兄弟喧嘩戦争。
「ねぇウミ。最近ソラに逢ってない。」
「ん、あぁそういや。だって国が違ぇんだもん、しゃーねぇじゃん。」
「言うても今まだ、休戦中ってだけやしなぁ。一応戦争続いてんで。」
「えーでも、家族じゃん兄弟じゃん!たった一人の肉親に逢えないなんてねぇ。」
4人で集まって話してた時だった。
ソラのことを真っ先に切り出したのはマキ。
マキは昔、ずっとソラと俺にべったりだったから、ソラが居ないのはやはり寂しいらしい。
前髪をいじくりながら、ちらりとこっちを見て言ったのである。
「別に俺はねぇ、あいつが元気だったら良いんだし。」
「逢ってもないのに、元気だとか分かる、ウミ?」
軽く流して、次の話題にさっさと切り替えようと思っていた。
だがマキはじっとこちらを睨んだ。
また次に、こう口を開いた。
「ウミ、今度ソラに逢いに行こう。きっとソラもウミに逢いたいに違いない。」
「あっいいね。あたしソレ賛成。ソラくんに逢いたいし。ウミくんは逢いたくないの?」
マキの提案にアズマが威勢良く同意した。
どうやら困ったことになりそうなことが、よく分かった。
「いや、逢いたくねぇわけねぇよ。」
逢いたくないわけじゃ、ない。
だが逢いたいとも思えない。
『俺さ、もうウミより強いぜ?』
前に、ソラがそう話しかけてきた。
俺は晩飯の用意をしていたし、ソラはソラで本を読んでいた時だ。
突然に、台所に立つ俺の背後に立ち、こう言ったのだ。
『後方だって近接だって、ウミに勝ってやる。
俺はクルマキから出て行くことになったけどさ、そん時は心配しなくて良いよ。
・・・いや、心配になったらさ戦争仕掛けて来いよ。マキたちと一緒にさ。
いつだって相手になって、んで、いつだって勝ってやる、絶対に。』
今でも忘れられないのは、俺に対しての刺々しい言葉と、蔑むようなあの目つき。
だけど目つきとは裏腹にソラの表情はとても誠実な、強い表情だった。
力に誠実になった弟の、ソラの、ぎらぎらした、ざらついた、獣の姿。
出て行ったきり、ソラはクルマキに帰ることは出来なくなった。
ソラの行った国、マツカゲの『偉いところ』に彼は居るらしい。
帰って来る気なんて最初からひとつも無いんだろう。
そして、俺やマキ、アズマやカナエにも逢いたいとは思っていない。
アイツにはアイツの日常が芽生え、今ではソレが当たり前となっているんだから。
わざわざ逢いに行くほど、ウミとソラの兄弟は仲良しとは言えない。
もとより仲が悪かったのではない。
あの時ソラの言った言葉が、俺とアイツを隔てている。
そうだ、逢いたくないわけでは、ない。
だが逢いたいと思えるような、兄弟としての、決定的なモノが抜けてしまった。
ウミとソラ兄弟から欠けてしまった。
絆とか、そういう安い言葉で表すモノじゃなくて。
もっと肉親でないと持ち合わせないような、もっと、無償のモノが。
アイツは絶対に逢いたがっちゃあいない。
そして俺も逢いたくはない。
「逢いたくねぇわけじゃねぇ、のに逢いたくない顔してるな?」
マキが再び、じっと見つめる。
「別に俺は・・・。大体、この戦争中にだなぁ」
「戦争中に片方に逢いに行っちゃいけないなんて、あたし、理不尽だと思うね。」
アズマはつまらない顔をする。
「いくら血ぃつながってるからって、アイツが好んで出て行ったんだ。」
カナエは・・・何も言わなかった。
苦々しく笑って、こっちを見ているだけだ。
「じゃ、・・・ない。」
マキがボソボソと、何か言った。
口の中で不鮮明に声は消えた。
「じゃ、しょうがない。」
「おい・・・しょうがないって何が、」
焦る。
どうやらまた、嫌な予感がする。
「マツカゲに戦争を仕掛ける。」
やはりだった。
こうなったら聞かないのがマキである。
ウチの女性陣は肝が据わっており、こういうのはかなり思い切ってしまう。
だが、こうなるのは分かっていたのだ。
一応決心もしておいた。
「・・・・・・マキ、それで本当に良いんだな?」
マキは、うん、と言わない代わりにこくんと頷く。
「だがな、そんな簡単にマツカゲを落とせると思う?
あっこは結構な大国だ、俺らみたいので勝てると思う?
わが国の軍事費はごくごくわずかで、ほら、全てが物語ってる。
何しろウチの国は軍事国家じゃないんだよ、俺らがガンガン喧嘩強いだけ。
ソレ以外は、そりゃあもう大したことねぇんだよ。
勝つ負けるどころじゃねぇ、マツカゲに辿り着く前にそこいらの国に滅ぼされちまう。
ソレでも仕掛けるか、マツカゲに戦争?」
まくし立てると、マキもアズマもすっかり黙り込んだ。
「・・・んで、全てには段取りが必要。
戦術よりも戦略、要は知略。
真っ向から挑んで倒せる相手ではない。
だからな、他から落として行こう、そう思わないか?」
カナエは再び、俺を見た。
その表情はさっきと同じで、苦笑していた。
最後には乗って来やがったよ、コイツは本気で勝ちに行くのか、というような。
だが構わない。
初めに言ったのはマキである。
俺にここまで言わせる原因を放ったのはマキだ。
やるからには徹底的にやってやろう。
マキがまた、こくんと頷く。
アズマはすでにやる気を見せ、にやりと笑う。
さて、どうやってのめしてやろう。
そう考えると、ついクセでぺろりと舌なめずりした。
ソレが戦争の理由。
ただの兄弟関係のもつれ、とも言える。
だがコレは、この戦争は、戦争ではない。
国を巻き込んだ、大規模な『兄弟喧嘩』。
ある意味ただの喧嘩で、ただの喧嘩でなく戦争である。




