口をタオルで拭ってやると、五本の指を俺の手首に絡めてきた。

 

「あったかい」

「ね。あったかいよね。竜って」

「うん。見た目は冷たそうなのにね」

 

 抱き上げると、ギャオパォン、と俺の頬に擦り寄ってくる。

 しかし、セラフの表情はちっとも明るくならない。

 不安が掻き立てられる。

 

「セラフ? やっぱり竜の眷属だとなんか、その……まずいの?」

「うーん……いや、俺も本物のドラゴンを見るのが初めてだから、もし本当に育てるのならドラゴンについてもっと詳しい人……たとえば龍人族(ドラゴニュート)のマラフェ部隊長や妖精竜を信仰しているエルフ族の魔道師団長、シャルル・レイレルド様に話を聞いてみた方がいいかもしれない」

「それは、また……話しかけるのも躊躇する人々……」

「フェリツェは平民出身だもんなぁ。あ、エリウスに仲介して貰えばいいんじゃないか? 俺も騎士爵三代目だから、あの辺の人たちに話しかけるのは無理」

「う……わ、わかった」

 

 セラフにそこまで頼りきりにもなれないもんな。

 でもまさかアウモが本物の竜だなんて。

 いや、でも――

 

「アウモが本物の竜だと、なんかまずいの?」

「えっと、そもそも本物の竜って自然を司る妖精竜とその眷属のみって言ったでしょ? 妖精竜は言わば自然の神なの。その眷属ってことは亜人・魔人より格上の上位存在。倒す対象ではなく、祈りを捧げる対象だ。国王より偉いって言えばわかりやすい?」

「エッ」

 

 国王陛下よりも、偉い!?そそそそそんなにすごい存在!?

 驚いていると扉がノックされる。

 

「フェリツェ、こっちにいるって聞いたんだけれど」

「エリウス!」

『ゥパーゥ!』

「入るよ?」

 

 多分、寮にいなかったからだろう。

 わざわざ寮の騎士たちに聞いて、ここまできたであろうエリウスが部屋に入ってきた。

 片手にはトレイ。

 トレイの上には多分食堂から持ってきてくれただろう、湯気の立つスープとパン、サラダとコーヒー。

 スープの香りに自分の腹がぐううぅ、と鳴る。

 

「やば、俺もお腹減って来た。ちょうどいいや、エリウス、この子多分本物の竜。妖精竜の眷属だと思うから、マラフェ部隊長やシャルル魔導士団長に繋いであげて。じゃ」

「え? わ、わかった。……え? 本物の竜……!?」

 

 シャララのご飯も食べさせなきゃ、と言いながら、セラフがエリウスと入れ替わりで出て行ってしまった。

 外を見ると完全に太陽が昇っている。

 朝ご飯、俺が食べてない。

 

「よくわからないけれど、先に朝食を食べたら?」

「ありがとう」

『パウパウゥッ』

「ほら、こっちにおいで。……えっと、この子、あの卵から生まれてきたんだよね?」

「そう。アウモって名前をつけたんだけど」

「そうなんだ。いい名前だね、俺はエリウスだよ。よろしくね、アウモ」

『パォウウ』

 

 エリウスにアウモを見てもらいながら、今日からここに住むことやアウモについて調べようと思っていることを相談しながら食事をした。

 寝室の方はまだ見ていないが、月に一度掃除しにきた時ベッドやシーツなどがかなり痛んでいたので買い替えに行きたい。

 今後の生活の拠点をこちらに移し、この子を育てながら騎士としての任務もこなしていかなければならないから……。

 

「その……こんなこと言うと図々しいって、思うかもしれないんだけれど……できればエリウスに色々協力してもらえたらッて、思っているんだけれど…………」

「うん! もちろんなんでも協力するよ。なんでも頼ってほしい」

 

 むしろ食い気味にそう言ってもらえて、自分の胸がスッと軽くなったのを感じた。

 自分の考え不足を実感したばかりだから、味方ができて安心してしまったんだと思う。



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