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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第87話 智優の悩み、赤城の恩返し

――烏丸山の麓の拓けた場所


 有栖川重工業が所有する大型の輸送ヘリが着陸している。ヘリから降りた作業員たちは大破した量産型アズの残骸を回収作業に忙しく、目まぐるしい動きだ。


 一体、また一体とバラバラになったアンドロイドのパーツを回収していくが、元は少女の形を無惨な姿は痛ましい。回収作業の横で鈴偶りんぐう智優ちゆ有栖川ありすがわ藍銅あずが見守っている。


 アンドロイドに感情があるのかと問われると「無い」というのが答えらしい。ただプログラムに従い感情があるかのように振る舞うことはできるようだ。例え真実がそうだったとしても破壊された妹たちの姿を見つめる藍銅からは悲しみを感じざるを得なかった。


「元気だしなよ、藍銅ちゃん!きっと博士が直してくれるよ」

「私たちは戦うために生まれてきたのだから戦って壊れるのは本懐ダヨ。智優ちゃんは優しいネ!」


 まるで人間のような表情で微笑みを浮かべるアンドロイドから人間以上の人間らしさを感じるのだった。



 どこかで見たような黒猫が通り過ぎる。

 ぼーっとしている智優のことを横目で見ると鼻で笑うようにニャンと鳴き通り過ぎていく。


「あ!ロムじゃん!おーい、ロム。どこ行くの〜」


 智優の声掛けを無視するようにスタスタと消えていった。


「アイタタタ。いい年して無理するもんじゃねーなー」

「赤城少佐、大丈夫デスカ?もう少しで合流ポイントデス」


 懐かしい声の響きにはっとして声のする方を確かめる。量産型アズの12番目の機体、トゥエルブに肩を借り、身体を引き摺るように歩みを進める大男、赤城少佐だ!


「あ、赤城おじさん、無事だったんだね!!」

「おーう、余裕余裕!少年も無事で何より、ってさっきのキワドい衣装は止めちまったのか?さすがに恥ずかしいよなー。がっはっは!」

「私は少女だし、魔法少女のコスチュームは……、キワドいじゃなくて可愛いの!!心配して損した!!うがーーー!!」


 顔を真赤にして反論をまくし立てる智優の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる赤城少佐。藍銅とトゥエルブは呆れ顔で苦笑いしながら二人のやり取りを見守っている。


「ただいま、姉サン……」

「ウン、ご苦労サマ!」

「ワタシ、頑張ったヨ……」


 そう云うとトゥエルブは糸が切れた人形のようにその場に崩れ落ちた。無理な稼働でバッテリが上がったのだろう。無事に戻れれば大丈夫。充電すれば再び動けるだろう。姉の労いは再起動までおあずけ。


 4人がそんなやり取りをしていると有栖川セキュリティサービス(通称ASS)の対異形係のメンバーも下山して合流するのだった。


「少佐!ご無事でしたか!?」

「ああ、この通り。また生き延びてしまったよ」

「落盤に巻き込まれたと聞いた時にはもうダメかと思いましたよ」

「俺もダメだと思った。覚悟をしたその時にこの子が助けに来てくれたのさ」


 急に背中を押されてビックリする智優。ASSメンバーに注目されて気恥ずかしそうに俯いてしまう。


「もしや敵の親玉を倒したのもその子なのですかな?綺麗な羽を生やした天使のような子が上空に上がっていくのが見えましたが」

「まあ、そうなるな」

「しーーーっ!おじさんたち、秘密だからね!!」

「秘密??」

「私が魔法少女だってことだよ!」

「ん?少女っていうより魔法少ね……」


 加賀チーフが皆まで云う前に智優が繰り出した金的が下半身プロテクタの真ん中にクリティカルヒットする!衝撃が抑えられたが無効にはできないらしい。加賀は両膝をついて前のめりになって倒れてしまった。


「魔法少女だかんね!ぷんぷん!!」


 おっさん’sの豪快な笑い声が響くのだった。




 量産型アズの残骸回収が終わり藍銅、トゥエルブ、ASSメンバーも輸送ヘリに搭乗した。だが赤城少佐は智優とともに残り、輸送ヘリに向かって手を振っている。傍には輸送ヘリに積載していた軍用車両が停めてある。


 半ば家出のように姿をくらました智優をなるべく自然な形で帰宅させるために、自衛隊が保護したという体裁を取る狙いだ。


「少佐!先に始めてます!お早い到着を!」

「おう!練習し過ぎで潰れるんじゃねーぞ!」

「ご冗談を!ビールで酔うようなヘタレはいませんぜ!」


 蒼龍の顔色が青いようだが気のせいだろう。飲みニケーションを頑張れ、新人!


 ハッチを閉じた輸送ヘリがゆっくりと浮上する。凄まじい轟音を立てて小型ジェットエンジンが稼働するとあっという間に空の彼方へ消えていった。


 赤城はタバコの煙を吐き出しながら智優に問いかける。


「行くか」

「う、うん……」


 先ほどまでの元気が無い智優を不思議に思いながら吸いかけのタバコを地面に落としブーツで踏み消すのだった。



 軍用車両の助手席に座った智優は大人しく外を眺めている。無骨な軍人でもさすがに少女の異変に気付いてしまう。ハンドルを握る手に力が入るたびに円形の金属がミシミシと音を立てる。これ以上握ると壊してしまう!ハッとして力を緩める。そんなことを繰り返しながら自然に溢れた風景は徐々に文明を感じる殺風景な風景に変わっていった。


 沈黙に耐えかねて声を掛ける。


「なあ、塞いでいるようだが問題でもあるのか?家に帰って温かい飯が食べられるんだぞ。お父さん、お母さんの顔を見れば安心するだろ」

「……あのね」

「うん」

「どうしよっかな。まあ良いか。あのね、赤城おじさん。私、お父さんとケンカしてるの。だから家に帰りたくないの。きっと不在にしたことだって怒られるし」

「多少はな。でも俺が説明すれば納得してくれるんじゃないのか?」

「赤城おじさんの話だったら聞いてくれるかも。でも私の話は……」


 智優の目には薄っすらと涙が浮かんでいた。獅子奮迅の活躍で異形の鬼を退治する少女にも悩みがあるのだと赤城は実感する。


 次の言葉が見つからないまま風景は流れていく。赤城は所帯を持ったことも、まして子供を持ったこともない。幼少の頃の記憶を手繰っても親らしい振る舞いなぞ思い浮かばない。


 だからこそ考える。横にいる命の恩人に対して俺は何ができるのだろうか?俺が親だったらどう振る舞うべきなのだろうか?考えても考えても答えは見つからない。


 市街地に入ると緊急避難が解除されて帰宅する途中の市民が目立つようになってきた。この分だと鈴偶家の両親も帰宅しているのかもしれない。何かできることはないか?何か?


 やがて車は鈴偶家の前に到着する。智優は力無く車を降りる。それに付き添うように赤城も車両を降りようとする。さてどうしたものか?そんなことを考えていると……


「智優!どこに行ってたんだ!!」


 父親らしき男の大声が聞こえると智優の身体がビクリと硬直する。


「あ、あのねパパ、聞いて……」

「緊急事態だというのにほっつき歩いて。母さんも私もどれだけ心配したと思っているんだ!」

「だから聞いて欲しい……」

「言い訳なら聞かないぞ!」


 乱暴に智優の腕を掴み、家の中に連れ込もうとする。


 がしっ


「な!誰だ、君は?ぐ、痛たたたた」


 赤城の身体は自然と動いた。智優の父親の腕を掴むと折れんばかりの力で締め上げた。痛みのあまり智優の手を離してしまう。


「これは失礼。お嬢さんを保護していた者です。緊急事態でしたので我々が設営した安全な場所に避難しておりました」

「く!離せ!痛いじゃないか!」



「重ねて失礼ですが、お嬢さんと良く会話をされた方が良いですよ。色々あると思いますが、あなたはお嬢さんとの会話から逃げておられるようだ。お嬢さんは大人に変わりつつある立派な女性ですよ」



「…………」


 玄関前の騒ぎを聞きつけた中学生らしき少年が大声を上げて家から飛び出してくる。


「くそ親父!話がこじれるから黙ってろっつうの!!おっ、智優。元気そうじゃん」


 少年に手を引かれて家に入る途中、智優は一瞬振り返って何かを呟いたように見えた。


 口の動きは……


「ありがとう、おじちゃん」


 最後にウィンクすると玄関の扉が閉まって家人は見えなくなった。


 赤城はため息をつきながら車のキーを回す。

 アクセルを踏み、鈴偶家から離れていった。


 カーラジオを付けると緊急避難宣言の解除と今回の対応を正当化する説明が延々と流れていた。


「やれやれ。父親ってのも大変だなぁ……」


 父娘の関係正常化を祈りながら、咥えタバコにシガーライターを押し付けて紫煙を吸い込むのだった。


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