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演算魔法少女☆ロジカル・シフォン  作者: いくま
第4章 さよなら魔法少女
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第86話 演算魔法『リライト☆ライト』

――烏丸山山頂の大岩


 英霊は大岩の上で倒れていた。


 『鬼恋丸榛綱おにこいまるはるつな』が胴を貫き、大岩に刺さっている。傷から魔力が溢れ出て止まらず、徐々に弱っているようだ。


 英霊は空を見つめる。

 雨の雫が顔を濡らしていく。

 視界が滲むのは雨のせいだけではないようだ。


「最後が御神体の上とは皮肉なものだ。やれやれ何度繰り返しても儂には幸せな結末なぞないのだな?」

<もう頭は冷えたのか?儂よ?>

「はっはっは!冷えた冷えた!不甲斐なさにドン引きよ!!ぐ、がはぁっ!」

<あまり喋るなよ。もう残りの力が少ないぞ。楓に言い残したことがあるのだろう?>

「あれは楓ではないよ。シフォン。ロジカル・シフォン殿さ」

<かっかっか!分かっておるよ、儂よ>


 光る羽が舞い落ちてくる。


 掴もうと手を伸ばすと触れた瞬間に砂のように散り消えていく。美しいものは美しい。かつて恋した少女、楓御前のことを思い出した。


 空の上には美しい少女がいた。


 泣いているのだろうか?しきりに目を擦っている。他者に流す涙の美しさがシフォンを楓と錯覚させたのだろうか。



「し、詩芙音ちゃん!英霊って梅月さんだった。どうしよう!友だちなの!どうしたら助けられるの!?どうしたら??」

<落ち着いて、シフォン。あなたならできるわ。だってあなたは『演算魔法少女ロジカル・シフォン』じゃない!>

「えぐえぐ……。で、できるかな?私だったら助けられるかな??」

<もちのローン!!ちょっと待ってね〜>


 シフォンが英霊の手を取ると力なく笑う。目の前のシフォンではない別の何かを見て微笑んでいるようだ。魔力が失われるにつれてどんどんと存在が希薄になっていく。時間がない!焦る気持ちは募るばかり。詩芙音の解決策はまだか!?


 ふいに突風がふき、シフォンの顔に雨粒が当たる。だが英霊以上の冷たさは感じなかった。



<うん、閃いた!演算魔法で『アカシックレコード』を修正しちゃおう>

「え?『アカシックレコード』って何??」

<うーん、何て説明したら良いかな〜。宇宙の始まりから全ての事象が記録された世界記憶って云えば伝わるかな?>

「私、馬鹿だから分からないんだけど、何処かに昔からの記録が残っているってことかな??」

<おっ、いいね!まあそんなイメージで当たらずとも遠からずってところかな>

「で、『アカシックレコード』を書き換えるとどうなるのかな?」

<英霊の物語をハピエンに書き換えちゃえば、英霊そのものが無くなり、現代の『噂』になることは無くなるんじゃないかな〜>

「あ、相変わらず凄いアイデアをぶっ込むね!」

<あー、くれぐれもロムには内緒ね。あは☆>


 にゃふん!!


 赤城少佐とトゥエルブを連れて坑道を徘徊している黒猫がクシャミをしたかもしれない。


<じゃーあ、シフォン、準備は良い??>

「うん!いっくよー!!」


 0E 7A 78 4A FF FF 40 40 F1 F9 F7 F7 0F……


 英霊は輪郭を失いつつある。自分の内なる声も近くで独り言を呟く少女の声も分からなくなってきている。人智を超えた存在、噂から生まれた異形、そして鬼。どんなに姿を変えようとも自分という存在が消えていく時は痛みが生じる。物理的な痛みではないのだが、じわりと重く少しづつ潰されていくような痛みだ。


 先ほどまで泣いていた少女の顔が強い意思を帯びて輝いている。希望を持って何かを成し遂げようとしている者が持つ輝きだ。遠い昔、英霊に従い世の中を良くしようとした数多の者たちと同じ表情。


 やがて少女の周りには見たこともない数字や文字の羅列が現れ囲まれていく。そして天にかざした手の上には巨大な魔法陣が現れ、さらにその上には木の根のような線が伸び、幾重にも連なって目に見えない遥かな宇宙まで伸びている。


「いくよ詩芙音ちゃん!!」

<いつでもどーぞー>

「せーの!演算魔法『リライト☆ライト』」


 少女が叫ぶと魔法陣から光が溢れ出して烏丸山を包み込む。質量を失い、輪郭を失い、色彩を失う。何処までも続く真っ白な紙の上に立つような感覚。


 英霊が消える前に全ての記録が止まってしまった。



――平安時代の昔、新しい物語


 少女は鬼の亡骸を胸に抱き、山へ戻った。


 都を去る時に後ろから止められた気がしたが、鬼の亡骸を渡してはならない。

 そう思った少女は必死になって逃げた。


 少女は泣き続けた。

 来る日も来る日も泣き続けた。


 やがて鬼の下へ行こうと決心し、

 『榛綱』を手に取る。


 どくん、どくん!

 妖刀から確かに感じる鬼の鼓動。


 少女が強く念じると『榛綱』に封じられた鬼の妖力が溢れ出し、鬼の亡骸に吸い込まれていく。


 どんどん、どんどんと妖力は戻り、

 木乃伊のような亡骸は元の姿に戻っていく。


 やがて鬼は目を覚ます。

 少女は鬼に飛びつき泣きじゃくる。


 少女は命尽きるまで愛しき鬼と暮らした。

 都には戻らず、山の中でひっそりと二人で。



    『アカシックレコード』

   MemoryAdress:0x801F73EB

    書き換え(リライト)完了……



 全てが元に戻り、再びアカシックレコードの記録が始まった。



――再び烏丸山の頂上


 雨は止んでいた。


 頂上の大岩の上には水管装束が破れて上半身裸になった梅月が身体を擦りながら不思議そうな顔をしている。


 上空から原色鮮やかな色彩の少女が降りてくると、膝をついてグッタリした少年のような少女が微笑んでいた。二人は手を繋ぎくるくると回り始めた。


 一晩中鳴り響いていた銃声は既に聞こえず、硝煙の匂いも風に流されて薄らいできた。


 やがて遠くの空が白んできた。

 何も無かったかのように朝を迎えた。


 少女たちの笑い声が木霊す、平和な朝だった。


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