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アウモの変化(3)


 はた、とその呟きを聞いて本日の目標を思い出す。

 やばい、フェリツェに俺と結婚してっていうタイミングが……! 完全に今じゃないし……いつだ!?

 

「おはよう、二人とも。それと……うわ、本当にアウモが人間みたいな姿じゃん……!? どうなっているんだそれ」

「俺たちにもわからない。ただ、めちゃくちゃ食べるようになっちゃって……」

「食べるって、風の魔石を?」

「そうなんだ。二週間分のつもりで買ってきた風の魔石を、朝全部食べてしまったんだよ」


 マリクとディックも他の騎士たち同様に人の姿になったアウモを覗き込む。

 途端にアウモからグウウウウウ……という音が腹から聞こえてきた。

 真っ青になる俺とフェリツェ。


「う……嘘だろ! さっき食べたばっかりなのに……!」

「ア、アウモ……お腹空いたの?」

「ぱぉぅあ!」


 こくり、と強く頷くアウモ。

 現実逃避的に「わあ、完全にこちらの言っていることを理解しているね」と呟くが、それどころじゃない。

 朝あれだけ食べたのに、もうお腹が空いただなんて。


「完全に魔力不足なんだらうね」

「「セラフ」」


 おはよう、と爽やかに現れたセラフに、縋るような視線を送ってしまう。

 いや、待て。魔力不足?

 

「そうか……アウモは俺たちの知っている“竜”じゃなくて本物の、正真正銘の……竜。自然の具現化。――もしかして、アウモは魔力の塊、なのか? でも……」


 俺とて魔法を使う。

 アウモの体からは、一切魔力を感じない。

 だが逆に言えば朝、あれだけ魔石を食べたのに、魔力を感じないのはおかしくないか?

 それなのに魔力不足?

 セラフは「おそらくだけど」と前置きをして推論を述べる。


「妖精竜として進化し続けるために、膨大な魔力が必要なのではないだろうか。しかも、アウモは『風の妖精竜クロースカイウィンド』様の転生体だ。妖精竜に足りえる、風の魔力(・・・・)を欲してしまうのでは」

「風の魔力だけ(・・)をか……それは……キツイな」

「うん。俺の相棒シャルルや親族にエルフや獣人がいるんだけれど、料理を食べて魔力を回復すると言っていた。俺たちと同じ食事を摂ることで、魔力の回復を図ることももしかしたらできるかもしれないけれど、魔石を直接食べているアウモにとっては料理から魔力を摂取するのは効率が悪いのではないだろうか?」

 

 そうか……この幼い姿でもアウモは神に戻るべく日々進化している。

 セラフの仮説は、多分正しい。

 俺が魔力を感じられないほどに、アウモの魔力量は多すぎるのだ。

 怖すぎるな。

 だが、それでこそ神、とも思う。


「ええ……それってどうしたらいいんだ? 城の風の魔力も、もしかして足りない?」

「まったく足りないと思う」


 首を横に振るセラフに、フェリツェが顔を青くしながら俺を見上げてくる。

 俺も可哀想可愛いと思いつつ、こくり、と頷く。

 相手は神だ。

 国を上げて風の魔石を提供するのは構わないだろうけれど、この様子ではもしかしたら俺やフェリツェの寿命が尽きてもアウモは幼体のままかもしれない……。


「はぁー、大変だなぁー。そんならさ、魔物を食わせるのが一番手っ取り早いかもな! 物理的にも、魔力的にも補充ができる」


 なぁーんて、と笑うマリクに、俺とセラフは顔を上げる。

 俺たちが余程すごい顔をしていたせいなのか、マリクには「え、な、なに……」と軽く睨まれた。


「それがいいかも。魔物も減るし、近くアウモの卵が流れてきた地域にまた掃討遠征の予定があるし、無理を言って早めてもらうか」

「アウモに魔物を食べさせろっていうのか!? 冗談だろう!?」

「なにかダメなの? 魔物肉なんて普通に市場に出回っているじゃないか」

「そ……それは、そうだけど……っ」


 フェリツェの拒否反応は俺もよくわかる。

 生活のほとんどを共にしていると、この子が倒した魔物を貪り食う姿は想像するのも……っ。


「別に生肉をそのまま食べさせるわけではないのだから、落ち着いて、フェリツェ」

「あ……う……そ、それは、そ……それもそうか……」

「現地で血抜きして調理を行えばいいだけだよ。ただ、風属性の魔物以外も食べられるのかどうか。風属性に制限があると、一定の地域に限られてしまうよね」

「あ、そ、そうかぁ……!」

「ぱぁうーううー」


 アウモの不満げな声。

 そして、再びお腹からギュルグググググググ……というかなり大きく長い音。

 可愛い顔、つぶらな瞳でフェリツェを見上げて食事をねだる。

 フェリツェがわかりやすく「うう……」とその目にやられそう。

 いや、わかる。可愛いもんね。普通に。

 パッと見る男の子にも女の子にも見える容姿で、しかもキュルキュルな大きな瞳。

 小さな子にそんな顔で見上げられたら、孤児院で“お兄ちゃん”をやっていたフェリツェには堪らないだろう。

 お腹を鳴らす幼児にあんな顔をされたら、そりゃ、俺だって……!


「と、とりあえずなにか食べさせてくる……! 食堂に行けばなにかあるかな?」

「待って、フェリツェ。俺が一緒に行くから、城の方に行こう。マロネスさんが風の魔石をかき集めて持ってきてくれているはずだから、途中で合流しよう」

「あ、そうか! うん、わかった。みんなごめん。俺、アウモになにか食べさせてくる」

「おー、行ってこい行ってこい。騎士団としてもアウモ――妖精竜様の生育第一って指令が出てるからな。気をつけて行けよ」

「ありがとう!」



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