これからの話をしよう
翌日、マリクや研究者たちが荷物をまとめてくれておいたおかげで俺とエリウス、アウモは一足先に王都に帰郷することになった。
が――
「はあああ……」
「エリウスー、大丈夫かー?」
「大丈夫かー?」
「だ、だいじょぶじゃないいぃぃ……」
俺とエリウスは相乗り馬車の狭い荷台に隣同士に寝かされ、出発する。
さっきから情けのないか細い声がずっと聞こえてくるんだが、どうやらエリウスの持つ自然魔力回復装置の対価は“一時的な長時間魔力切れ”だったらしい。
先天性の魔力なしの俺にはわからないが、魔力切れっていうのは魔力のある人間にとって信じられないほど苦痛に苛まれるものなんだとか。
実際エリウスはさっきからずっとか細い悲鳴を漏らし続けている。
申し訳ないがうるせえ……。
「どんな感じなんだ? 魔力切れ」
「寒い……」
「熱が出てる感じ?」
「暑い……」
「熱があるってこと?」
「体中痛い……」
「熱が出てるんだな?」
「眩暈が、世界が、回ってて……うえ……っ吐きそう……」
「ここで吐くのはやめてほしいんだが」
ずっと真横で布団に包まれ、真っ青な顔でガタガタ震えているエリウスが可哀想すぎる。
申し訳ないが、俺にはどうしてやることもできない。
話しかけて、返事をさせるのもしんどそうだし、しばらくは黙って見守っていようかな?
「ううううう……うううううう……」
「仕方ないのう」
「アウモ、なんとかなるのか?」
「自然魔力回復装置とやらをまずは外す」
「え? 装着したままだったのか?」
俺にはどれがその回復装置ってやつなのかわからん。
って思ったらアウモはエリウスの右腕を持ち上げ、腕輪を外した。
あの腕輪がそうだったんだ?
「ど、どうして外せるの……! 俺の体の魔力回復速度を上昇させるものだから、特別な器具なしでは外せないって父上とマロネスさんに言われたのに……!」
「この程度の魔術具、魔力の流れを変えれば簡単に外せるぞぅ。我、風の妖精竜だからな」
「へえ……」
俺にはわからないが、すごいらしい。
エリウスがフラフラしながら上半身を起こすほど一気に回復した。
すごいなぁ。
「だが、一度空になった魔力は眠らないと戻ってこないから、エリウスは寝るべき」
「だってさ、エリウス」
「う……眩暈がすごくてとても寝られそうにないよ……」
「頑張って寝ろ」
アウモに言われて再び横たわるエリウス。
その弱った表情がちょっとだけ可愛い。
つい「ふふ」と笑ってしまったのを、エリウスにはじとりと睨まれてしまった。
やばいやばい。話を逸らそう。
「なあ、一応さ、えっとつき合うことになったことだし、一緒に住まん?」
「は――え?」
「アウモの成長がその……よくわからなかったから、騒音のこともあるし、見張り塔に引っ越したけどさ、今はもうそんなこともないだろう? アウモ、記憶も取り戻したし、人の姿にも自由になれるようになってるし。だから、帰って元気になったら寮に戻ろうかな、とかちょっと考えてたんだけど……エリウスと、その……結婚前提につき合っていくのなら、一緒に住んだ方が、いいのかなって」
まあ、これは話を逸らす目的ではなく普通に思っていたことだけれど。
でも俺一人で決めることではないし、アウモとエリウスにも相談すべきことだろう?
ちらり、と隣を見たら急に右手が温かい手に包まれた。
エリウスの手。
「うん……うん! 一緒に、住もう! そうだね、どこがいいだろう? お互い、回復したら物件を探しにいくところからだよね。騎士舎に近いところに家族がいる騎士向けの物件がたくさんあったはずだから、その中から探そう。一人一部屋、かな? それとも、寝室は一緒で、アウモは一人部屋とか? 風呂とトイレはやっぱり別がいいよね。南向きで、庭もある方がいい?」
「ああ、そうだな。遠征もあるし、一人一部屋がいいかも。っていうか、エリウス、だいぶ楽になってるな?」
「ああ、そういえば……うん。ありがとう、アウモ」
「ふふん」
ドヤ顔のアウモが可愛い。
ガタン、と大きな石を車輪が踏んだせいで、盛大に体が跳ねる。
ちょっと考えられないぐらい体が浮いた。
ちょ、俺、腹に穴空いてる……!
無理やり塞いでる状態だぞ……!? ヤバ……っ!
「大丈夫?」
「あ……ありがとう……」
背中に腕を入れて、エリウスが俺の体を抱き寄せてクッション代わりになってくれた。
やばい、一気に顔と体が……熱くなってくる。
「なあ、エリウス」
「うん? なに?」
「いや、その……とりあえず元気になってからだけど……元気になったら……ちゃんと、色々したいな」
意味が通じるかはわからないけれど、通じなくてもいい。
隣にアウモがいるし。
でも、伝わったら嬉しいな。
そんなことを思いながら、胸に顔を埋めながら言うとエリウスの心音が派手に跳ねたのが聞こえた。
「そ……そういうこと今言わないでよ……反応しちゃう」
「ご、ごめん」
顔をもう片方の腕で覆い隠しながら言うエリウスの心臓の音がずっとうるさい。
通じてしまうのがまたなんとも恥ずかしい。
ま、まずは家。
一緒に住む、家!
「仲良しだのう〜」
「「っ………………」」
終




